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第十二章

数日後に第三騎士団が旧都に派遣されるという知らせが届いた。

エオーラはカールに会えるとご機嫌である。

私はとにかくポーションのストックを作らねばならないという義務感でプラタと一緒にポーション作りに明け暮れたのである。

プラタはトムが咲かせる花を片っ端から食べて一週間のうちに結構大きくなってきた。

パタパタと飛ぶこともできる。

怒ったら小さな炎のブレスも吐くことができるが全く熱くない。

エオーラにお世話させているフェンリルのゼフィルも大きくなってきている。

ノーラは「これだけ魔獣が増えたら王都には行けないわね。魔獣を見慣れない王都の人がゼフィルやプラタを見たら王都の人が卒倒するわ」と嬉しそうに嘆いていた。

ポーションの一部は公爵領騎士団に持ってゆき、重傷の騎士に使ってもらった。

「以前のポーションより効果が強そうですね」

「やっぱりそうなんだ」

ノーラのいう通り、今の私の魔力は大聖女の魔力なのかもしれない。けれども魔法も使えない大聖女なんて恥ずかしすぎじゃない。

私が羞恥心でクッションに頭を突っ込んでグリグリしていると、エアルは「そんなこと言うけどねえ、あんたは既に大聖女だよ。だって多くの助けられた騎士たちや領民たちがそう思っている訳だしね。そもそも魔法っていうならば私と契約しているんだから私の精霊魔法はもう使っているんだよ」と言ってくれる。

「でも」

私は納得できないのである。エアルの魔法を私の魔法というなら白魔石を使ってかけた私の白魔法は私の魔法と言っていいのか。

あの勇者パーティーのデレクにはそのことで魔法を使えないと散々馬鹿にされてきた訳であった。

みんなはデレクの事など気にしなくてもいいと言うのだけれど、私はやはり自分の魔力で魔法を使いたい。それが叶わないことに不満が残り続けているのである。

ノーラはもう魔力と魔法についての私のクレームは聞くつもりはないようであった。

騎士団も来ないので、朝は森に入って瘴気を浄化して、午後は怪我人の救護に当たるという定期的な仕事をして過ごすことになった。

第三騎士団は新都にきたことまではわかっているが、それ以降は一度「到着が遅れます」という連絡が来ただけでもう予定より5日遅れているようだ。

エアルに騎士団はいつ来るか聞いてみてもニヤニヤ笑って答えてくれない。

「さあ、そのうち来るんじゃない?」

「フレデリック様ももうこちらに来たくなくなったのかしら」

一日が終わり、自室に戻るとそういう妄想が自然と湧き出てくると気分が果てしなく落ち込んでゆくようである。

あれ?私って別にフレデリック様のことを愛そうとはしていなかったはず。

それなのにこんな気分にさせるフレデリック様が悪い。

私はベッドのクッションにパンチをポスポスと入れるしかなかった。



フレデリック様がこちらに来たのは予定より一週間遅れであった。

マシューとマーサがその知らせを持ってきてくれたけれども、淑女の私が感情を露わにしてはいけない。

「そう。では皆さんでお出迎えしましょう」

騎士団の団員の多くは街にある公爵騎士団の訓練施設で生活することになっており、幹部である3人がこちらの別荘に来られる。

今回はもう一人魔術師団の師団長も来られるのでこちらの別荘に滞在するのは4人であるという連絡はすでに届いている。

ノーラはその話を聞いて「魔術師団の師団長って有名な美形じゃないですか」という。

ハーパー公爵令息であるジェラルディン魔法師団長は確かに美形で有名であるが,社交嫌いでも有名であり、私は彼に会ったことはなかった。

私はノーラに婚約者とは時々お会いしているんでしょう。婚約者のある身で他の殿方の話は控えた方が良いですよ、と注意するがノーラはこれは恋愛とか浮気ではなくて推しの話なんですと言って取り合ってくれなかった。

