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第九章

翌日の朝、エオーラは起きてこなかった。

メイドに尋ねると「調子が悪いので起きたくない」ということである。

朝食に集まった時にカールが「やはり私のリードが悪かったからか」とか何やらぶつぶつ言って顔色が悪くなってきた。

「私がお部屋に行って様子を見てきますわ」

「セレスティア様、よろしく頼む」

フレデリックにそう言われてわたしは食堂を出てエオーラの部屋に向かった。

ノックをしてエオーラの部屋に入るとエオーラは頭から布団をかぶっていた。

「どうしたの?エオーラ。どこか調子が悪いの?」

「セレス様、私カール様に嫌われていませんでしょうか。彼のところに行って嫌われるのが怖い。カール様にお会いしたいけれどお会いしたくないんです」

「カール様は今朝あなたが食堂に来なかったので心配していたのよ」

「そうなのですか。私はどうしたらいいのかわからないのです」

「わかりました。とにかく朝食は来なくて結構です。私がなんとか誤魔化しておきます。けれども夕食には必ずいらっしゃいね」

「はい,ありがとうございます」

こんなしおらしいエオーラを見るのはは初めてじゃないかしら。

私はエオーラを残して食堂に戻った。

心配しているみんなには「エオーラは熱や咳などはありませんでした。ただ気分がすぐれないということで少しお休みしたいだけのようです。夕食には来られますねと聞いたら来られるとのことで今日は休ませておくことにします」と説明した。

カールは少し表情を明るくして「そうですね。昨日のことがありますからしっかり休まねばなりませんね。夕食にお会いするのを楽しみにしております」と言った。

結構健気な青年じゃないの。

「さあ、みなさん遅くなってはいけませんから早く朝食を済ませましょう」

朝食後に礼拝堂に行ってポーションを確認することになっていた。

私とフレデリックとで礼拝堂の地下倉庫に行って、そこに保管しているポーションを見に行く。

「自分で言うのもなんですが、このポーションはリンデン騎士団に使っていただいて評判もよろしいんですのよ」

「素晴らしい。こんなにたくさんのポーションがあれば団員も安心して討伐に当たれるよ。とりあえず半分くらいをもっていかせてもらう」

「はい。足りなくなればまた作りますので遠慮なくおっしゃってください」

「ところで、エオーラ嬢のことだけれど本当に大丈夫なのかい?」

「実は病気なのです」

「えっ?」

「彼女は今『恋煩い』という名の病気にかかっているのです」

「なるほど。やっぱりカールに一目惚れって感じなのかな」

「どうもそうみたいですね」

「私が見るにカールが彼女を見る目も他の女性を見る目とは違っていると思うんだけれど」

「そうですね。私はなんとなく彼女の恋は果断に突っ込む竹を割ったような恋だと思っていたのですが、今の彼女は恋に恋する乙女なので」

「なんだかじれったいね」

「フレデリック様、今運搬のための団員が到着しましたが、ポーションをどれだけもってゆくのでしょうか」

「お、カールか。入ってきてくれ、今指示する」

カールと騎士団員が倉庫の方に入ってきたので私はすまし顔をする。

およそ半分くらいのポーションが持ち出されたので今日からはまたポーションの作成に入らなければならない。薬草を調達するために私とノーラは騎士団と一緒に街の方に移動した。

