第二十八話 鋼鉄の禍根 その二
長い階段を抜け、俺たちは第三フロアに辿り着いた。階段付近には沢山の壊れた警備兵が転がっている。
「どうやら向こうに向かったらしいな。俺たちも後を追うぞ」
アラマスは壊れた警備兵を道しるべにしてどんどんと先へ進んでいく。道には警備兵の残骸が絶えず転がっており、それは先へ進むごとに数を減らしていった。
「なあ」
「なんだ?」
「警備兵の数少なくないか?俺たちこのフロアに来てから一度もあってないぞ」
「確かにな……サリファ達がほとんど倒したのかもな」
「そう……なのかなぁ?」
そう言っているうちに俺たちは道の終点、加工場へと辿り着いた。しかし、サリファとマリンの姿はどこにもなく、加工場の機械も破壊されていなかった。
「あれ?二人ともどこに―」
突如、何かが俺の顔をかすめた。
「伏せろッッ!!」
アラマスが俺の上に覆いかぶさった瞬間、激しい弾丸の雨が俺の頭上を通り抜けた。
「みんな無事か!?」
「大丈夫よ」
後ろにいたルカたちも咄嗟に身をかがめたようだ。
「なんだよ今の!!今までの豆鉄砲とはわけが違うぞ!!」
「俺にもわからん!!あんなのが飛んでくるなんて想定外だ!!」
「想定外だと!?ふっざけんな!!あんなのどうやって突破すりゃいんだよ!!」
「おい!さっさと移動するぞ!このままいるとマズい!!」
銃弾が降りやむと、俺たちは全力で物陰へ飛び込んだ。再び弾丸が掃射され始め、俺たちが元居た場所は一瞬にして蜂の巣となった。
「とりあえずサリファたちを探そう。この銃弾はあいつらだけでは耐えられない」
「どうやって探すんだ?連絡手段とかないぞ?」
銃弾は執拗に俺たちがいた場所を打ち続けている。絶え間なく鳴り続ける銃撃音の中、聞いたことのある声が真下から聞こえてきた。
「おい!!聞こえるかアラマス!!無事か!!」
「サリファ!!加工場にいるのか!!」
「ああ!!向かいにいるロボットに気がつかずに降りたらこれだ!!クソッッ!!」
「上がってこれるか??」
「無理だ!!加工場に降りたときにマリンが足を打たれた!!俺一人じゃマリンを連れて上がれない!!」
「わかった!!何とかする!!そのままじっとしててくれ!!」
「馬鹿!!来るな!!お前らは回り込んで銃を破壊しろ!!」
「マリンが負傷……かなりまずいぞこれ……!」
事態は急を要する。俺たちは一刻も早く銃を破壊しないと……
「二手に分かれましょう」
「ハァ!?」
ルカは氷腕を三つ作り出した。
「わたしは加工場に向かってサリファとマリンの支援と銃のヘイトを稼ぐ。その隙にあなたたちは上から回り込んで銃を破壊する。これが最善の策だと思う」
「話聞いてなかったのか!?下へ降りたら確実に撃ち抜かれる!!そんな自殺行為させられるかよ!!」
「回り込む道は一本しかない。しかも遮蔽物なし。誰かが銃のヘイトを稼がないといけない。わたしなら下にいるマリンの手当てもできる。数発ぐらいなら“歩兵”が受け止めてくれる。もう迷ってる時間は無いの」
「待ってくれ!俺も行く!」
加工場へ降りようとするルカの肩を掴む。
「俺ならルカさんよりも素早く動ける!俺がいた方がヘイトも稼ぎやすいはず、だろ?」
「……好きにしなさい」
そう言うとルカは加工場へと降りて行った。
「おっ、おいッ!!」
何か言いたげなイズラを無視して俺も加工場へ飛び出した。案の定正面から銃弾が飛んできたが空中でそれを必死に躱した。機械の裏へと着地すると、すぐそばで身をかがめたサリファとマリンがいた。
「馬鹿野郎!!何で来たんだよ!!」
「怪我した仲間放置できるわけないだろ?」
「マリン、足見せて」
「ルカさん……ッッ!!」
マリンは痛そうに足を抑えている。止血はされていたが足には真っ赤な血の跡が残っていた。ルカはマリンの足に手をかざすと、傷口はパキパキと音を立てながら凍り付いた。処置を終えた後、ルカはマリンの手を優しく握りしめた。
「傷口は完全にふさいだわ。これなら動いてもそこまで血は出ないから安心して」
「あ、ありがとうございます……でもわたしのために二人がわざわざ降りてくることは―」
「言ったでしょ。怪我した仲間は放置できないって。それに無策で降りたわけじゃない」
「こんな危険な場所に降りてきてなーにが『無策じゃない』だ!!こんなのほぼ自殺行為だろうが!!」
「そんなことは百も承知だ!だけど俺たちが銃のヘイトを稼がないとアラマス達が回り込めない!あんたはここでマリンを守ってりゃいい。危険なことは俺たちがやる」
「馬鹿どもが……どうなっても知らんからな……」
「俺は右に出ます。ルカさんは左をお願いします」
「わかったわ。精々死なないようにね」
「そっちこそ死なないでくださいよ」
俺は深く息を吐き、心を落ち着かせた。
「 “風装 季節風” 」
両足にありったけの風を纏わせ、機械の裏から飛び出す。案の定、警備兵は俺に大量の弾丸を放ったが、弾丸は俺にかすりもせずただ壁や床に穴をあけるばかりだった。そのままの勢いで加工場を駆け回りながら目に付いた機械を破壊する。一切速度を落とすことなく、弾丸に追われながらも順調にヘイトを稼いでいた。
「イズラ達はまだ来ないのか!」
一向に現れないイズラたちに不満を募らせていたが、突然前方から爆発音が聞こえてきた。それと同時に銃弾の雨は止み、銃声の代わりに爆発音が加工場に響き渡る。爆発音が止むと、警備兵たちがいた場所からイズラとアラマスが飛び降りてきた。
「任務完了!あの鉄くずどもは綺麗に片づけたぞ」
「ご苦労さん。後はここの機械を破壊するだけだな。俺も何台か壊したからそれほど数は多くない。みんなでやればすぐ終わるさ」
「いや、ここは俺とアラマスやる。お前はルカさんと休んでろよ」
「そうする。んじゃまた後で」
「お前らほんとにやるとはな……イカれてるよほんと……」
「そりゃどうも」
壁にもたれかかって休憩をしていると、マリンを担いだサリファがこちらに近づいてきた。
「具合はどうなんだ?」
「かなり良くなったよ!もう歩いても痛くないし!」
「そうか。そりゃよかったな」
「だがこのまま手負いのこいつを第四フロアまで連れてけない。俺とマリンはここで帰ることにする」
「第二フロアにはかなり警備兵がいたはずだけど大丈夫なんですか?」
「あんなガラクタ問題ない。さっきみたいなやつが出てきたら話は別だけどな」
「そうですか。お気を付けて」
「お前も精々死なないようにな!」
そう言うとサリファは加工場を後にした。