そうこうしているうちにお出迎えの時間が迫る。

私は別荘のみんなを従えて玄関で待つことになった。

それほど待たないうちに騎馬と馬車の音が聞こえてきて門を入ってくる。

前回の三人に加えて一人のローブを着た若者が加わっている。

彼らが玄関にやってくると私は口角を上げて笑顔を張り付かせ、優雅なカーテシーをして言った。

「騎士団の皆様、ようこそおいでくださいました。古い館ですがぜひお入りになってお寛ぎください」

フレデリック様は「遅れて申し訳なかった。街道沿いに瘴気の調査をしていたんだ。ついでにお菓子も焼いてきたから一緒に食べよう」と言ってくれる。

「ええ、ぜひ喜んで」と私が答えるとマルコが「ごめんね、お姫様。フレデリックは急いで来たがったのだけれど、このジェラルディンがゆっくり調査するものだから時間がかかったんだよ。怒るならこいつに怒ってやって」と言う。

ローブの人物はなぜかローブを被ったままでじっと立ったままであった。

「ジェラルディン様、お初にお目にかかります。今回は当公爵領においでいただきありがとうございます」

「王妃様があなた様を『妖精の愛し子』とおっしゃられたのは真実だったのですね。確かに風の大妖精がいらっしゃれば『浮遊』も『飛行』も思いのままだ」

「あなた、妖精が見えるの?」

「もちろんです。セレスティア様、私と結婚して私の国に行きましょう」

「は?」

フレデリック様は怒気を含んだ声で「こら、ジェラルディン、いきなり失礼なことを言うな。カール、これ以上こいつが変なことを言うようなら簀巻きにして湖に叩き込んでもいいぞ」といい「セレスティア、ごめん、こいつただの魔法オタクだから言っていることは気にしないでくれ」と私の手を取ってきた。

私はジェラルディンの言葉にもびっくりしたが、いきなりフレデリック様が私の手を握ってきたことにドギマギしてしまった。

なんだか顔も熱い。今日は天気もいいから気温が上がってきたのかもしれない。

もう笑顔の貼り付けも失敗しているので、私は必死で後ろを向いてノーラとエオーラに「お客様方をお部屋にご案内して」と言うのが精一杯であった。

エオーラは「はい!じゃあカール…、とマルコ様、お部屋にご案内いたしますね」と二人を連れてゆく。

ノーラはなぜか硬直していた。

ワンテンポ遅れて「………で、ではジェラルディン様、お部屋にご案内いたします」とジェラルディンを連れて歩き出した。

フレデリック様はニッコリして「じゃあ我々も行こうか」と私の手を握ったまま歩き始めた。

「お、お部屋は以前の時と同じですから」

握られている手を振り解こうとしてもフレデリック様の手の力は強くて振り解けない。

マシューとマーサは生温かい目でこちらを見ているだけであった。(こんな状況は恥ずかしすぎるわ。みんな助けてよ)

結局、誰も助けてくれずに私はフレデリック様と手を繋いだままお部屋に案内することとなった。みんながお出迎えをしていたので廊下にはほとんど人がいなかったのが不幸中の幸いである。