薬草を買い込んで別荘に戻るとお昼である。

エオーラは食堂にやってきたが、髪もボサボサで顔色もあまり良くない。

「大丈夫?エオーラ」

「カール様はどうでした?私のことなんて気にもされていなかったでしょう」

「そんなことないない、ですよね。セレスティア様が夕食にはあなたもくるって言っていらっしゃったのでカール様もほっとしていらっしゃいましたよ」

「えっ、夕食はお部屋でお願いしようと思っていたのに」

「ダメですよ、エオーラ。カール様にも元気になったエオーラを見せなきゃ」

「で、でも。カール様が私なんてみたくないなんておっしゃったら私、生きていけない」

「心配しないで。私もノーラもフレデリック様もあなたの味方よ」

「カール様もあなたを心配していらっしゃったのだからいきなりあなたをみたくないなんておっしゃるはずないわよ」

「フレデリック様に聞いたらカール様には今は婚約者も恋人もいないっていうことだからチャンスなのよ。そんなの押して押し捲らなきゃどうするのよ」

「だって恥ずかしいじゃないですか」

「もういいわ。まずは食事を食べてしまいましょう」

午後はポーション作りに精を出していたらもう夕方である。

フレデリックたちも帰宅してきた。

エオーラについては侍女たちに湯浴みをして綺麗にするように申し付けている。

さすがにあのボサボサ頭で来られたら百年の恋も冷めるというものである。

その間に私はマシューとマーサに何か恋人たちのイベントがないか聞いてみた。

二人とも「それは月と水の祭りしかないでしょう」ということだった。

夕食には美しくなったエオーラがやってきた。

カール様はエオーラを見てほっとして、その美しさに息を呑んでいるようだが、エオーラはカール様の目を見ようとはしていない。

せ、せっかくのチャンスなのよ!

「エ、エオーラ,調子はどう?」と尋ねても「ええ」とボソボソとした返事が返ってくるだけである。

フレデリックは遠くを見つめている表情だし、カール様はひたすら食事に集中している。

なんだか場の雰囲気が悪くなる一方じゃない!

「あ、あのね、フレデリック様」私が呼びかけるとフレデリック様は瞑想から目覚めたような顔をして「どうしたの?」と返事をしてくれた。

「あのね、フレデリック様。もうすぐこの町では『月と水の祭り』があるの。よろしかったらみんなで行きませんか?」

「そういえば秋にはリンデン領の新都では『月の祭り』が有名だね。それとは何が違うの?」

「ええ、『月の祭り』は新都には湖がないので月だけをお祭りするのです。けれどもここは湖があるので湖のほとりで月と湖をお祭りする祭りがあるのです」

「へえ、湖のほとりで月をお祭りするなんてロマンチックだね」

「ええ。その湖には古代の城や街が沈んでいるという伝説があるのです」

ノーラが続けた。

「その城を見たカップルは永遠に結ばれるという伝説がありますのでここの『月と水の祭り』は別名恋人たちの祭りとも呼ばれるのです」

「マシューとマーサに聞いたらどちらも城なんて一回も見たことがないって言っていましたけれどね」

「でもすごくロマンチックじゃない。ぜひ行ってみたいね」

「ではそのように予定を致しますね」

「カールもマルコも来るだろう?」

「「もちろんお供いたします」」

夕食後にマシューとマーサに『月と水の祭り』の詳細を聞くことにした。

祭りは単純なもので、サイラル湖のそばに行って月を見るだけらしい。水の洗礼という儀式もあるが、これは単純に湖の水に足を漬けるだけでいいらしいという単純なものである。

もしその時に虹の橋が掛かると湖の底から古代の城が浮かび上がってきて虹の橋を使って城まで行くことができるらしいのだけれど実際には虹の橋をみた人はいないということである。



第三騎士団は黒の森に調査を行い、いくつかの魔獣の群れと小規模な瘴気の沼を発見した。

瘴気を浄化するためには大量の白い魔力が必要である。

私は白魔力を魔石から利用しているので浄化のためには大量の白魔石が必要になる。

不幸にも第三騎士団には浄化のできる聖女は帯同していなかったので、私が浄化を担当することになった。

もちろん白魔石の経費は第三騎士団持ちである。

私と護衛騎士のエオーラは第三騎士団の部隊と共に森の中に入って行った。

フレデリック様とカールも同行していた。

エオーラは久しぶりに騎士服を着て機嫌は良さそうである。

ゼフィルもご主人様のエオーラの調子が良くなったことに気がついているのか機嫌よく走りまくっている。

他の騎士が「可愛い子犬ですね」なんていうとエオーラは「違うぞ、フェンリルの仔だ」なんて言って騎士たちをドン引きさせている。

瘴気の沼の近くに来ると魔獣が増えてくるのでエオーラとゼフィルは他の騎士に混じって機嫌よく魔獣を屠っている。

フレデリック様は「すごいな。エオーラの前では魔獣もかたなしだな」と呆れたように言っているし、カールはもうキラキラした瞳でほおを紅潮させてひたすらにエオーラを見ている。

