ヒロインを説得してみた。妥協は必要だよって
乙女ゲームは詳しくないので、某アトリエシリーズを参考にしました。
5/30 とうとう日刊ランキングでコメディー短編部門一位! ありがとうございます!
「あなた転生者でしょう!」
学園の中庭で、目をつり上げた美少女が私に指を突きつけてきた。
「ええ、そうですが何か」
「あなたのせいで逆ハーレムがうまく行かないのよ!」
あらあら、と私は困惑する。
「だって困ったお方を放っておくわけには行きませんから」
ある時私はここが前世の記憶でここがゲームと類似する世界だったことに気づく。
「え~っと私はヒロインに意地悪する悪役令嬢かしら」
別に意地悪する気はなかったけれど、ゲームの世界は楽しみたい。
そして今の私にはお嬢様としての資金力があった。
護衛をがっつり雇って、町の酒場とか武器屋とか町の外の泉とかにガンガンお出かけじゃ!
魔法学園の授業に必要な素材も道具も魔導書もそろえまくった! 親の金で!
魔導書を読むのは面倒くさかったし、乳鉢で薬草をごりごりすりつぶすのは面倒だったけど。
(ゲームの主人公は妖精さんに手伝ってもらっていたな)
妖精と令嬢がどう会えば良いのかは分からないけれど、我が家には使用人が山ほどいる。
基礎作業はメイドたちに任せちゃった。てへ♪
もちろんお給料は払っているからね、出来高制だけど。
そしてレアアイテムを作り出すのって楽しい♪
自分が調合した薬が感謝されるのは承認欲求が満たされてぞくぞくする。
「エリザ嬢、傷薬また作ってくれよ」
「エリザ殿の魔道具のおかげで窮地を脱することができた。本当に感謝している」
気がつけば私は周りのトラブルを解決していた。
イケメン達との仲も良好だ。
(これは‥ヒロインのイベントを横取りしちゃってる?)
多少の自覚と罪悪感はあるのだよ。
一年が経過すると、学園にめちゃくちゃ見覚えのある美少女が現れた。
観察していると彼女はピンポイントで攻略対象に話しかけている。
(ヒロインさん、多分転生者だよね‥)
あいさつしようか迷ったけれど、とりあえず攻略対象との交友関係を控えるだけに止めた。
彼女の性格を見極めてからでも良いと思ったから。
そして半年後。冒頭のシーンに戻る。
「悪役令嬢のくせに、生意気!」
「あらごめんあそばせ、しかしイベントは半分以上残っていますけれど」
「半分しかないじゃない! これじゃ騎士団長も元盗賊も落とせないんだから!」
私は小首をかしげた。
「ジュエリーさんはそのお二人が推しでしたの? 傭兵君や魔導士君ではなくて」
ゲームではどのキャラも人気だが、現実に接した場合ヒロインの身分では騎士団長はつり合わない。
ダークな雰囲気が人気だった元盗賊も、現実世界ではただの重犯罪者だし、私はお断りだ。顔もこわい。
この二人と近づくにはそれなりの強さや装備が必要だから、イベントをこなすのは必須。
もしどちらかとくっつきたかったのなら、彼女の怒りはもっともである。
「二人たりなかったら全員コンプリートできないでしょ」
あ、違ったようね。
「ええと、お慕いする方は一名に絞られた方がよろしくてよ」
私は説得を試みる。
「大体、逆ハーなんて現実世界で行ったらただの浮気ですよ。四股とか五股とか最低じゃありませんか、何が良いのでしょう」
「ゲームの世界に転生したら、逆ハーしたいじゃない!」
ダメだこいつ。
私はため息をついた。
「つまりあなたは転生したのがポケ〇ンの世界だったら、ポ〇モンマスターを目指すのですね」
「は?」
ヒロインがポカンと口を開いた。
「ゲームの世界に転生したら『その世界での一番』になりたいんでしょうから、そう言うことよね」
「べ、別にそれは」
ヒロインは口をはくはくさせている。
「それでも、異世界では映画館限定イベントのは手に入りませんよ。μとか無理ですわ」
「‥このゲームは〇ケモンじゃないから大丈夫だもん」
ヒロインさんやっと反論できたようね。
「は、ジュエリーさんは例えばド〇クエみたいなRPGに転生したら、レベルをマックスまで上げるために延々とレベル上げするのですか? 早く世界を救った方が良いと思いますが‥」
「そんなことしないもん」
あ、ヒロイン涙目。
「別に逆ハーをねらわなくても、宮廷魔術師エンドや伝説の錬金術師エンドだってありますのに」
あのゲームは、そこまで恋愛特化型ではなかった。
お仕事を究めれば、恋人に見守られながら社会的成功も得られるのだ。