部屋に入るとフレデリック様のご機嫌はなおっていて、むしろニコニコしていた。

部屋についたので私は「それではこちらでお寛ぎ下さい。そろそろ手を離して頂けますか?」と直接に言った。

「嫌だ」

「えっ?」

このソファに腰掛けよう。君も隣に座って」

手を握られたままなので私もソファの横に行かざるを得ない。

フレデリック様は自分の横を空いている手でぽんぽんと叩いた。

未婚の男女がそんな近くに座るなんて。

もう心臓はドキドキしているし、きっと顔からは火が出ていると思う。

「フレデリック様、こ、こんな近くに座るなんて恥ずかしいです」

フレデリック様はそんな私の抗議に気がつきもしないように腰につけていた袋から小さな紙包みを取り出した。

「今日はこれを君に食べさせることを楽しみにしていたんだ。さあ、あーんして」

混乱した私が「あ、あーん、ですか?」と聞き返すとフレデリック様は「そうだよ、口を開けて」と言った。

「あーん」

「よくできたね。じゃあ」

フレデリック様は紙包みの中の小さなかけらを私の方に放り込んだ。

「あ、甘い」

「僕が焼いたクッキーなんだ。美味しいかい」

「お、美味しいです」

「そう言ってくれてうれしいよ」

「そ、そろそろお手を離していただけませんか?」

フレデリック様は空いている方の手を私の方に回してきて、顔をぐっと近づけてきて言った、「君は僕だけを見ていればいいんだよ」

「は、はい」

あ、はいって言っちゃった。このままキスされちゃったりして。

「ジェラルディンなんて無視していいからね」

「ぜ、善処します」

そうして私の妄想とは違ってフレデリック様は私を解放してくれた。紳士である。

そのままぼーっとしながらリビングの方にふらふら歩いてゆき、部屋に入るとノーラが般若の顔をして座っている。

フレデリック様とのふわふわした気分もサッと冷めてしまう。

「お嬢様。こちらにお座り下さい」

「は、はひっ」

「セレス様はどうしてここに座らなければならないかお分かりですかっ」

「は、あの、フレデリック様とのことでしょうか?」

そんなもの、フレデリック様と乳繰り合おうとどうでもよろしい」

「はひっ」

「お嬢様、私は大精霊と出会えば契約してくださいと言いましたね。契約したことをどうして教えてくださらなかったのですか」

「それは、その、まだ早いかなって思って」

「お嬢様、どうせあの一日行方不明になった日に王都まで行かれたのでしょう。私たちがあの日どれだけお嬢様を心配してお探ししたのか」

「も、申し訳ありません」

「今後はどうぞお気をつけて、きちんと連絡するなり言付けするなりしてから出るようにお願いいたします」

「は、はい、わかりました」

「よろしい」

はー怖かった。ノーラはいつもは優しいが、切れるとこういうことがある。

その後、四人の男たちがリビングに集まってきた。

カールとエオーラは仲良く二人でいる。フレデリック様は私の隣に座って距離が相変わらず近い。

フレデリック様はジェラルディン魔法師団長に説明するように命じた。

「我々は今回、街道沿いの森に入って瘴気の様子を調べ、また、魔獣の出現についても確認してきました」とジェラルディンは話し始める。

「これが遅れた原因ですね」とマルコがいう。

「ええ。王都の観測でもこの辺りの森の奥に大きな瘴気、もしかすると異界の王子が潜んでいる可能性が高いのです」

「異界の王子ですって?」と私が叫ぶ。

「そうなのです。残念ながら『勇者パーティ』は異界の王子を倒せていません」

「では帰ってきたというドミニク王子とマージー以外は」

「そうだな。ちょっと絶望的だろう。あれからも誰も帰ってきてはいない」とフレデリック様が言う。

「この森の奥に観測される瘴気のパターンは魔界の王子のものと推測されるのです」とジェラルディンが言う。

「帰ってきた二人は魔界の王子と戦ったと言ったのですか?」と私が訊ねるとフレデリック様は「いや、あなたも会ったようにマージー殿は子守唄を歌うだけだし、弟も何も言わずにただベッドで寝て食事をしているだけだ」と答えた。

「それでですね。今回の探索には『妖精の愛し子』たるセレスティア様にもご同行いただきたいのです」

「どういうことですか?」

「魔界の王子を退治するためには浄化の技が必要になる。マージー殿は力が足りなかったようだが」

「私も無理です。だって白魔法が使えませんから」

エアルは「そんなの行ってやりなよ。あの王子様とラブラブデートだろ」というからこっちが赤面するけれど、幸い誰にも聞こえない。

「ああ、私とのラブラブデートでもいいんですよ」とジェラルディンが言う。

しまったここには妖精の言葉を理解できる人がもう一人いるんだった。

果たしてフレデリック様の体が緊張する。

「お前は今から王都に帰れ」

もう剣を抜きかねない勢いである。

私はフレデリック様の腕を掴んで「落ち着いて。今は話し合いの最中よ」と言うとジェラルディンも「そうですよフレデリック様。魔界の王子はずる賢いやつですからそんなことで怒っていてはやつの術中にハマると言うものですよ」といけしゃあしゃあと言う。

