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第七章

そうやって勇者パーティとはいがみ合いながらついに卒業式を迎えたのである。

本来ならば卒業とともに私とドミニク王子は結婚準備に入って一年後に結婚式という手筈だったのだけれど、この状態で結婚式なんて無理なんじゃないかというのが常識的な意見だろう。

それでも無事に卒業式は挙行されて、私は無事に首席で学院を卒業することができた。

もっとも、学校側の配慮によって卒業生総代として挨拶したのはドミニク王子であった。

そんなところでトラブルを起こしたくない私はニッコリして卒業生挨拶の役目をドミニクに譲ったのである。

下手に挨拶などして目立ってしまって勇者パーティから攻撃されては敵わない。

卒業式の後は卒業パーティである。

保護者も出席するのでもしかするとドミニクの保護者として国王陛下夫妻も出席するかもしれない格式高いパーティである。

もちろんドミニク王子からのエスコートの申し出も何もない。

私は仲の良い友人達と一緒に参加することにした。

パーティ会場は学院のもっとも格式のある広間である。

王家の夜会ではないので入り口で受付を済ませるとそのまま広間に入ってゆく方式である。

その真ん前にはドミニク王子がマージーを連れて待っていた。

その目は爛々として広間に入ってきた私を睨みつけている。

明らかにドミニク王子が私を見据えているので仕方なく挨拶をしよう。

「これはドミニク王子、お久しうございます。お変わりありませんか」と完全に他人行儀の挨拶をして完璧なカーテシーでお辞儀をするとドミニク王子は「き、き、き、貴様!」と顔を真っ赤にしている。

仕方がないので表情を消してすまし顔をして向き直るとドミニク王子はいきなり私を指さして叫んだ。

「私、ドミニクはセレスティア・リンデン公爵令嬢との婚約を破棄する!」

予想はしていたけれどこんなところで叫ぶかという予想外の展開に思わず「はあ」とちょっと間抜けな返事をしてしまった。

そうするとドミニク王子はそれに力を得たみたいで「お前は『悪役令嬢』としてこのマージー嬢に暴力を振るい、虐待を行った!これは許されざる罪だ!」と大声を出し、それから私がやったという「犯罪」を縷々語り始めた。

それはデレクがいつも騒いでいたのと同じ話題だった。それをつっかえもせずに流暢に語っていたのでもしかすると結構前から練習していたのかもしれない。

まあ、王子様もデレク並だったのねと心の中では思わず嘲笑しそうになるのを堪えて私は「私を『悪役令嬢』とお呼びになり、その根拠としてそこのデレクが騒いでいるようなことをそのままお語りになった事を聞くに、少し失望しております。というのもデレクの主張については既に学院で調査が入っており、今お語りになった全てで根拠がないもしくは矛盾する主張であることが明らかになっております」と返事した。

それを聞いてドミニク王子はギョッとした顔をしてデレクの方を見た。デレクの顔は赤くなったり青くなったりしている。

すかさず私は「ドミニク王子ともあろう人が不確かな噂、それも調査で否定されていることをまるで真実のように語るとは思いませんでした。王子たるもの公正に事実を調査して真実のみを語られるようになさるものと考えております」と畳み掛けた。

王子は傷ついた獣のような唸り声を出したが、急に朗らかな顔になって喋り出した。

「この『悪役令嬢』めが。さかしらな事を言って自分を守ることには長けておるようだ。けれども、お前が婚約破棄されるのはしかたがない。なぜなら私はこのマージー嬢と婚姻を結ぶからだ。私は『真実の愛』を見つけたのだ。その相手はお前ではない!」

王子はもう勝ち誇った顔をしている。

私はため息をついた。

「ドミニク王子、結婚は家と家との契約です。あなたはそれをお破りになった。有責であるのは王子とお認めになられたということですね。承知しました。王家が我が家に支払ってもらうべき賠償金については我が家の当主である父と王家で協議いたしましょう」

さすがにそこに国王陛下の名を出すのは不敬に取られるかもしれないので遠慮した。

ドミニク王子はギョッとした顔をしている。婚約破棄という無茶苦茶な事を言い出したけれど、それがどういう意味を持つのかきっとわかっていなかったのだろう。

ちらっとマージーを見ると明らかに視線を逸らしている。

「ではごきげんよう。私は領地に引っ込んで謹慎いたすとしましょう。もう王子とは二度と会うこともないでしょう。あと、お城の書類の処理はこれからはちゃんと王子自身でなさってくださいね」

