第二十九話 鋼鉄の禍根 その三
加工場には機械が破壊される音が絶え間なく響き渡る。かなり疲れた。最高速度でずっと走り回っていたためだろう。両脚は鉛のように重たい。
「お疲れ様」
「お、お疲れ様です……」
いつの間にかルカが真横に座っていた。座っている気配すらなかった為、少し驚いてしまった。そんな俺に意も介さずルカは加工場を破壊して回るイズラをじっと眺めている。
「元気ね、彼」
「あんな元気どこから湧いてくるんでしょうね……俺なんかもうへとへとですよ」
「あら、あなた体力が落ちた?昔ならもっと動けてたんじゃない?」
「何分全く動いてなかったものですから……このくらいの運動でも息上がっちゃうんですよ」
「ならこの機に体力づくりしてみたら?」
ルカはクスクスと笑っている。いたずらっぽく笑う姿はどこか子供のようにも見えた。
「お二人とも随分楽しそうですねえ?」
目の前には汗だくのイズラが立っていた。
「もう終わったのか?」
「誰かさんのおかげで俺たちが破壊する分が少なかったからなぁ」
「よかったじゃん。その誰かさんにお礼でも言ったらどうだ?」
イズラはフンッと鼻を鳴らした。
「アラマスが呼んでる。早くいくぞ」
俺たちは立ち上がり、イズラと共にアラマスのいる所へ向かった。アラマスは巨大な鉄扉の前で待っていた。
「全員来たな……ん?サリファとマリンは?」
「負傷した仲間を連れてはいけないと言って拠点へ戻りました」
「そうか……」
アラマスは深くため息をついた。
「正直あの二人がいたらもっと楽だったんだがな……」
「仕方ないですよ。残ったメンバーでいくしかないんですから」
「それもそうだな……」
「んで、この馬鹿でかい扉はどうやって開けるんだ?レバーとかそれらしきものはないけど……」
「設計図によるとこの近くに制御室がある。そこに行けば何かわかる……かもしれん」
「今はそこしか行くとこないしな。早く行こうぜ」
アラマスはポケットにしまってあった設計図をまじまじと眺めながら進んでいく。加工場を抜け、廊下に辿り着いた。第二フロアならそこらかしこに警備兵がいたはずだが、今は影も形もない。気配すらしなくなっていた。
「着いた。ここだ」
俺たちは小部屋の前で立ち止まった。アラマスはドアノブに手をかけ、ガチャリと回して扉を開ける。中も至って普通の部屋だった。変わった小物もなく、部屋にはただただ書類が散らばっている。
「あるとしたらこの部屋だけど……」
「手分けして探しましょう」
各々で部屋の探索をすることになり、俺は壁際を入念に探すことにした。壁には至る所に資料が張られており、そのどれもにロボットの全体像が描かれている。
「ここって工場なんだよな……?なんかロボットの設計図の方が多くないか……?」
「というか警備兵の数が異常だしな。あんなに多いと思ってなかったぞ?」
「…………もしかしたら環境汚染の原因は他にあるのかもな」
「なんかそんな気がしてきましたよ…………ん??」
壁を手当たり次第に調べていると、カレンダーの裏が妙に膨れていることに気が付いた。
「なんだこれ…………お!!」
カレンダーをめくるとレバーがあり、それを思い切り降ろした。すると、外からゴゴゴと何かが動く音が聞こえてきた。
「今の音って……」
「扉まで戻ろう」
俺たちは部屋を後にし、再び扉の前に立った。
「どうやら当たりだったようだな」
分厚い鉄の扉は完全に開かれていた。扉の先は階段になっており、階段の先からは異様な冷たさを感じる。
「よし……行くぞ!」
意を決し、俺たちは扉の先へと進んでいく。
「………………なんだよこれ……」
階段を下り、第四フロアに辿り着いた俺たちに待っていたのは、沢山のカプセルに入ったロボット達だった。
「どうなってんだ……??なんでこんなに警備兵が……」
カプセルに入ったロボットは皆何か培養液らしき液体に包まれている。彼らは機能を停止しており、起動命令を静かに待っている。
「どうしますかアラマスさん……?」
「どうしますって……壊すしかないだろう……一つの工場が保持していい量を遥かに超えている。それに今までの警備兵や軍事用のロボットとも姿形がまるで違う……こいつらは何なんだ??」
カプセルに囲まれた道をただ進んでいく。しばらく歩くと、巨大な部屋へと辿り着いた。カプセルはなく、その代わりに途轍もない量のモニターが壁や天井にまで取り付けられている。
「なんで俺たちが……??」
空間一面に張られたモニター、そのどれもが俺たちのことをあらゆる角度で映し出している。
「やっと来てくれたねぇ」
「!!!???」
知らない声が空間にこだました直後、部屋の出口が急に閉まった。
「誰だ!!??」
部屋中見回しても俺たち以外誰もいない。
「君たちが被験体だね?粋がいいのばっかりでワクワクしちゃうねぇ~」
「被験体??何のことだ!!??お前は何者だ!!??あのロボットは何なんだ!!??」
「赤毛の君ぃ……質問は一つに絞ってくれよぉ。お兄さん困惑しちゃうよぉ~」
知らない声は面白そうに笑っている。
「てめぇ……いつまでも調子こいてんじゃねえぞ……」
「落ち着けイズラ!」
知らない声はいつまでも笑っていたが、少し落ち着いたのか少しため息をついた。
「それで……フフッ、ククク……いや失敬、つぼが浅いものでねぇ。私が誰かって話だったね?」
「…………さっさと答えろ」
「結構怒りっぽいのね、君たち。まあいいや。僕のことはそうだな…… “ワールダット” そう呼んでくれ」
「呼び方の話なんかしてない。お前は何者かって聞いたんだよクズが」
「ク、クズぅ!?リシル君、だっけ?君口悪すぎ!!」
「なんで俺の名前を……!!」
ワールダットは俺の質問には答えず、またべらべらと話し出した。
「まあいいや……僕は研究者でこの工場の管理をしてます。趣味は園芸、特技は……分かった分かった!みんなそんなに睨まないで!怖いなぁもう……」
ワールダットはコホンとわざとらしく咳払いをした。
「えー皆さんにはある実験に協力してほしいと思いましてぇ~」
突然、一部の床が開き、中から先ほど見たカプセルが現れた。
「この子は絶賛開発中の戦闘兵器なんだけどね?実戦配備する為の戦闘データが足りなくってねぇ……」
カプセルの蓋が開き、ロボットの眼が赤く光りだす。
「この子と死ぬまで闘ってほしいの!!お願い♡」




