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第十三章

翌日、朝早くから騎士たちが迎えにきている。

フレデリック様によると今日は魔界の王子を退治する日である。

朝ごはんの時にはフレデリック様は相変わらずごきげんだったが、ジェラルディン様は私の方を見ようとはせずにノーラやマルコと話しているようだった。

エオーラとカールは二人でラブラブ光線を出しているからそこに立ち向かうのはそれは大変であることは間違いない。

ちょっとよくない雰囲気を感じるが、既に騎士団の先触れが来ているのである。準備をしないわけにはいかない。

フレデリック様の馬に乗るので貧相な格好をするわけにはいかないが、動きやすい格好のドレスを選ぶ。

フレデリック様は既に準備ができているみたいで馬のそばに立っていた。

私が先に馬に乗り、その後にフレデリック様が乗る。

今日は途中の瘴気の浄化は行わず、できるだけ早く異界の王子を目指すらしい。

異界の王子の周りには強力な魔獣がいることが考えられるので今日はエオーラはゼフィルを連れてゆくことになった。

「プラタはどうするの?」

私は小さなプラチナドラゴンに聞いてみる。

プラタは力強く「ふん、ふん」と頷き、口から小さな煙を吐き出す。

「じゃあプラタ、あなたもついていらっしゃい」

そうして私はフレデリック様の騎馬に乗せてもらう。

その後ろをパタパタとプラタが飛んでついてくる格好になった。

街道に出ると街から来た残りの騎士団の部隊と合流した。

昨日の聖女たちがいたのでフレデリック様の馬の上からご挨拶を送った。聖女たちもカーテシーをして挨拶を交わしてくれた。

森に入るところで辺りを見ると、先頭の方にエオーラとカールがいる。そばに巨大な狼、ゼフィルがいるのでわかりやすい。

一方でジェラルディン様の姿は見えない。他の騎馬部隊に紛れたのか馬を降りたのか、先ほどまではいたのだけれど。

フレデリック様はジェラルディン様の姿が見えなくても平然としているからきっと予定の行動なのだろう。こんな時に私がいらないことを言って余計に混乱させてはいけないと私は黙ったままにした。

今日は先頭がゼフィルとエオーラ、そしてカールが務め、私たちは部隊の中団にいる。

瘴気の浄化はやらないので行軍速度は比較的早い。

森に入って1時間くらいで昨日浄化した沼のあたりを通り過ぎた。

この辺りで小休止して昼食を食べておくことになった。

馬を降りてフレデリック様とお弁当を開けた。

中はサンドイッチで、私とフレデリック様の分なので箱は少し大きめである。

フレデリック様と私とで三角形に切られたパンをつまみ上げて齧り付いた。

私が半分くらい食べたサンドイッチをフレデリック様は「美味しそう」と言って横から齧り付き、そのまま全部食べてしまった。この男、緊張感がなさすぎじゃないかしら。もしくは魔人などを恐れることのない器の大きな男だったということか。

一応は後者ということにしておこう。

それ以降は私のサンドイッチを取られないようにしてフレデリック様の齧りかけのサンドイッチを「これちょうだい」と言って食べてやった。逆襲成功である。

それなのにフレデリック様はなぜか嬉しそうにしていた。

(あ、これって間接キスじゃない)

そのことに気づいた私は顔から火が出るような感じを覚えて心臓がドキドキしてきた。

フレデリック様は私の方を見てニマニマしているのでもうわざと視線を逸らしてプイッと横を向いてやったがフレデリック様は何も動じないようだった。

あまり満腹になりすぎてもいけないので半分くらいサンドイッチを残して「さあ、フレデリック様、出発の準備をしましょう」と事務的に言ってやったらフレデリック様は「ああ、そうだね」と言って立ち上がり、私の腰に手を回してきた。

多くの人が見ている中でフレデリック様とピタッと腰をつけて並んで歩くのは気恥ずかしい。

こ、これはデートじゃなくて魔人討伐なんだからイチャイチャしている場合ではないわ。そもそも私は別にフレデリック様から求愛や求婚を受けているわけではない。私がこの魔人討伐に同行しているのは領主の娘として見届ける義務があるからなのよ。