私はこう言うと愕然とした顔をして口をぱくぱくしている王子を置き去りにして既に見つけていた父上のところに駆け寄った。

「父上,手筈通りにいたしますのでご許可願います」

お父様はただ頷くだけで声は出なかった。

国王陛下や王妃様がやってきて引き止められでもしたらまずいので

エオーラがいたので一緒に寮の部屋に戻ると既にノーラがいて、サラと一緒に荷物の整理をしてくれていた。

元々卒業のために寮の部屋は退去する予定だったので荷物の整理も大部分は済んでいる。

残ったものの中で必要なものをトランクに素早くしまい込んで我が家の馬車の方に向かった。

エオーラとノーラは既に部屋の退去準備は終わっていたのでトランク一つで動けると言うことらしい。二人も素早くトランクを持って馬車に積み込んだ。

御者に行き先を告げるとすぐに馬車は動き出した。

無事に王都を出て一晩かけてリンデン領の新都にたどり着いたのはもう明け方になっていた。

ネオサイラルの領主館に来れば王権に領主権が対抗できる。

つまり、仮に王家が私を捕獲しようとして兵を出そうとしても領主である父上の許可なしには立ち入ることはできないのである。

領主館には父上から早馬が着いていたらしく、既にお湯の準備もできていて、疲れた私たちはすぐに湯浴みをして疲れを癒すことができた。

そうして、ゆったりとくつろいでいると朝日がのぼり、豪華な朝食が準備された。

朝食時に執事のフランツが父上からの手紙を持ってきてくれた。

手紙には走り書きで「王家と交渉中。次の連絡を待て」とのみ書かれてあった。

少し交渉は長引くのかもしれない。

付帯情報もないのでそれが我が家にとって吉か凶かはわからない。

とにかく、すぐに王家からの追手が来ることはなさそうなのでゆっくりと朝食をいただくことができた。

昨夜は夕食を摂る暇がなかったので、部屋にあったクッキー何枚かをみんなで分けて食べただけだったので入浴後にはみんな空腹を感じていたのである。

朝食後に執事のフランツに頼んで騎士団に護衛をお願いしたのである。

護衛に来てくれた騎士は昨年の2倍であった。

「こんなにたくさんの護衛が必要なの?」

「ええ、ここ最近は魔獣の被害が増えています。街道も以前ほど安全ではなくなりました」

「私たちもおばあさまの別荘で落ち着いたならば魔獣狩りのお手伝いをしなければならないかもしれませんね」

「いや、お嬢様のお手を煩わせなくても騎士団の意地をかけて魔獣の被害から守り抜きますとも」

「よろしく頼みますね」

そんな会話を交わしながら馬車を護衛してもらって旧都に向かうことになった。

街道を進んでいると、確かに昨年に比べて森の雰囲気は禍々しさを増しているようで、なんだか獣に見つめられているような気がしないでもない。

隊長は「大丈夫です。昼間は魔獣どもも森の中から出てくることはありません」と教えてくれた。

「夜は危険なのね」

「武器を持たない領民には夜の間には必ず街の中に入っているように言っています」

夕暮れ時にたどり着いた村では村の周囲を木の塀で囲っている。

前回は人通りが少なくなかったけれど、今日はまだ太陽の光は残っていたけれどもほとんど人通りがなくなっている。

宿屋に着くと、宿屋の主人は表面は穏やかな顔をしていたが、騎士団の隊長の顔を見ると明らかにホッとした様子をした。

「いや、この宿も頑丈な作りですし、塀を越えて魔獣が侵入してくることもありません。その上騎士団の方々が守ってくださるので安心ですね」

ちょっと安心じゃないような気がする。

とにかく夕食を済ませて部屋に戻る。

月夜で明るいのだけれどちょっと嫌な気分が残っている。

遠くではオオカミの遠吠えが聞こえる。

しばらくうとうとしていると向こうの方でドン、ドン、と塀に何か打ちつけるような音がした。

その音で目が覚めたので窓から向こうを見ると塀を撃ち倒して銀色の大きな塊のようなものがこちらに突進してくるのが見えた。

ふと反対側を見ると、宿の馬屋の方から奇妙な形をした黒い鳥のようなものがバタバタと羽ばたいて逃げてゆくのが見えた。

護衛していた騎士の一人が「フェンリルだ!」と叫ぶのが聞こえる。

宿屋の柵の外で警護していた騎士の一人が銀色の塊、巨大なオオカミのような魔獣と戦っているのが見えた。

応援の騎士が2人ほどそちらに向かっているのが見える。

私は夜具の上に外套を羽織って部屋から廊下に出た。

隣の部屋からエオーラも出てきた。

「お嬢様、危険ですよ」

と言い残してエオーラは剣を持って階下に駆け降りていった。

私もその後に続く。

裏庭の馬屋の方に通じるドアから外を見ると三人の騎士とフェンリルが戦っているのが見えた。騎士の1人はすでに重傷を負っていた。

エオーラはドアを出てフェンリルの方に向かっている。

