第二十四話 六つと四つ
「それじゃ、俺自分の部屋に帰りますね。イズラのことよろしくお願いします」
「任せといて♡またいつでも遊びに来てちょうだい♡」
俺は紫色の病室をあとにした。
「そう言えばルカさん何やってるんだろ?結構歩き回ったけど見つからなかったんだよな……」
「ふむ……盗聴器や監視カメラの類はなし……わたしたちを信用してるって証拠かしらね」
軋むベッドから降りる。ベッドの裏やテーブルの下、壁や天井まで調べたがわたしを監視するような機械は見つからなかった。おそらくリシルやイズラの部屋にもないだろう。
「今は敵対する気はないってことね」
椅子に腰かけながらナタがくれたペンダントを眺める。『遠き友を思う』わたしたちの境遇とピッタリだ。簡素なつくりだけれど、どんなペンダントよりも素晴らしいと思う。ナタへ思いを馳せていると、突然扉がノックされた。
「アラマスです。オルタの使者にお伺いしたい事がありまして……」
「はい?どうされましたか?」
「オルタの使者……いえ厳密には“あなた”に聞きたいことがあるんですよ。かなり長くなりますし、上がっても?」
「分かりました。どうぞ中へ」
「ありがとうございます」
アラマスを部屋に招き入れると、彼はすぐさま椅子に座った。
「それで、私に聞きたいことと言うのは?」
「あなたのアルテリアについてですよ」
「……」
想定外だ。天星は他の惑星と比べて宇宙全体の情勢に関してかなり疎い。ましてや他の天星の情報など入ってくるはずがない、そう思っていた。わたしのアルテリアなど気にも留めないと思っていたのに……
「この宇宙には天星が六つありました “土天星ロッカ” “風天星ウィンガル” “炎天星フレイオン” “氷天星グレイス” “水天星ウォルツロイ” そして“雷天星エレカ”私たちはこの六つの天星からアルテリアを授かることで電気や風、土などを自在に操ることができる……私であれば水を操ることができます」
「あら、ロッカ人が他の天星から祝福を受け取るなんてかなり皮肉なものね?」
「どうやら私はロッカにあまり好かれなかったようです。話を戻しましょう」
そう言うとアラマスは一枚の写真を取り出した。そこにはリンゴの氷像をつくるわたしの姿が写っている。
「六つの天星の内、二つはもう滅んでいるんですよ“氷天星グレイス”と“炎天星フレイオン”がね!なのにあなたはグレイスが司る氷の力を使っている……これはどういうことなんですか?」
「……」
無言を貫くわたしにアラマスはさらに追い打ちをかける。
「グレイスが滅んだのは二百年も前なんですよ。天星人以外の知的生命体がそんなにも長く生き残ることは不可能、仮に生き残れたとしても相当老化しているはずです。しかし、あなたはどう見たって二十代後半から三十代前半……辻褄が合わないんですよ」
「……そんな情報、どこで仕入れたのかしら?」
「天星が情報に疎い、なんてのは昔の話ですよ。宇宙中の情報を搔き集めておかないとこの先何があるかわかりませんからね」
「とても天星人とは思えない発言ね?」
突拍子もないことを言ったからか、アラマスは失笑をした。
「確かに、傲慢な天星人とは思えない発言ですね。『我々は天星人だ!だから他の種族よりもはるかに優れている!はるかに偉い!』そんな考えを持っている天星人が大半なんですから」
そう語るアラマスの顔はどこか悲しげに見えた。
「そんな考えを持ってるから、異変が起きても気が付かない。そんな愚かな種族なんですよ。天星人ってのはね……」
どこかアラマスから仄暗い一面が垣間見えたが、無理に言及はしなかった。
「話が脱線した、話を戻そう」
「私のアルテリアがなぜ氷なのか、でしたよね」
「ああ、そうだった。それで、あなたは本当のことを話してくださるかな?」
アラマスはこちらをじっと見つめている。瞬きすらせず。一瞬も目をそらさず。ただわたしの答えを待っている。
「…………残念ですが、そればかりはお答えできません。申し訳ございません」
わたしの答えが不満だったようで、アラマスは少し顔を歪めた。
「ですが、私自信のこと以外なら何でもお話します。それで納得していただけませんか?」
「……いや、大丈夫です。人には言いたくないことの一つや二つあるものですからね」
そう言うとアラマスは腰を上げた。
「今日はありがとうございました。結局本筋とはズレた話ばかり喋ってしまいました」
「いえ、こちらこそお答えできなくてすみません。またよろしければいつでも来てください。可能な限りお答えしますので」
「ええ、ではまた」
そう言うとアラマスは部屋から出ていった。
「よおアラマス、調子はどうよ?」
後ろから聞きなじみのある声がした。
「……サリファか。外へ偵察に行ったんじゃないのか?」
「そうなんだが収穫がなくってなぁ~なくなくこっちに帰ってきたわけだよっ」
そういうとサリファは俺の肩に手を回してきた。
「お前、あの使者と何話してたんだ?仕事の話ってわけじゃないんだろ?」
「……お前には関係ないだろ」
サリファの手を強引に振り払うと、俺は再び歩き出した。
「あんな連中と仕事の話以外何話すんだよ?あんな劣ったやつらによぉ~?」
「黙れサリファ。彼らに聞かれたらどうする」
「別に聞かれてもいいだろ~?あいつらは俺らに強力するしかないんだからよ~」
「彼らに失礼だぞサリファ!!」
思わず怒鳴ってしまった。こいつといると怒りが湧き上がってくる。
「だって事実だろ?それにあんな工場程度俺とお前、ザナイがいれば楽に破壊できるしよぉ~」
「あの工場の内部は未知数、それを四人だけで攻略できるとでも?少し頭を使えばわかるだろうがこんな事……!」
「ああ??なんだよ?喧嘩売ってんのか?」
「……いや悪かったな。少しイラついてたよ」
こいつと話したところで意味はない。奴は使者を自分よりも下だと思っている。そんな奴とかわす言葉などない。
「わかりゃいんだよわかりゃ!つーかお前今暇だろ?一杯やろうぜ!な?」
「すまない、今日は忙しいんだ。失礼する」
「チッッ!!つれないやつ!!」
そう吐き捨てると、サリファは食堂の方へ向かっていった。その背中は、嘗て親友だった男とは思えないほど醜く見えた。
「……変わっちまったな、あいつ」