「だって‥探索に行くと野宿しないといけないじゃん‥」
私は納得した。
確かに私も野宿はいや。トイレはないし虫はいる。
「それに‥ゲームだったら序盤からお金かせげるのに、こっちじゃ全然だし」
それも分かる。
『近くの森で摘んできた草をただきざんで井戸水で煮だしただけの汁』なんて代物に、銀貨を何十枚なんてはらってはくれない。
「護衛を頼むだけで赤字で、一人じゃこわいし」
私はまたため息をつく。
「お話は分かりました。しかし私が責められるいわれはございません」
「でも、この世界はアタシのための世界じゃん! 逆ハー聖女ルート目指したって悪くなんかないもん」
逆ハー聖女ルートかよ。そりゃゲームで一番人気のハッピーエンドだけど。
当然難易度は高い。
素材を全種類集めて、攻略対象の親密度を80パーセント以上にし、破邪魔法を究めなければならないじゃん。
(この子は妥協するってことを学ばないとね)
私は決心した。
「とりあえずヒロインさんでないと起こせないイベントもありますから、多少の責任は取りますよ」
「本当!」
ヒロインの顔がぱあッと明るくなった。
「ええ、来週炎の山に探索に行く予定なのでご一緒しましょう」
「ん?」
私はにんまりした。
「一緒に野宿しましょうね!」
ヒロインは固まっていた。
そして私たちは一緒に重い荷物をしょって、炎の山をヒイヒイ言いながら登り、魔物の襲撃に青ざめ、野宿に耐えた。
「逆ハー聖女ルートは、これを他の場所でもくり返す必要があります。それでも目指しますの?」
素材運搬でぐったりするヒロインに私は語りかける。
「ノーマルエンドで良くありませんこと? 時には妥協も必要ですよ」
ヒロインの瞳は虚空を見つめていた。
「そんなことがありまして」
「なるほど」
私とヒロインが言い争っていたのは婚約者のルドルフ王子にも伝わってしまった。
おかげで報告をさせられている。
「君が週末や休暇に何をしているのかやっと分かったよ」
私は冷や汗をかく。
最近はヒロイン対策として、殿下からのお誘いを片っ端から断っていたから。
「王子妃教育もあるから、冒険もほどほどにしなさい」
「あのルドルフ様? こんなお転婆は嫌でしょう? さっさと婚約破棄するって手もありましてよ」
殿下は一気に悲しそうになる。
「エリザは僕が嫌いなの?」
「え、私たちの婚約って政略ですよね。公爵令嬢も侯爵令嬢も他にいるじゃないですか。ジュエリーさんだって殿下を慕っていましてよ」
一応はさりげなくヒロインを推す。
「それはそうだろうけれど、その、僕は、君の‥令嬢らしからぬ部分も好ましくて‥」
あ、そうだ。王子ルートではヒロインは『高位の令嬢にはいない未知の物に対するキラキラした反応が見られる面白い子』として殿下の関心を寄せられていたんだったぁ!
今の私やん。
しかも公爵令嬢としてもマナーも知識も立場もあるから、ヒロインよりずっとお買い得な状態じゃん。
くっ、しまった‥王子はヒロインに任せて、伝説の錬金術師ルートに進みたかったのに!
「僕じゃ、嫌?」
ルドルフ殿下がきれいな瞳で私を見つめてくる。
(何よこの破壊力)
ヒロインが王子ルートを選んだら自分はざまあされるだけだと思って、あんまり近づかなかったのに。
ゴクンと唾を飲む。
「き、嫌いではありませんわ。えっと‥敬愛はしていましてよ」
「それだけ?」
キャァ~! しょぼんとした殿下カワイイ!
どうしよう胸がドキドキして顔が熱くなる。
「うぅ‥何だか胸が苦しいので、本日はおいとまいたします」
それから時々、殿下の提案で一緒に近場の森や湖をで素材を探す機会がもうけられた。
私が珍しい植物を見つけて喜ぶのを、ルドルフ様は楽し気に見つめる。
時にはヒロインさんと森で遭遇もした。
「このくらいの敵、一人でも倒せるようになりませんと」
「分かってるわよ」
「まあボクと一緒ならいつでも守ってあげますけどね」
お、嫌味魔導士君を選んだな。
妥協って大切だねとしみじみ思う。
だって私も‥伝説の錬金術師になることはあきらめたから。
後日談
「妥協して王子妃? ふざけんじゃないわよ!」
私とヒロインは、もう一度もめることになったとさ。ちゃんちゃん♪
fin
ジュエリーはわがままだけど、エリザも相当わがまま。
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