第二十一話 第一目標
「なるほど……とりあえず現在のロッカの状況は分かりました。それで、我々は何をすれば?」
「今から説明しよう。これを見てくれ」
アラマスはコンピュータを操作した。すると、一枚のモニターに不気味な工場が映った。外観はすすけており、煙突からは灰煙が立ち上っている。
「こいつは現在このロッカの土壌を一番汚している工場だ。土壌を検査したが出てくるのは鉛、クロム、水銀etc……こいつの近くではワールダットなどのロッカ特有の植物はおろか、星外からの植物すら育たない」
モニターは別角度から工場を映し出す。工場の周りには緑の植物や岩のような植物は影も形もなく、ただ荒廃した砂漠が映し出されているだけだった。
「どうやらここではロッカで取れる宝石の加工をしているらしいが、その時に出た有害物質なんかは全部外の土壌に捨てているんだ。侵略者は俺たちの星の環境なんか心底気にしてないってのが手に取るようにわかるよ」
「ひでぇ……自分の星じゃないからってここまでできるのかよ……」
「工場の土壌汚染を食い止める、これが最優先だ。乗っ取られた城の奪還や侵略者の排除よりも星の環境汚染の方が深刻だからな。早いとこ手を打たないと手遅れになりかねん」
「どうやって食い止めるんですか?工場の廃棄物をなくすって言ったってそう簡単なことじゃないでしょう?」
アラマスは俺の方を見ると、ニヤリと笑った。
「ああそうさ、廃棄物を完全になくすなんてそう簡単にできることじゃない。だったら、そもそも廃棄物を出させなきゃいい、だろ?」
「はぁ?」
「工場の生産ラインの破壊、これが俺たちの第一目標だ」
「商品の加工を止めちまえば廃棄物なんかは全部なくなるって寸法か!」
イズラは感心したようで、頷きながら手を打っている。
「生産ラインの破壊って言ってもどう破壊するんだ?機械の破壊とか加工前の宝石を運び込ませないとかやり方は色々あるぞ?」
「宝石自体は何も有害なものはない、しかし現に有害物質は出ている。ということは、加工する機械に何か細工がある、もしくは工場内で別の物が作られている、考えられる可能性はこの二つだが、別の物が作られているにしても確証はない。だから俺たちは加工する機械に何かあると見ている。つまり……」
「工場内の機械の破壊、それが目的なんでしょう?もっとわかりやすく言ってちょうだい」
ルカに横やりを入れられたアラマスは不服そうな顔をしている。
「……まあその通りだ。君たちがいればこの工場は確実に堕とせる!」
「んで、決行日は?悠長にはしてられないから早い方がいいんだが?」
「二日後の深夜三時、この時間なら敵に気づかれることはないだろう。それまでここで英気を養ってくれ」
「ここがあなたの部屋よ。少し狭いけど文句言わないでね」
マリンに案内された部屋は、昨日泊まったホテルとは大違いだった。部屋は土に囲まれており、光源は安っぽいランタン一つだけだった。
「うっわぁ……凄い軋むなこのベッド……」
部屋にあるベッドは腰かけただけでキィィと不快な音を立てた。このベッドは俺が見てきた中でもトップレベルに粗悪なものだと瞬時に理解できた。
「他にまともな部屋はないのか?」
「文句言わないでって言ったでしょ?全部屋こんなものよ」
そう言うとマリンは部屋の扉を強く閉めた。閉めた衝撃で天井からパラパラと小石が落ちてくる。最悪、この部屋の評価はその一言で事足りるだろう。唯一この部屋のいいところは一人部屋ってことぐらいだろう。
「暇だし少し探索するか」
軋むベッドから立ち上がり部屋を出る。
「あ」
ちょうど部屋から出てきたイズラと目が合った。
「どうやら考えてることは一緒のようだな?リシル君よぉ~?」
へらへらと笑いながら肩を組んでくるイズラの手を振り払う。
「そんな引っ付くなよ、まあ否定はしないけどな」
「なら探検しようぜ~?ここの構造は把握しといた方がいいもんなぁ~?」
「いいけどあんまり余計なことはするなよ」
「わあってるって!」
イズラ=ウルフィンド、赤い髪を後ろに結んだマンバンヘアーのこいつはかなり喜怒哀楽が激しい。表情はころころ変わる気分屋、俺も人のことは言えないがかなりのトラブルメーカーだ。プレジュデンに来る前は何やら暴力団に加入していたと風のうわさで聞いたこともあるが、特段驚きはしなかった。昔少しこいつと喧嘩したとき、体の使い方が尋常ではなく、迸る電撃も使い慣れていた。それこそ日常で喧嘩でもしているような動き方だった。結局勝敗はつかなかったが、それ以来こいつとはかなり仲が良くなった。お互いが冗談を言っても笑い飛ばせるほどに。
「しっかし、でかい施設の割に人がいねえな」
「マリンだって外で仕事してたんだし、構成員のほとんどは外で働いてるんじゃないか?」
俺たちは基地の内部をくまなく歩きまわったが、人と一切出会わなかった。もう帰ろうと廊下を歩いていると、何やら奥の方から音が聞こえてくる。近づく程それは鮮明となり、やがて一つの部屋の前に辿り着いた。中からは叫び声と同時に何かが砕かれる音が連続で聞こえてくる。
「ちょっと覗いてみるか……?」
「はぁ……少しだけな」
イズラが扉を少しだけ開けて中の様子を見た。しばらく観察していたが急に焦りだし、急いで扉を閉めた。しかしすぐに扉は開かれ、中から汗だくのマリンが出てきた。タンクトップに短パンとかなりの薄着で目のやり場に困るほどだった。
「あなたたち、レディーの運動を覗くとはいい趣味してるわね?ええ?」
「まてよ!俺はマリンがいること知らなかったんだよ!覗いてたのはイズラだろ!?なあイズラ……」
あたりを見まわしたがイズラの姿はなかった。
「あいつッ!!逃げやがったッ!!」
目の前には目つきの悪いマリンが立っており、逃げることができない。俺は大人しくマリンの制裁を受ける覚悟を決めた。
「すまなかった!!まさか中にいるのが君だとは思わなかったんだ!!」
「まあいいよ、特訓してただけだし」
マリンはすんなりと俺のことを許してくれた。
「そ、そうかよかった……イズラには後で一発かましとくからそれで許してくれ、な?」
「そんなことしなくていいよ、それよりも特訓に付き合ってよ」
「特訓?別にいいけど」
マリンの予想外の提案に少し戸惑ったが、殴られるよりもずっといい。マリンと一緒に部屋に入ると、そこら中に岩の人形が転がっていた。
「あの~マリンさん?これは……?」
「いや~ちょうどほしかったんだよね~自分の意志で動く人形がさッ!」