フェンリルは戦闘不能になった一人を除く二人の騎士を吹っ飛ばして宿屋の裏庭に突っ込んできた。

エオーラはしっかりと立って迎撃の姿勢を構えた。

飛びかかってきたフェンリルに対してエオーラがサッと剣を繰り出した。

剣は過たずフェンリルの肩から胸の方に切り裂いてたまらずフェンリルはギャン!と悲鳴をあげて倒れ込んだ。おそらく致命傷だろう。

そのフェンリルはエオーラの方には目もくれず、厩の方を睨んでそちらに向かおうとする。けれども大量の出血で足も満足に動かせないフェンリルは睨むことしかできない。

そういえばさっき変な鳥が居たわよね。

私は馬屋の方にかけてゆくと、そこには小さなオオカミの赤ちゃんが傷だらけにされて瀕死の状態で転がっていた。しかも表面には瘴気が纏わされている。

私は白魔石を起動して瘴気を浄化した上で治癒の魔法をかけて赤ちゃんオオカミの傷を治療した。

傷を治療された赤ちゃんオオカミは元気になってオオカミの体を掴んでいる私の手をぺろぺろ舐めるようになった。

私はその赤ちゃんオオカミをフェンリルの下に連れていった。

「もしかしてあなた,この赤ちゃんオオカミを探していたの?大丈夫。ちゃんと治療したから元気になったわよ」

フェンリルは赤ちゃんオオカミを見ると喉の奥からクーンと鳴いた後、目を閉じて動かなくなってしまった。

おそらくもう治癒の魔法も効かないだろう。赤ちゃんオオカミは動かなくなったフェンリルの体を一生懸命舐めていたが、次第に体温は冷えていった。

エオーラが「もしかしてこのフェンリルは赤ちゃんを追いかけてここまできたんですかねえ」とちょっと戸惑った声でつぶやいた。

「エオーラ、あなたは全力を尽くしたと思うわ。さっき、ここから変な鳥みたいな魔獣が逃げ出すのをみたわ。多分赤ちゃんオオカミを連れてきたのはその変な鳥よ」

その時向こうから隊長が私を呼ぶ声が聞こえた。

行ってみると倒された騎士が虫の息である。

慌てて彼に治癒の魔法を使うと、彼は意識はないが呼吸はずいぶん楽になった様子だった。

残る二人の騎士は軽傷だったが、治癒の魔法をかけると「お嬢様にちゆの魔法をかけてもらうなんて名誉なことです」と感激していた。

隊長は「お嬢様、ガントの命を救っていただいてありがとうございます。けれども彼は出血が激しかったのでしょう。ちょっと護衛の任務は難しいようですね」と言った。

騒ぎを知ってこちらにきていた宿屋の主人は「朝まではここで看病します。夜が明けたら神殿の方なお運びしましょう。あちらには治療師がいると思います」と隊長に伝えた。

朝になって、まだ赤ちゃんオオカミはフェンリルの側から離れていなかった。

けれども随分と疲労しているようであった。

セレスティアが抱き上げると対して抵抗もしなかったので、宿屋の方に抱きかかえてゆき、宿屋の主人から牛乳をもらい、少し温めて飲ませてみると空腹だったのだろう、ペロリと平らげてしまった。

エオーラが「お嬢様、私が抱いておきますよ」というので満腹になった赤ちゃんオオカミを抱きかかえてもらうと、赤ちゃんオオカミはすぐに眠り始めた。

裏庭の方にゆくと、騎士たちは穴を掘ってフェンリルの遺骸を埋めようとしていた。

隊長は「お嬢様、こいつは人間を襲おうとしたんじゃない。ただ自分の子を助けたかっただけなんですね。だから解体して皮を剥いだりせずにゆっくり眠らせてやりましょう」と言った。

ただ牙を数本だけ取ってあの赤ちゃんオオカミにとっての親の形見にすることにしたらしい。

騎士の中で器用な者が牙に穴を開けて紐を通してアクセサリーにしてくれた。

そのアクセサリーを持ってエオーラのところに行くとエオーラは「この赤ちゃんの名前は『ゼフィル』にしましょう。きっと早く走る子になります」ともう育てる気満々だった。

私はあの牙のアクセサリーを首に取り付けて首輪みたいにすることにした。

隊長もゼフィルをどうこうしようとは言わなかったのでそのまま馬車に乗せることにした。

次の村に着いた時にはまた変な鳥が来ないか心配して警戒していたが、村を守る塀の外では魔獣らしきものがゴソゴソガリガリしていたようだったけれど幸いにも村の中には侵入してくることはなかった。

そうしてやっとのことで旧都に辿り着き、お祖母様の別荘に入ることができたのである。

ゼフィルはエオーラがテイムの技能を持っていたこともあって、簡単な意思疎通を図ることができるようになり、毎朝のトレーニングでもエオーラとゼフィルは一緒に行動することが多くなった。

昨年、カーテンを入れ替えたり家具を新調していたこともあり、別荘の住み心地は快適だった。

マシューとマーサは丁寧なケアができる人であり、厨房の食事も美味しいのである。

私たちは緊迫した旅の疲れを癒すことができた。

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