オトンの研究室
家に着いたのは予定通り19時だった、、、
ソヨヒト
「ただいま、、、」
淡い期待を込める、、、いつもらな当然のようにシルのお出迎えがあるのだが、、、
居間に行くとオカンがテレビを見て観ていた、、、
ソヨヒト
「オカンただいま!!体調は?」
オカンは物静かな暗い顔で、、、
オカン
「お帰りなさい、、、あらもうこんな時間ね、あなたの夕飯作らないと、、、」
明らかに体調の悪そうなオカンが、立ちあがろうとしたので、
ソヨヒト
「いいよ!!俺作るから!!待ってて!!」
俺は精一杯の笑顔を見せる、、、オカンも俺に精一杯の笑顔で、、、
オカン
「ありがとうソヨヒト!!ソヨヒトに甘えようかしら、、、」
ソヨヒト
「了解!!」
そう言って台所に行って有り合わせのもので、簡単なものを作ってオカンと食べだ、、、。
結局、シルを探しに行ったローネさんも帰って来なかった、、、俺はベットに横になって、シルの手紙について考えていた、、、いや、正確には老いたシルのことを、、、。
老いたシルは後悔していた、、、彼女の行動によって、これから訪れる不幸なことに、、、。
でも、一つ疑問が残る、俺とオトンの死後、なぜシルはこっちの世界に帰って来なかったのか、、、
老いたシルは、オカンにもう一度会って謝罪をしたいと書いてあった、、、つまりそれは叶わなかったことになる、、、
いや、、、正確には帰れなかったのかもしれない、、、
なにかしらの事情で帰れない、、、例えば、イクウォッチを紛失、故障、破損、そんな感じだろうか?
だとしたら、最悪のシナリオはすでにシルはその状態に陥っている、、、
ともあれ、俺が異世界でもすることは一つ、シルを連れて帰る、、、俺とオトンが死ぬことになっても、今度は必ずシルを連れて帰る、そうすれば老いたシルの世界線は、、、いや違う、、、そうじゃない、よく考えろ!!
それならきっと、老いたシルの世界線でも俺が考えるだろう、、、それでは老いたシルの世界線は消えない、、、もっと冷静に、、、感情的になるな、、、
、、、、、
、、、、、、
そうか!!そうだ!!目的を間違えている!!
俺の望みは、老いたシルの世界線を消すことだ!!
つまり、俺も、オトンも、シルも無事に帰って来なければならない、、、そういうことだ!!
そう考えれば話はもっと単純だ!!
俺はシルと一緒に帰れば良い!!
そもそも、あのオトンが簡単に死ぬはずはない、むしろ現状で一番危ういのは、知識も経験のない俺だ!!
なんとなく見えてきた、、、次にやらなければならない事が、それはきっとオトンの研究室にあるはずだ。
俺は温もりを感じる事がない冷たいベットで眠りについた、、、。
いつものように学校に行く、学校に着いても教室には行かない、すでに学校には身内の不幸で数日間の休むと伝えているから、生徒会室でさおりから指示されている依頼事項をLENEで確認して、それを小一時間程で終わらせて学校を出る。
近くの公園のトイレで服を着替えて図書館にサバイバル系の本を数冊読む、読み終え今度は戦闘系の本を数冊借りて図書館を出る、、、ファミレスで本を読みながら昼食をとり、ミカねーとの約束の時間に合わせて道場に向かい、1時間ほどの稽古をつけてもらい家に帰る、、、。
そんな生活を数日して、いつものように生徒会室を出ようと思った時、ドアが開く、、、さおりだ、、、
さおり
「、、、ソヨヒト、、、大丈夫?」
困った、、、正直会いたくなかった、、、
ソヨヒト
「ごめん、、、今はなにも言えない、、、俺行かないと、、、」
俺がさおりの隣を通り過ぎようとすると、、、