私は気を取り直して出発の準備をした。

休息を終えた部隊は再び動き出したが、奥に進むに従ってより強力な魔獣や魔物が現れた。

先陣のエオーラとゼフィルは機嫌よくオークやオーガなどの昨日より強い魔物をぶった斬って行ったが、魔物の数が増えてきたので彼らだけでは対応できずに他の騎士たちが対応することも増えてきた。その中には怪我をする騎士もいて、そういう騎士にはポーションが配られていた。

フル活動でポーションを作っていてよかった。

聖女たちも治癒の技を頑張ってくれているが、やはり苦労しているようである。

次第に瘴気も濃くなってきている。私の周りとプラタの周りは瘴気が薄くなっているようで私はフレデリック様の周りの瘴気を中和することに専念して、プラタにはあちこち飛び回って瘴気を薄れさせるようにしてもらった。

普通の人なら濃い瘴気の中では極端な疲労感を感じたり気がへんになって暴れ出したりする人がいるそうである。

周りを見ていても騎士たちが剣を振るったり聖女たちが聖女の技を使う姿は見られるが魔法使いが魔法を使う姿は見られない。

ジェラルディン様は隠れているか別働隊として奇襲でもされるおつもりかな。

もちろんこんなことを不用意に口に出して裏を描かれては困るので私はフレデリック様に尋ねる気持ちを抑えている。

敵の数も増えてきたので部隊の進軍速度は鈍ってきている。けれども、エオーラとゼフィルは着実に敵を屠って道を切り開いてくれている。カールは彼女たちの背後をしっかりと守っている。息のあったコンビであることが見て取れる。

他の騎士たちも怪我をするものがいるがコンビネーションよく敵を撃退しているものが多い。

全体的に順調と言っていいだろう。

そうして進んでゆくと見張りの兵が「前方に玉座と巨人たちが見えます!」と叫んだ。

見ると前方の小高い丘は魔獣で埋め尽くされており、そのてっぺんに巨大な玉座が置かれている。

そこには誰かが座っているようだがここからでは判然としない。

玉座の周りはキュクロプスやエティン(双頭の巨人)他の巨人たちで囲まれている。

「さすがに巨人はきついのではないか」

そう囁く騎士もいた。

けれども、後ろからの圧もある。エオーラとゼフィルは敵を屠りながら前進を続ける以外にない。

だんだんと玉座に近づいていくと、玉座には黒髪の男が座っていることがわかった。頭には捻れたツノが2本突き出ているので恐らくは魔人であろう。

もしかすると異界の王子というのはあの魔人のことかもしれない。

大槌を持った巨人が丘を下ってきてエオーラにその槌を振り上げた。

エオーラ寸前に飛び退いて避けたが、巨人の馬鹿力で振り下ろした槌の跡は地割れができている。

カールが代わりに切り掛かって行ったが槌の勢いに吹っ飛ばされそうになる。その隙にゼフィルが噛み付いたが傷は浅い。

怒った巨人がゼフィルに打ち掛かった隙にエオーラが渾身の一撃を巨人にお見舞いする。

さすがの巨人もよろめいた。

カールも負けずに剣を振り下ろした。

「あの二人と一匹はなかなか息が合っているな」とフレデリック様が感心したようにつぶやいた。

何太刀か浴びせられた巨人は堪らずどうと倒れた。

カールがすかさずトドメの一太刀を浴びせた。

騎士からは称賛の歓声が上がった。

玉座に座った男は端正な顔立ちを歪めて何事か叫んでいる。

玉座の周囲の巨人たちがみな武器を構え出した。

もしかすると巨人たちが総攻撃を仕掛けてくるのかもしれない。

フレデリック様は右手を上げた。

すると、向かって左側から何人かの魔法使いが浮き上がってきて杖を玉座に向けた。

杖からは雷撃や火球や氷の槍が飛び出して巨人たちに襲いかかった。轟音と煙が玉座のあたりを包んだ。

エオーラ達は魔法の範囲内入らないように急いで飛び下がっている。

煙が晴れると巨人達は皆倒れており、玉座にポツンと男が座っているだけになっていた。

玉座の男は哄笑していた。

魔法使い達は再び呪文を唱えている。

「うるさい、去ね!」

男は右手を一振りすると魔法使い達はバタバタと地上に落ちてしまった。一応は聖女たちが結界を編んでいたので致命傷にはなっていないと思うが、結界ごと吹っ飛ばした感じである。