「ジェラルディン様。今は話し合いの最中ですからフレデリック様を挑発するような言動はお控えください」

フレデリックは私の腰を抱き寄せている。ドミニクは私にこんなことをしたことがないので、初めてのことだけれどちょっと恥ずかしい。

「と、とにかく話を続けてください!」

ジェラルディンによると私からは治癒の力と浄化の力が全身から吹き出しているので単にその場にいるだけで浄化の効果があるそうである。

「それなら僕と一緒に馬に乗って移動すればいい。森の中に馬車が通れる道はないだろうから」とフレデリック様が言う。

「ではそういうことで」とジェラルディンが締めた。流石に空気を読むようになったらしい。

カールとエオーラは空気を読まずに二人で喋っているけれども。

翌日は私が作った新しいポーションを騎士団に渡した。ジェラルディン様は「これは特級ポーションじゃないか」と目を輝かせて言ったけれど、フレデリック様の目が怖いので私は黙ってフレデリック様の横に立っているだけにした。

荷物は荷車で引くことになる。多くの騎士は徒歩で、何人かの高級騎士は騎馬で引率という形になるらしい。

私はフレデリック様に手招きされて彼の乗馬に乗るように促された。

私も騎乗服を着て馬に乗ることはできるのだけれど、今日はドレスを着て横座りである。

「私にしっかりつかまってくれ」とフレデリック様は言う。

昨日、私が一人で馬に乗ると言ったらフレデリック様の機嫌が悪くなったのでこういうことになってしまった。

落っこちないためにも私はフレデリック様の腰に手を回して安定させないといけないので密着度がすごい。

「こんな感じですか?」と私が上目遣いに彼の顔を見ると「つかまっている腕を離すなよ」と彼はにっこり笑ってくれた。

私の頭は彼の胸の辺りにくる。耳を彼の胸に押し当てていると彼の鼓動も結構早い。さすがにフレデリック様も緊張しているのかしら。

私も自分の鼓動が早叶っていることに気がついた。だってフレデリック様にこんなに密着しているなんて恥ずかしいでしょう。

準備ができると別荘の人たちにご挨拶をして出発した。

ノーラはお留守番である。

出る時は背筋をピンと伸ばして手を振ってノーラやマシュー、マーサにご挨拶をしたが、街道に出ると疲れないようにフレデリック様にもたれかかっている。

フレデリックさまは片手で手綱を握り,反対の腕で私を支えるように私の体に手を回してくれているが、視線は前を向いている。

歩兵隊がいるので騎馬といってもゆっくり歩かせている。

今日は魔界の王子を攻略するのではなく街道近辺の森の調査がメインである。

瘴気の様子をジェラルディンたちが調べて地図に量やその飛んでくる方向を記録している。

瘴気は同じく王都からついてきた大神殿の聖女様たちが浄化にあたっている。なかなか難しいらしくて聖女たちは必死で浄化にあたっているがうまく浄化できていない。

私はフレデリック様に「ちょっと手伝ってきます」と言って馬を降りようとした。

フレデリック様はあまり遠くにいっちゃダメだよと言って私の額にキスをして降ろしてくれた。

待って、額にキスするなんて反則じゃないか。

呆然としているとエアルが「隅に置けないねえ」なんて揶揄ってくるから気を取り直して瘴気の浄化に当たる。と言っても私の場合は瘴気の上に手をかざすだけである。10秒もしないうちに瘴気が浄化されるのを、私に気がついた聖女様も呆気に取られている。

「あの、クララ様とよくお会いになっているお方ですよね」と聖女の方から声がかけられた。

「ええ、私はセレスティアよ。クララは元気かしら。この間、会いにいったのだけれど」

「マージー様に御面会された時ですね。今回もクララ様は騎士団に同行を望んでいらっしゃったのですが、大神殿の業務のために同行できずに残念がっておられました」

「そうなのね」

「それにしてもセレスティア様の浄化の技はお見事ですね」

「実は私って魔法が使えないのよ。魔力詰まりで魔法が使えないのでこれは溜まった魔力が自然に噴き出てくるのを使っているだけ。勝手に浄化されているだけなの」

聖女たちは常識を超えた話に呆れ返っている。

「浄化の技を使わずに浄化できるなんてなんてことなんでしょう」

「瘴気の沼を浄化する時には自分の魔力が使えないから白魔石の魔力を使わなきゃならないの。面倒でしょう?」

「は、はあ、面倒っていうか、話がもう想像の範囲を超えていますわ」

時折、奥からゴブリンたちが襲撃するようで、徒歩の騎士たちが迎え撃っている。魔法師団長のジェラルディン様も迎撃に加わっているようである。

それほど強くはないので騎馬部隊が出ることはない。

私のそばには常にフレデリック様が居てくださるので安心感は強い。

瘴気を浄化してジェラルディン様のいう異界の王子がいる場所の半分くらいの道のりを超えたところに小さな瘴気の沼ができていた。

聖女たちは力なく首を横に張っている。

「じゃあ私がやってみますわね」と私は前に進み出て白魔石をセットする。

なんだかでしゃばってしまってまずいかなとは思ったけれど、自分の家の領地の問題だし、以前もこれくらいの沼の浄化はやったわけだから自分でやらなくちゃしょうがないじゃない。