さおりが俺に背中に抱きつく、、、
さおり
「、、、ごめん、、、なさい、、、でも、、、」
心苦しいが俺は無言でその場を去った。
オカンの体調も幾分良くなったようなので、土日を使ってオトンの研究室にバイクで向かう。
ありがたい事に、オトンから譲り受けたバイクはETCが付いており、オトンの財布からETCカードを借用したので高速が使用できた。
鍵を開けて研究室に入る、、、オトンの研究室は物心がついた頃から遊び場だった、でもこの間、初めて見たドアもあり、この研究室のは全貌は理解していない、、、
1階のエントランスを抜けると広めのホールになっており奥が中央扉になっている。
ホールの両脇に曲線の階段があり2階は居住区となっている。
俺は2階には行かず研究室がある中央の扉開けようとするが、、、やっぱりカードキーが必要かぁ、、、
けれど、俺はオトンの性格を熟知している、正確にはオトンの遊びこころを理解している、このカードキーはダミー、カードキーセンサーをいじると、、、横にスライドした、、、やはり、暗所番号キーが出てくる。
元々、オトンは物を持つことを嫌う正確、それならば、絶対にカードなんてめんどい物を持ち歩かない、、、
さて、、、ここからが本番だ、、、暗証番号なんだが、、、
とりあえずオカンの誕生日、、、違う、
シル、、、違う
ローネさん、、、違う
、、、オトン、、、違う
まぁ〜そんな簡単なはずがないかぁ、、、
オトンの性格を読みながらトライする、、、
幸いな事に、一定回数のミスでロックされる機構が付いていなかった、、、なんでだろう?
小一時間アクセント苦闘するも、なかなか正解に引き当てない、、、困った、、、ふっと一つ試していない番号を思い出す、、、
ソヨヒト
「ふふ、、、まさかなぁ〜」
そんなことを口走りながら入力、、、すると鍵のロックが外れる音が、、、
ソヨヒト
「えっ、、、なんで、、、」
扉を開けると広々とした研究室が、、、入るのは初めてだ、、、。
研究室は学校の体育館の約半分ぐらいの広さがあり、見渡すとガラスで閉ざされた部屋、部屋の端には応接間の様な空間もある。
ソヨヒト
「まさか俺の誕生日とは、、、」
オトンの意外な一面に思わず声がこぼれる、、、いや、よくよく考えるとオトンはそんな男だ、、、大事にされてそうでそうでもない、、、でもやっぱりどこか大事にされている、、、
ソヨヒト
「まったく、、、いくらダミーキーシステムにしてるからって、、、今時息子の誕生日なんて、、、」
そうつぶやきながら研究室をぐるり一周して応接間のテーブルで手紙を見つける、、、またかよ、、、
俺は応接用ソファーには座り、テーブルの手紙をとる
差出人はやはりオトンだった。
オトンの手紙
お前がこれを手にしてるなら、お決まりの例のあれだ!!
なんだろう、、、やっぱり実際にこういうの物を書くとなかなかくるもんがあるぞ!!お前も今度やってみ〜!!
さて、お決まりのおふざけもしたし本題に入ろう、はっきり言う、お前はこれ以上関わるな!!
俺はお前がこの手紙を手にするのに二つの想定をしている、一つは俺が失踪したこと、、、この件なら安心しろ!!必ず帰る!!その日までかーさんと仲良く暮らしていてくれ!!きっと、かーさんもこの手紙を見せれば安心するはずだ!!
次が最悪のシナリオだ、俺の失踪を起因としてシルとローネが姿を消すこと、、、この状態になると、流石の俺でも生きて帰れる保証がなくなる、、、一人ならまだしも、二人を抱えながらってのは、確率的にグッと生存率が下がるんだ!!お前ならわかるだろ?