「はっはっは!貴様らは死ぬ前に異界の王子の顔を見ることができたのだ!地獄に行っても自慢できようぞ」

フレデリック様は馬を前に進めながら「地獄に落ちるのはお前の方だ」と異界の王子を自称する男を指さした。

エオーラとカールの横にはいつのまにかマルコも来ていて、二人を守るように構えている。

「わははは、余に奴隷として首を垂れることもせずに傲慢至極じゃのう。良い。余興に遊んでやろう」

「お前の護衛の巨人どもは全滅ではないか。おとなしく降伏すれば命だけは助けてやる」

「ほう、威勢だけはいい小僧だ。その姫君だけこちらによこせばその方たち雑魚どもは無視してやっても良いぞ」

「何を抜かすか、我が姫君は賭け事の対象ではない。おとなしく降参しろ」

フレデリック様と異界の王子の会話はだんだんエスカレートしてきた。

異界の王子は私の方を見て「のう姫よ、そこなひ弱そうな王子よりわしの方が数倍男前でかっこいいだろう。わしも王子じゃからな。さっさとこちらに乗り換えた方が良いぞ」と言ってきた。

「はあ?うちのフレデリック様の方があんたよりも何十倍もかっこいいわよ。あんたなんてお呼びではないわ」

私も声の限り反論した。

「ふふふ、こういう気の強い姫を屈服させるのも乙じゃ」

異界の王子は気にした様子もない。緊張が高まってきた。エオーラたちは既に剣を抜いていつでも切り描かれる体勢である。

フレデリック様はまだ剣を抜いていない。

この異界の王子は強固な結界を編んでいた。先ほどの魔法使いの猛攻に耐え抜いたのもその結界のおかげなのだろう。見たところ結界にはなんの綻びも見えない。

あまり早く結界を解除しても再び結界を張り直されるだけだろうから結界の解除は攻撃の直前にする必要がある。

フレデリック様は「もう一度言う。おとなしく降伏しろ」と最後通告のように言う。

異界の王子は「ハハハ、へなちょこどもなど何十人できても無意味だよ。まずは自分の身の程知らずを思い知ることが重要だよ」とバカにしたように笑っている。

まあ、あの結界があれば普通の攻撃は通らないものね。

フレデリック様はすらりと剣を抜く。一応淡い光を出しているので魔法のかかった剣のようだけれど結界を貫くのは無理じゃないかな。

「姫は馬を降りて安全なところへ」とフレデリック様がいうので私はするりと馬から滑り降りてエオーラ達の後ろに向かう。

エアルには「あいつの結界を解いたら攻撃魔法をよろしくね」と小声で伝えた。

エアルは「なんだかワクワクするねえ」と能天気に返事してくれた。

大丈夫、白魔石はちょっと大きめのを付けているから解除魔法は大丈夫なはずだ。

フレデリック様は「平和的な話し合いに応じないのであればやむを得ない。行くぞ」と叫び、剣を振り上げた。

エオーラたちもフレデリック様の言葉に「応!」と応えて剣を振りかぶる。

さあ結界解除よ、私は腕を向けて結界解除の呪文を無詠唱でかけた。当然最大強度である。

フッ、異界の王子の周囲に張られていた結界が消え失せた。フレデリック様の刃が魔界の王子に食い込んだ。魔界の王子の顔が驚きに歪んだ。その後、次々とエオーラやカール、マルコの剣が異界の王子の体に突き刺さる。

「ぎょえええ………」

異界の王子の魂切るような悲鳴がこだまする。

その直後、エアルが「かまいたち〜」と言ってかけた魔法が異界の王子の手足を切断していった。

手足を失って転がった異界の王子は「貴様貴様貴様!」と叫び、途端に切断された切り口から手足がにゅっと生えてきた。けれども、足にはヤギのような蹄があり、腕はぬるっとした感じの細い緑色をしており、手は三本指であった。どう見ても人間の手足ではなかった。