それを見ていた私は(ちょっとは遠慮しなさいよ。私は何日か前に婚約破棄証明書にサインしたばかりなんですからね。この幸せ者たちめ)とちょっとやさぐれてしまう。もちろん表情はすまし顔を維持している。

「まあ、私たちは上級地下迷宮も制覇したことがありますからね。これくらいの魔獣はエオーラにとっては準備運動にもなりませんわ」

公爵令嬢ともあろうものがエオーラに嫉妬してプンスカするわけにもいかないのでちょっと毒を含ませた自慢をしてみた。

もしかするとこういうのが『悪役令嬢』というものかもしれない。

カールは「そうなんですね。上級迷宮を制覇した騎士ならばこの程度の魔獣など苦もなく倒せるということなのでしょう」ともうエオーラを崇拝しているように感嘆した声をあげた。

(もうダメだといっていいよね。愛のパワーには負けるわ)

やっぱりすまし顔に戻して黙って進んでゆくとひときわ大量に魔獣が出現した先に瘴気の沼から魔獣が生まれているのが見えた。

フレデリック様が「あれが瘴気の沼だ。セレスティア様、浄化の技をお願いします」といった。

とりあえず中くらいの白魔石をセットして浄化の技を使うと生まれている途中の魔獣たちが全部砂のように消えて行った。

「あ、魔石の魔力が尽きた」

ということで魔石を取り替えて浄化の技を進めてゆく。

何個もの魔石を消費することでやっと瘴気を完全に消し去ることができた。もう瘴気は全くなくなって沼のあった場所は乾いた土の地面になっている。

騎士たちはその変化に驚いていて、もしかして公爵令嬢は聖女なんじゃないかと囁きあっている。

あのねえ、私の魔力じゃなくて魔石の魔力で浄化しただけなのよ。聖女なんてものではないわ。

フレデリック様も「さすがはリンデン公爵令嬢だ。神のみ技は素晴らしい。さあ勝鬨を上げて凱旋だ!」とかいって他の騎士たちと共に盛り上がっている。

エオーラもカールと騎士の心得とか倒した魔獣の話で盛り上がっているではないか。

これまでの私の苦労はなんだったの?このまま両片思いが両思いになって恋が成就するの?

そんなことになれば私一人が取り残されちゃうじゃない。

ふとその事実に思い当たってずんと肩が重く感じてしまう。

まだノーラがいるはず。ノーラだけは仲間だよね、と今日は別荘でお留守番のノーラを思ってなんとか精神の平衡を維持した。

森を出て街道に戻ったところでフレデリック様が私の肩をポンと叩いて「今日はどうもありがとう。こんなに順調に行ったのは君のおかげだよ」って爽やかに言ってくれた。

もう、人の気持ちも知らずに。そうだ。魔石の費用請求は目一杯書いてやろう。

私がこっそりと復讐心を燃やしていることにも気が付かずフレデリック様は満面の笑みを湛えていた。

エオーラは別荘に帰ってきた後すぐに疲れも見せずにトレーニングに出かけてしまった。

あの落ち込み具合はなんだったの?私はなんだか落ち込んでしまってノーラにその愚痴をぶちまけていた。

「あれだけ落ち込んでいたエオーラって今日の魔の森の探索でちゃっかりとカールと仲良さそうに話をしてたのよ。あれだけ心配していた私が馬鹿みたいじゃない。こっちだって婚約破棄で彼氏なんていないってのに」