お前も大体の事がわかってきてると思うが、シルは向こうの世界のエルフ国王、正式にはミネフト聖王国、シル ソイ ミネフト王女、そして俺が調べた限り、おそらく彼女は正当なハイエルフ族になる。
詳しく説明しよう、、、かつてエルフ王国建国前、この世界のハイエルフは森で暮らしていた、その生活は俺らが想像するエルフそのものだ、つまり集団ではなく、個々生活スタイル、それ以外で今のエルフと大きな違いとしては、寿命が人族と同じだったくらいだろ、、、
そう!!ハイエルフ族は元々長寿じゃなかったんだ、、、
いつの頃からだろうか、ハイエルフ属は単独生活から集団生活に移行する中で、協調性を得るためにある魔法を行使する様になる、それが王族のみ使えたとされる魅力だ!!
王族の直系はハイエルフの血が濃く残った一族、それによって、魅力の力を行使してエルフ族を纏めていた。
けれど、この魅力の魔法にも欠点があった、それは魔法の耐性、、、つまり世代交代をすると少しずつ効力が効かなくなる。
ゆえにこれを解決する為に、生まれて10歳になる子供たちを集団で集めて、お祭りと称して魅力と長寿の術式を行使していたと推測している。
けれど、今から約160年前に王の崩御に伴い、それを行使出来なくなり、若い世代を中心に集団から個々に移行する流れが出てきた、そして、その流れは次第にエルフの民に伝染して今やエルフ王国全土に広がり、各地で内乱が勃発する事態まで発展している。
おそらくだがその理由が、前にシルちゃんが無意識で発動させていた魅力の力なんだと思う。
民主は定期的に魅力の魔法に当てられることで、個々から集団となるのだと考えている。
ここで本題だ、エルフの世界で シル ソイ ミネフト王女は、直系の血筋ゆえにとても重要人物となる。
すでにいくつかのエルフ族の勢力は、この事を気付き始めて、シルを巡った大きな火種になる恐れもあったぐらいだ、前回はどうにか俺の力でねじ伏せたが、そろそろ俺の力もバレてきた。
これ以上、俺のほら吹きも限界だろ、、、
そういう訳で、冒頭にあんな事言っといてなんだが、もし最悪のシナリオでお前がこの手紙を手にしてるなら、、、無理を承知で頼む、シルを助けて欲しい、、、こんな事お門違いだった理解してるでも、
なんだろう、、、あの子は俺にとって特別なんだ、、、
ずっと昔に出会えなかった、、、いやそんは馬鹿げたことはよそう、、、
お前だって惚れてるんだろ?ハッキリ言ってやるよ!!
お前らの関係バレバレだからな!!
俺の大事な息子にこんな事託すなんてなぁ、、、
どうやら俺も焼きが回ってる様だ!!
手紙はここで終わっていた、、、オトンも迷っているのだろうか、書き終わったいないのだろうか?
まぁ〜それにしても、大方予想していた感じの内容だった、、、シルの手紙の文脈も何かを救おうとしていた様に取れる書き方だったし、前に直接のそんな事を言われてる、あの時は、俺を利用するってね!
ローネさんはオトンが、シルの父親の生まれ変わりと信じていた、今思えばオトンはそんな節がいくつかあった、、、ゆえになんとしてもシルを助けたいのだろう、、、かつての子供シル、今の子供の俺、そんな両天秤での葛藤が、オトンの思考を狂わせているのかも知れない、、、。
俺は天井を見つめて考える、、、ひょっとしてこの手紙は、老いたシルの世界線では、俺は読んでないのではないか?なんとなくそんな考えが浮かんできた、、、
なんでだ?
、、、いや簡単な話だ、シルの手紙がなければここに俺は居ない、そうなると誰がこの手紙を回収する、、、
オトンだ!!この段階のオトンはまだ勝ち目を持っていた、それを盤石にする為に俺を呼ぼうとしている?
けれど、オトンの想像を超える展開があった?
それで急遽この手紙を消去した。
それでも結果的に俺は自力で向こうに行く事になる、何も知らないままで、、、。
そんなものは、根拠の無い仮説、、、
でも、万が一の為に、これを念頭に入れておこう。
俺はあえてこの手紙を持っていく、そして研究室を一通り調べる、なるべく俺が来た痕跡は消しながら、、、
そして家路についた。