「貴様貴様貴様!この私をバカにするな!」と異界の王子は叫び続け、フレデリック様は「じゃあこうしてやる」と異界の王子の首を刎ねた。

首を切り落とされた体は立ち続けていて、切り落とされた頭は「ふひふひふひ」と意味不明な言葉を吐き続けていた。

すると、切り落とされた首から新しい頭が生えてきた。その頭は両側に大きな複眼を持ち、口からはブラシのような突起が出ている気味の悪い様相であった。

口は開かないようだけれど、そこからは言葉が出てきていた。

「貴様ら、俺の真の実力を知る時が来たのだ。後悔するがいい」

「それって負けフラグですよね」とマルコが混ぜっ返すようにいうと異界の王子の口から吹雪のようなものが吹き出してきて、マルコを氷漬けにしてしまった。氷柱の中でマルコは動けなくなってしまった。

「お、俺をバカにする奴はみんなこうなるんだ。お前らもみんなこうしてやる!」もう異界の王子の声には狂気が感じられる。

エオーラたちが異界の王子に切り掛かってゆくが新しい手足は強いシールド効果があるようで、傷一つ付かない。

エオーラはめげずに剣を振り続けたが異界の王子に傷をつけることはできなかった。

異界の王子は「ちょこまかと鬱陶しいわね。こうしてあげる」と身振りをすると、いきなりエオーラ座り込んだ。

エオーラはもう子供に戻ったかのように子守唄を歌い出したのである。

これはマージーが受けたのと同じね。

カールも同じように座り込んだ。ゼフィルは主人がいきなり戦闘をやめて座り込んだので戸惑ってしまったのかエオーラを守るように座り込んだ。

私はエアルに「あいつの心臓を打ち抜ける?魔核を破壊するしかないかもしれない」と小声で言うとエアルも「一回やってみる」と異界の王子の心臓を狙った。

異界の王子は座り込んで子守唄を歌っているエオーラを指さして「ウヒ、ウヒヒ」と笑い転げている。

エアルは握り拳を作ってウインド・バレットを異界の王子に向けて打ち込んだ。

狙いは過たず、異界の王子の胸には丸く風穴が開いた。

「やった!」と私は思わず叫んだが、おかしい、異界の王子は倒れることもなく笑い続けている。

異界の王子は笑いながら自分の胸に開いている穴を覗き込むと「うひひ、魔核を壊そうというのはいい発想だ。大体魔核は心臓のところにあるものね」と言い、そのまま穴の空いた胸に手を当てると穴は小さくなってついには塞がってしまった。

「残念だったねえ」

「くっ」

「でも王子様に無礼を働いた不敬な妖精にはお仕置きが必要だよ」

彼が手を振るとエアルの声が聞こえなくなった。

エアルを見るとパクパクと口を動かして何かを言おうとしているけれどその声が全く聞こえてこない。

「ハハハ。礼儀知らずの妖精はしばらく沈黙の呪文で静かにしているといい」

声が出せないのでエアルはもう魔法が使えない。

異界の王子は「さあ、もう邪魔者はいなくなった、姫と結婚式をあげよう」と言ってこちらに迫ってきた。

「待て」とフレデリック様が異界の王子を肩口から切り下げた。

「無駄だと言っているのがわからないのかねえ。愚かな人間だよ」

異界の王子が傷口に手をやるとその傷は一瞬で消えた。

「そうだなああの風妖精の真似をしてやろう『かまいたち』だ」

フレデリック様は全身から血を吹き出して倒れた。

かまいたちが全身を切り裂いたのだ。

「ぎゃあ、このままじゃフレデリック様が死んじゃう!」

さっき異界の王子の結界を解除するために使った魔石はもう魔力を使い切って壊れてしまっている。

全力で治癒の魔法を使おうとすると、お腹に固まった石がポンと弾け飛んだ気がした。

「瀕死の傷の治癒よ!」

魔力詰まりが取れて体を一周した私の魔力は指先からフレデリック様に向かって一直線に飛んで行った。

その瞬間、フレデリック様の傷は全て塞がり、彼は落ち着いた呼吸をし始めた。

そうしている間にも私の魔力は体の中をぐるぐると駆け巡り、魔力がどんどん高揚していくのが感じられた。このままじゃ私の中の魔力を制御できなくなるかもしれない。

というよりもう結構暴走状態よね。頭の中の冷静な部分は魔力の放出を求めている。向こうにあの異界の王子が呆然とした顔をしている。

つまりこいつが悪い。全部この異界の王子の責任だ。

よしっ、浄化の技よ!

