第十九話 run down to the bottom
「乗っ取られる…?」
マリンから告げられた情報はあまりに突拍子の無いもので、俺の思考は一瞬止まってしまった。
「……マリン、あなたはいったい何者かしら?憶測だけで言っているわけじゃないわよね?」
「ええ、もちろん。改めて自己紹介をするわね。わたしはサハ・アルジュエティの諜報員、マリン=ビエトよ」
「サハ・アルジュエティ…?なんだそれは?」
「要は革命軍よ。もう国の中枢は陥落してる。だから革命軍を結成して少しでも長く侵略に抗っているの」
「いや待て待て!あまりに唐突すぎんだろ!大体お前は国から俺たちの監視を命じられてるはずだ!そんな奴のいうことなんざそう簡単に信じられるわけねえだろ!!」
「……」
マリンは返す言葉もないのか、ただ押し黙っている。悪路を走る車の音だけが聞こえる。
「ん?なんだ……?この音……?」
車の音とは別に、何か地面が削れるような音が聞こえてくる。それはどんどんと近づいてくるように聞こえてくる。
「ッッ!!みんな!!車から離れろ!!」
俺は横にいたイズラを抱えて車から飛び降りる。続いてマリンとルカが同時に降りた瞬間、俺たちが乗っていた車は何かに貫かれて大きな爆発を起こした。
「なんだ!!??あれは!!??」
爆風の中、一つの影が揺らめいている。それは煙から顔を出すと、こちらめがけて全速力で近づいてくる。
「ロボットか!!」
体長は俺の二倍はあろうそのロボットは俺目掛けて手刀を突き出した。
「” 旋回” !!」
目の前に小さな風の渦をつくり、ロボットの攻撃を逸らす。その一瞬のスキにイズラはロボットの顔面にしがみついた。
「雷光電!!」
激しい電撃を浴びせるが、ロボットは何事もなかったかのようにイズラを振り払った。
「チッッ!!電撃が効かねえ!!」
「二人ともどいてッ!!」
マリンの声掛けと同時に俺たちはロボットから離れた。次の瞬間、マリンがロボットの頭部目掛けて巨大なハンマーを振り下ろした。
「ッッどおりゃァァァァ!!!」
強烈な一撃を喰らったロボットの頭部は外殻が剝がれ、中の機械が丸見えになっている。
「僧正!!」
ロボットに反撃の機会を与えず、ルカが放った氷の腕が壊れかけの頭部を掴み、とてつもない冷気を噴出した。急速に冷やされたロボットは黒い煙を吐きながらその場に倒れて動かなくなった。
「……もう動かないよな……?」
「なんでこんなもんが俺たちに…?」
「おそらく、皆さんを事故に見せかけて殺すつもりだったのでしょう。でも、まさか護衛中のわたしごと殺そうとするなんて……」
「でも、これではっきりした……あなたが味方だってことがね」
ルカがマリンの肩に手を置く。
「ありがとうございます……襲撃されて信用されるって喜んでいいやら悲しんだらいいやら……」
マリンは頭を掻きながら苦笑いをした。ルカはマリンの肩から手を離すと、周囲を警戒し始めた。
「今すぐここから離れた方がいいわね。敵がこのロボット一体とは限らない。追手に来られると非常に厄介ね」
「それなら印が描いてある場所へ向かいましょう!場所はわかるのでついてきてください!」
「今はそうするほかないな……マリン、案内してくれ」
俺たちは破壊したロボットの残骸をそのままに、急いでその場を離れた。
「さっきから景色が変わらないけど、本当にこっちの道で合ってるのか?」
ずんずんと進むマリンの背中を必死に追う。マリンは目印もない砂漠を地図も確認せずに進んでいく。
「合ってる……はず!間違ってなければ……!」
砂の上を随分と歩いたが、未だに後ろから追手は来ていない。いつ現れるかわからない追手に気を張りながら進む。俺は歩きながら腕の端末を起動させる。やはり出てくるのはエラーコードだけだった。
「くそッ!やっぱりだめだ!通信が回復しない……!」
「あきらめなさい。敵はわたしたちがオルタに救援を呼ばないように衛星通信を阻害してるはず。いくら待っても回復しないわよ」
せめてロッカの地図だけでも見たかったが、それすらも見られない。俺たちが目的地につけるかは、マリンの土地勘にかかっていた。
「……!!あった!!あそこ!!」
マリンが指さす方を見たが何もない。
「何もないぞ!本当に合ってるのか!?」
「地面をよく見て!」
マリンに言われた通り地面を凝視すると、何やら黒い影が見える。しかし、周りには影ができるような大きなものはない。
「あそこは大きな穴になってるの!あの穴の下にサハ・アルジュエティの拠点がある!急ぎましょう!」
やっと目的地が見えた俺たちは残った力を振り絞ってその大穴へ向かう。しかし、遠くから何かが走る音が聞こえてくる。
「まさか……!!」
後ろを振り返ると、十数台程の車がこちらの方へ全速力で向かってきていた。
「ヤバイッ!!走れ!!全速力だ!!」
息も絶え絶えになりながら大穴へ走り出す。やっと大穴の前へ到着したが、追手はすぐそばまで近づいてきていた。
「追いつかれるぞ!この後どうするんだ!?」
マリンは大きく深呼吸をし、目を見開いた。
「飛び込むのよ!!!」