ノーラは冷静に答える。

「セレス様。早くお相手を見つけましょう。今はフレデリック様はお相手いないそうですよ。狙い目じゃないですか?」

「はあっ?フレデリック様って第一王子よ。第二王子に袖にされた私が第一王子に粉かけてどうするのよ」

「フレデリック様ってイケメンだし優しそうだし、手っ取り早く捕まえやすそうじゃないですか」

「もし捕まえてごらんなさい。いきなり王宮に連れ戻されて王妃様の仕事のお手伝いをさせられるわよ。そうなれば王妃様の手の内で転がされるだけじゃない。王妃様が高笑いしそうだわ」

「政略結婚じゃないんですから素直な気持ちを出せばいいんじゃないですかねえ」

「ああ、もうむしゃくしゃしてきたわ。ベッドでゴロゴロする」

そうして私は無意味にベッドでゴロゴロ転がっていたのである。

翌日にはエオーラは朝早く起きてトレーニングを開始したようである。どうやらカールもそれにお付き合いしてトレーニングしているようである。よかったわね。

どうやら今日は騎士団はオフの日のようである。

裏庭でフレデリック様やマルコとカールとエオーラが剣の練習しているのをよそに街に行って薬草を買ってきてポーションを作らないと結構ポーションが減ってきているのである。

朝に薬草を購入してきた後、昼からはずっと礼拝堂に籠ってポーションを作り続けていた。

もう何時間経ったのだろう。ちょっと疲れてきた時にノーラが入ってきて「セレス様、お茶にしませんか?」と言ってくる。

まあ,大体予定の量はできたからいいかなと思って作業を終わらせて部屋の方に戻った。

リビングには大きなお皿にフルーツパイが載せられている。

フレデリックをはじめとした騎士たちもいた。

フレデリックは「じゃあ、セレスティア様もきたからお茶にしましょう。サラ、お茶を入れてくれるかい?」と言ってパイをお皿に入れて配り始めた。

程なくお茶もサーブされ、フルーツパイを食べてみると、サクサクしたパイ生地に酸味と甘みが程よくバランスされたフルーツがのっていて美味しい。

思わず「こんな美味しいフルーツパイは初めてです。どこで購入されたのですか?」と聞いてしまっていた。

と、フレデリック様が「実はねえ、これは僕が焼いたパイなんだ」と言う。

ちょっと自慢げである。

「え?王子様、いや、公爵様がご自分でパイをお焼きになったのですか?」

「ええ、留学中にパイを作る名人に弟子入りしていましてね。それでいくつかのお菓子は作れるようになったのです」

「それはすごいですねえ」

「まだありますからおかわりはどうですか?」

「ぜひいただきます」

なんだか胃袋を掴まれるってこういうことなのかもしれないが、だって美味しいんだもん。お代わりしたくなるよね。

ノーラはソファの隅の方に座って私の方を見てニヤニヤしている。

そんな顔で見られるとフレデリック様のことを意識しちゃうじゃない。フレデリック様はお兄様、お兄様、お兄様よ!



数日して『月と水の祭り』の日になった。街の広場には屋台が出て店もそれぞれに飾り立てている。

フレデリック様とカール達とは街の広場で落ち合い、何か食べてから湖に向かうことになった。

屋台の数はそりゃ新都の『月の祭り』に比べると少ないけれど、それでも肉串を焼くいい匂いやカラメルの甘い香りが漂ってくる。

屋台を一回りして買ってきた戦利品を広場のベンチで持ち寄って食べる。

外で食べるって美味しいよね。

機嫌よくよく焼けた肉の串を食べていたらフレデリック様が口の側にソースがついているといきなり指で私の口の近くを拭い取り、その指をぺろっと自分の口に入れてしまった。

「フレデリック様、そ、それは反則ですわ」

私が怒るとフレデリック様は「悪い悪いごめんね」と少しも悪くなさそうに微笑みながら言う。

私も怒るのがバカらしくなって黙るとフレデリック様は満足そうである。

フレデリック様はおそらく今日のために準備していたであろう焼き菓子を出してきて私に「じゃあお詫びにこのお菓子をあげるよ。食べてみて」と満面の笑みを湛えて差し出してくる。多分フィナンシェだろう。