体内を駆け巡っている魔力を浄化の技として指先に移す。超高速で回転している魔力の球が指先で膨らんできている。体内の魔力を全部指先に集めてやる。

自分の体より大きな球ができて超高速で回転しているためか、様ざまな色に変化している。もう体の中には魔力はない。空っぽである。

「さあ、魔界の王子、この浄化の技を受けてみなさい!」

溜まりに溜まった魔力を一気に異界の王子に投げつけた。

頭と両腕を残して異界の王子の体は消滅した。

「あっ、あっ、エーテルコードが切断された!もう魔力がない!」

異界の王子はブスブスと煙を出しながら小さくなってゆく。

「あんたはそんな魔力をぶつけてくるなんて鬼か悪魔か」

「悪魔はあんたの方じゃない」

「そうだった」

そんなバカな会話をしている間にも異界の王子は小さくなってゆき、ついには消えてしまった。

それを固唾を飲んで見ていた騎士たちは異界の王子が消えたので大喜びである。

もう体が動かないのを必死で見回してみると氷の消えたマルコは地面に這いつくばっており、エオーラやカールは意識を取り戻したのかキョトンとしている。

(よかった)

私は意識を手放してしまった。

ふと気がつくとガタゴトと騒音が聞こえる。地面からの衝撃が結構痛い。

横を見ると誰かが眠っている。

えっ!フレデリック様?

どうやら驚いたあまり叫んでいたようで並走していたエオーラが「お嬢様、お目覚めですか」と走りながら笑う。

「フレデリック様とはいえ未婚の男女よ!一緒に寝かせるなんてどういうことかしら!」

「緊急事態ですから。お嬢様もフレデリック様も意識不明の重態でしたから」

「も,もう私は意識が戻ったわよ」

「もう少しで街道に帰りつきますからそこまで我慢してください」

「あなたは私の護衛騎士よね」

「はい。永遠の忠誠を」

「もういいわ」

街道に着くと一度荷車を止めてフレデリック様の様子を確認した。フレデリック様のケガは全部治っているし、呼吸も落ち着いている。けれども意識は戻っていない。

頭を打っていないかセンスをかけてみたけれど、大丈夫のようである。

そのまま別荘に向かい、フレデリック様の部屋のベッドに彼を寝かせることにした。侍女たちにフレデリック様の服を着替えさせてもらっている間、ノーラに帰りにフレデリック様と私の未婚の二人が同じ荷車に寝かせられたことを言うとノーラは笑いながら「ではフレデリック様の看病は私がやりましょうか」と言う。

冗談ではない。「私がやりますから大丈夫です」とノーラに言うと「ではよろしくお願いします」とあっさり引き下がられてしまった。なんなのよ。

とは言っても看護については侍女たちがテキパキとやってくれるので私のできることといえばフレデリック様の手を握っていることくらいしかない。

侍女たちが軽食を部屋まで持ってきてくれたのでそれを食べた後はベッドの横で椅子に座って彼の手を握り続けていた。

夜中まで様子を見ていたことは覚えていたのだけれど、いつの間にか眠っていたようである。

なんだか頭を撫でられてきるような気がして目を開くとフレデリック様が起きていて私の頭を撫でていてくれた。私は焦ってばっと起き直った。

「僕がここに生きて寝かされているということはあの異界の王子の問題は解決したということでいいのかな」

「そ、そうですね。きっとあいつはもうこの世界からは退去していると思います」

「それはよかった」

まだまだ朝も早いので誰もこの部屋にはこないだろう。もうちょっとフレデリック様に甘えていても誰にもバレないはず……

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