第二十七話 鋼鉄の禍根 その一
抜け穴から出た俺たちは通気口の蓋を取り外すと、アラマスから順に一人ずつ中へ入っていく。狭い通気口を抜けると照明の落ちた暗い部屋へとたどり着いた。
「全員来たな。下へ向かう。俺についてこい」
アラマスは暗い室内を迷うことなく颯爽と駆けていく。そんなアラマスの背を見失わないように必死に追いかける。しばらく追いかけていると突然アラマスが物陰に隠れた。続いて物陰に隠れたすぐ後、大きなロボットが俺たちの目の前を横切った。
「今のが警備兵……」
警備兵の足音が聞こえなくなると、アラマスは再び走り出した。たまに壁の近くへ寄ると壁に備え付けられている何かを破壊し、警備兵を察知しては物陰に隠れた。そんなことを二、三度繰り返した後、俺たちは一つの階段の前に辿り着いた。
「この下が第二フロアだ。ここよりも警備兵の数が段違いだ。だが、こことは違って警備兵が外部へ連絡することは不可能。このフロアに来ない限りな。つまり、どれだけ暴れてもいいって訳だ。この先からは警備兵を倒しながら進む。いいな?」
全員うなずくとアラマスは速足で階段を駆け下りていく。階段を下りていくと、奥から徐々に光が漏れ出してくる。それと同時に、警備兵の歩く音が大きくなっていく。
「目標地点まで走り抜けるぞッ!!絶対に足を止めるなッ!!」
階段を抜けた先には三体の警備兵が待ち構えていた。こちらを補足するや否や機関銃を発射してきた。弾幕の雨をかいくぐりながら目の前の警備兵へ“塵乱風”を繰り出す。よろけた所へマリンがハンマーを振り下ろし、警備兵の頭を潰す。残った警備兵の弾丸を“旋回”で弾いたのと同時にイズラが警備兵に飛びつき激しい電撃を放った。電撃を食らった警備兵は口から黒煙を出してその場へ倒れた。残った一体もアラマスが放った水の弾丸によって頭を撃ち抜かた。
「シ……シンニュウシャ……」
「はーいもうおねんねしようねッ!!」
サリファがまだ活動している警備兵の頭上に巨大な岩を落下させた。騒ぎを察知したのか、沢山の警備兵の足音が聞こえてくる。そんなのお構いなしに俺たちは目標地点へ足を進める。警備兵の手刀を防ぎ、弾丸をはじき落とす。警備兵の顔を潰し、打ち抜き、焼き焦がし、打ち抜き、押し潰す。一度たりとも倒れず、一度たりとも足を止めず、目標地点へ進み続ける。
「この先だッ!!ここからは二手に分かれて機械を破壊しろッ!!終わったら何かしら合図を出せッ!!」
加工場へ到達すると、俺、イズラ、アラマスは左へ、ルカ、マリン、サリファは右へそれぞれ分かれた。加工場には第三フロアから流れてきたであろう沢山の宝石たちが機械によって形を変えていた。作業の過程で出た破片や埃が空気中へ舞い、加工場一帯は途轍もない刺激臭であふれていた。
「壊せッ!!とにかく壊せッ!!」
手当たり次第に機械を破壊していく。一つ、また一つ黒煙を上げながら機能を停止していく。頭上からは加工場に入ってこられない警備兵たちが放った弾丸が降り注ぐ。
「 “風装 流雲” !!」
全身に張り巡らされた風は、頭上からの弾丸の軌道を容易く曲げていく。
「 “塵乱風”!!!」
巻き上がったつむじ風は機械を破壊しながら加工場一帯を吹き荒らす。
「 “硬弾” 」
アラマスの手からはじかれた水滴は、機械を真っ直ぐ打ち抜いていく。
「あ~俺も皆みたいに範囲攻撃とかしてみてえなぁ!!」
イズラは文句を言いながら素手でひたすら機械を破壊していく。そんな中でも銃弾はイズラの周りへ降り注いでいく。しかし、不思議なことにイズラは一つも当たることなく黙々と機械を破壊している。余所見をしているうちにいつの間にかほとんどの機械を壊し終わっていた。
「こっちはあらかた終わったぞ!!」
「俺も終わったぞ」
「あとちょっと……よしッ!!全部終わったぞッ!!」
作業を終えたことを確認すると、アラマスはルカたちのいる方向に“硬弾”を放った。すると、ルカたちの方から腕型の氷像が飛んできた。
「どうやら向こうも終わったみたいだな。第三フロアへ向かうぞ」
氷像に導かれるままに工場内を走り回る。道中何度か警備兵と接敵したが、それほど苦労することなく撃退した。道を進むにつれて警備兵の数は減り、それと同時に警備兵の残骸が道のあちこちに現れ始めた。
「どうやら相当な数倒してくれたらしいなあいつら」
「……!奥から銃撃音!!近いぞ!!」
一本道の先ではルカが何体もの警備兵を一人で捌いているのが見えた。サリファとマリンの姿はどこにも見当たらない。
「あの数はまずいッ!!」
「加勢してきますッ!!!」
体を前のめりにして、地面を強く蹴りだす。今まで出していたものとは比べ物にならない程の速度でルカの元へ走る。五体の警備兵がルカに手刀や銃弾を繰り出している中、当の本人は楽しそうにしている。警備兵の手刀を悠々とかわし、そのまま手刀の上に乗り、別の警備兵の頭へと飛び移る。迫りくる銃弾も氷の腕が全てはじき落とし、銃口を凍り付かせる。その所作はまるで一つの舞踊を見ているかのようだった。
「あら、もう来ちゃったのね?もう少し遊びたかったわぁ」
「危ない!!」
ルカがこちらへ意識を向けたその時、ルカの背後にいた警備兵がルカめがけて拳を振り下ろした。
「 “歩兵” !!」
三本の腕が警備兵の拳を受け止め、逆にはじき返した。三本の腕は体勢を崩した警備兵の頭に次々と拳を叩き込んでいく。激しいラッシュを喰らった警備兵の頭は完全に破壊され、むき出しになった基板から火花が散っている。
「加勢します!ルカさん!」
「右の二体をお願い。弾は打てなくしたから存分に暴れなさい」
銃口が凍っているのに気が付いていないのか、警備兵たちは俺に向かって銃口を向けてきた。案の定、銃弾は発射されず、ただ俺に隙を晒すだけだった。俺は警備兵の腹部を掴むと、警備兵の内側に極小の竜巻を発生させた。すかさずもう一方の警備兵へ近づき、同じように竜巻を作り出す。対象がはじけ飛んだことを確認し、ルカの加勢をしようとルカの方へ顔を向けると、後から来たイズラとアラマスによって全て倒されていた。
「何でルカさん一人なんだ!?他の奴らは!?」
「先に行かせた。思ったより警備兵の数が多くてね、あなたたちを待つついでに追ってきた警備兵を破壊してたのよ」
「じゃあ道にあった警備兵の残骸も……?」
「あたしの仕業ね」
「おっっっそろしい……」
「そんなことより早く下へ行きましょう」
ルカと合流できた俺たちは長い階段を速足で下っていった。