偶にゴブリンとか他の魔物が沼から出てくるのだけれどそれは騎士たちが速やかに対処できている。

さて、と私は腕を突き出して浄化の呪文を唱えた。

白魔石から出てくる魔力を浄化の力に変換して沼に送ってゆく。

魔石がもったいないけれど仕方ないよねえ。

浄化の力でどんどんと沼が干上がって行き、元の地面に戻ってゆく。

これくらいでいいかなと魔石の魔力を引き出すのをやめたけれど、見ると白魔石はもう変色して割れてしまっていた。魔力を使い果たしたんだ。

ジェラルディン様はお世辞がなんだかわからないけれど「セレス様、素晴らしい浄化のお力です」とか言っている。

フレデリック様はちょっと不機嫌そうに「セレスティアを他の男に見せたくないよ」と独り言のように言い、私に向かって「そろそろ変えるから一緒に馬に乗ろう」と声をかけてくれた。

私が馬に乗ると、一緒になったフレデリック様は「本日の目標は達成したから街に戻るぞ」と言い、馬首を巡らして帰路につくことになった。あれだけ瘴気を浄化したためか、帰り道に魔獣が襲ってくることはなかった。

数時間かけて街道まで戻ってくると、聖女たちは私のところに来て「本日は本当に素晴らしい浄化の御業を見せていただきました。セレスティア様は妖精の愛し子であるというお話も聞きますし、大神殿に戻りましたらぜひ大聖女に推薦させていただきたいと思います」

「い、いやいや、魔法も使えない身ですのでどうかお捨ておきください」

そうは言ったものの聖女たちは私に向かって深々とお辞儀をして街の方に去って行った。

別荘に戻るともう夕刻である。湯浴みをして着替えて一息つくと夕食の時刻になっていた。

食堂に向かうと少し雰囲気が変である。

食堂の部屋に入ると向こう側にいたジェラルディン様が「セレス様ごきげんよう」と挨拶してくれた。

少しスカートの裾を摘んで略式の礼をすると、こちら側に座っていたフレデリック様がもう甘い顔をして自分の横の席をぽんぽんと叩いて「ここに座るといいよ」と言ってくれる。

その席に座るとマルコとノーラは少し気まずそうな顔をしてこちらをみてくる。

カールとエオーラは相変わらず見つめあって何かを喋っている。別世界である。横をちらっと見るとフレデリック様とジェラルディン様がさりげなく睨み合っているという。

これは修羅場ということね。

私は全員を無視して食前のお祈りを始め、「さあみなさんいただきましょう」と食事の開始を告げることとした。

フレデリック様は私に色々話しかけてきてくれる。そして私がそれにお返事をして話が和やかに進む。

と、いきなり向かい側からジェラルディン様が私に話しかけてくるが私が返事をする前にフレデリック様が返事をして私に返事をする隙間を与えない。

その度ごとにマルコとノーラの緊張感がアップしてゆく。

けれども私も貴族である。そんな修羅場に負けているわけにはいかないのである。

フレデリック様とジェラルディン様のどちらにつくかではもう気持ちはフレデリック様の方に傾いているのでジェラルディン様と近づく気はない。

近くにいてドキドキするのはフレデリック様だものね。

食後にジェラルディン様が明日のプランを説明しましょうと言った時にフレデリック様が「いや、セレスには僕から説明するから大丈夫だよ」と行った時にはもう勝敗は決していたということだろう。

フレデリック様は私の腰のあたりを抱いて二人で食堂を出て行った。ちょっと私は恥ずかしかったけれどフレデリック様の方が勇気を出しているわけで、それを拒否するのは嫌だったのである。

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