「もう、フレデリック様ったら」と言いながらつまんで食べると美味しく焼き上がっていた。

いけないと思っていてもいつの間にか口元が緩んでしまう。

「気に入っていただけて幸いだよ」とフレデリックにイケメンボイスで言われるとどう反応していいかわからない。

お菓子を拒否できないこの私の胃袋が悪いのよと思うけれどそんなことは言えないのでちょっと俯く。なんだか顔が熱いわ。

お腹を満たした後は湖に向かうことにした。

エオーラとカールは「私たちがいれば魔獣など怖くありません」と頼もしく言ってくれる。

どうやら彼らは騎士の話についてはちゃんと喋れるらしい。恋人トークをしようとした時にはどちらも真っ赤っかになってもじもじするだけなのだが。

まあ、恋には色々なものがあるから別にこの二人が異常だということもないだろう。エオーラもカールも幸せになってほしい。

そんなことを考えていると,急にフレデリック様が「じゃあ私はセレスティアをエスコートしよう」と手を差し出してきた。

いかん、エオーラとカールのカップルのことを考えていたためか重ねた手の体温が熱く感じてしまう。なぜか顔も熱くなってくる。

いけないわ、フレデリック様はお兄様よ、お兄様だから!と必死で平静を装おうとした。すんとすまし顔にしようとしたがうまく行っているかはわからない。

あんなことを言ったノーラが悪いのよ。それまでは気にもしていなかったのに。

もう悪いのはノーラだと心の中で責任転嫁をして歩き続ける。

ノーラを見るとなぜか私と同じようにすまし顔をして歩いていた。

湖までは15分くらいである。

ちょっと歩いたかなと言う程度で湖が見えてきた。

恋人の祭典という通り,すでに何組かのカップルがいて、思い思いに座って何事かを語り合っているようである。

屋台などはほとんどなく、恋人達が主役になるのが湖での『月と水の祭り』である。

そういえばノーラってば婚約者がいたんだっけね。

私は知らなかったのだが、学院の卒業を機にご両親が近くの領地の伯爵令息との婚約を決めたらしい。

けれども、あの卒業式後の騒動で彼女は婚約者との婚約式を行うことができなかったそうである。

ドミニクの愚行がこんなところにまで影響を及ぼしているのかと心苦しい。

ノーラは婚約者は幼馴染だからわざわざ婚約式なんてしなくても大丈夫と言っているが、私のわがままにつき合わせているようで軽い罪悪感は拭えないのである。

幸いにもあのメイヤーの夜会の時にノーラの婚約者殿も参加されていたようで、ファーストダンスの後、マルコが騎士団員の方に行った後にメイヤーの館で婚約式を取り行ったそうである。

ノーラはその時にもらった婚約指輪を私に見せてくれた。ダイヤの嵌まった瀟洒な指輪でセンスは悪くない。

私にもその婚約者さんにご挨拶させてよと言ったらその令息は次期伯爵としての教育があるからさっさと領地に戻ったとのこと。

クソ真面目そうで遊び人じゃなさそうなところもポイントは高いわ。

よく見るとノーラの左薬指には指輪が燦然と輝いていた。

あっ、つまりこの三人でフリーなのは私一人っていうことね。

そりゃフレデリックお兄様を仮の恋人役にすることはできるけれど、それはフレデリック様にも悪いわね。

かといってもう外国の王族くらいじゃないと私に釣り合う人はいないような気がする。

こりゃ詰んだわ。

王妃様もお父様も私が海外に出奔して他国の王族と接触しないようにこの公爵領の辺境で感心することに賛成されたんだものね。

二進も三進も行かなくなった自分の境遇を考えると確かに表情はなくなる。

けれども今はフレデリック様にエスコートされている身として微笑みを続ける必要がある。

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