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第十章

湖の近くまでくるとカップルだけでなく家族連れや単身のものも結構いることがわかってきた。

マルコは「美人の姉ちゃんを探してナンパしに行きたい」なんて言うのでノーラに頭を叩かれている。

それは叩かれて当然よね。騎士なんだから騎士道精神を外れることはしちゃいけません。

私のそばにいてくれるフレデリック様はそんなことは言わない紳士であるのは当然だった。

本当は恋人ではない(仮)の恋人なのだけれど。

私たちのグループで本当の恋人に近いのはエオーラとカールくらいのものであろう。

彼らが話している内容は魔獣の倒し方とか刺客に襲われた時の対処法といった恋人には到底ふさわしくないないようなのだけれど。蓼食う虫も好き好きということなのだろう。

湖畔に着くと、お盆にお菓子を載せてお水かお酒を月に捧げてから飲むのが月祭りの方法らしい。

別の場所でエオーラとカールはお盆にお菓子を乗せて二人で一緒に何かを飲んでいるみたいである。

お酒かお水は一人で飲んでもいいし、恋人同士二人で飲んでもいい。これがこのお祭りが「恋人達の祭典」と呼ばれる所以でもある。

フレデリック様も持ってきたお菓子をお盆に載せて、グラスにお酒を入れて月に捧げる仕草をする。

結構いい香りのするワインである。

私もフレデリック様と一緒にお祈りをする真似をした。

そりゃ『イケメン彼氏が現れますように』と祈ってもいいけれど、そんなことがバレた日にはノーラに揶揄われ続けることが決定してしまう。

とりあえず無心でお祈りするふりをして顔を上げると、フレデリック様はすでに顔を上げていた。

「じゃあこのお酒を一緒に飲もうか」

「はいっ、て、えっ?えーっ?」

あ、あのっ、お酒を一緒に飲むのは恋人同士ですよ。

「このお酒はいいお酒だし少しだけだったら酔ったりしないよ」

「そ、そういう話ではないのですが」

「何だか顔が赤いね。もしかしてもうお酒を飲んでる?」

やだわ、この王子ったらもうわたしを揶揄う気よね。

「わ、わかりました。飲めばいいんでしょ、飲めば」

も、もうヤケよ。

フレデリック様は嬉しそうに「じゃあ僕が先に口をつけるからその後飲んでね」と言ってくる。

彼が一口飲んだあと、私にグラスを回してきたのでそのままグッと飲んでやった。

結構フルーティで後味の爽やかなワインだった。

フレデリック様も私が一口で全部飲み干すとは思っていなかったのか「すごい飲みっぷりだね。いいよいいよ」って言ってきた。

ふん、私を本気にさせるとこんなものよ。

ふと見るとエオーラとカールは湖の方に向かっている。他のカップル達も三々五々湖に向かい始めている。

湖で水の洗礼を行うのである。

水の洗礼と言っても水辺で素足になってぱちゃぱちゃと水に浸かるくらいのことである。

昔は水で泳いだらしいけれど、衆人環視の中、そんな派手なことをする勇気はない。

「フレデリック様、私たちも水の洗礼に行きましょうか」

「そうだね。カール達はもう水の洗礼を終えたみたいだよ」

見るとエオーラとカールはすでに水から上がって足をタオルで拭いている。

こちらを見たエオーラは「お嬢様!水はそんなに冷たくありませんよ!」と手を振って教えてくれた。

私たちも水辺まで来てブーツを脱ぐ。

「水の洗礼って久しぶりだわ」

最後に水の洗礼をしたのはまだ祖母が存命の学院に入学する前の子供の時である。

なんだか子供の時に戻った気分でざばざばと湖に入って足を水に浸してみた。

結構気持ちいいわね。

と、水の中から白い光が集まってくるのが見えたかと思うと私の体を白い光が包んだ。

もう眩しくて目を開けていられない。

なんだか地面も小刻みに揺れているようである。

どうなってんのよ!

地面の振動がおさまってきたので「えいっ」と目を開けてみると白い光は徐々に弱くなってきたみたいだ。

光がおさまると、目の前にいくつかの尖塔らしきものが見える。なによ、あれ。

その尖塔のある建物に向かって虹の光がアーチとなって続いている。後ろを振り向くとフレデリック様がちょっと呆然と立っている。周りにいたはずのカップル達や家族連れは逃げ出したのか姿はない。

カールとエオーラは「お嬢様、大丈夫ですか?」と言いながら剣を持って走ってきた。

マルコとノーラもそれに続いて来ている。

「フレデリック様、どうしましょう」

「伝承にある城と虹の橋だねえ」

「彼女達が来たら登ってみますか?」

「それも面白そうだ」

みんなが集まってくると、ノーラは「セレス様、なぜそんなに体が光っているのですか?」と聞いてきた。

自分で体を見てもそんなに光っているようには見えない。

「そうなの?自分では光っているようには見えないけれど、ノーラはそう見えるのね」

フレデリック様も「私にもまだ輝いているように見える」という。

「それじゃまだ体が輝いているうちにさっさと虹の橋を登りましょう」

私は虹の橋に足をかけた。見た目よりも勾配が緩そうであまり苦労することなく虹の橋を登ってゆくことができる。

後ろを見ると皆んなも登ってきているようだったのでそのままさっさと登り続けた。

虹の橋を登り切ると石畳の広場のような場所に出た。

湖の底から浮かび上がったにしては濡れてもいないし水苔や水草もついていなかった。

もしかすると魔法で保護されていたのかもしれない。

そうこうしているうちに他の人も登ってきた。

「長年水底にあったとは思えないなあ」とフレデリック様が言う。

「おそらくは何か魔法の仕掛けがあるのでしょう」とカールも言う。

広場の向こうには何か輝いている場所がある。

「まずはあちらに行ってみましょう」と私が指さすと、フレデリック様も「そうだね,あの輝いている場所には何かありそうだ」と言うので皆んなでそちらに向かうことにした。

広場の奥には台があり、その上に白い光るものがある。周りには結界が張り巡らされていた。

フレデリック様は「今度は僕が行ってみよう」と結界に向かって結界解除の魔法を唱えたが、この結界は硬いみたいで全く壊れようとはしない。剣で殴ってみても跳ね返されてしまった。

一通り試してみたフレデリック様はこちらに戻ってきて「やはりここはセレスティアの城のようだ」と言って私に行くように勧めてきた。

私が結界に向かい手を差し伸べると手は結界を貫通して中に入ってしまった。

フレデリック様は「やはりそうなのか」と独り言を言っておられる。

そのまま全身を結界の中に滑り込ませて台の上に置いてあった白い塊を抱えて結界を出るとノーラがそれをみて「これは卵だね」と言った。

もうその奥は壁だったので「帰りましょう」と私が言うと、フレデリック様も「そうだね」と同意してくれる。

私は謎の卵を抱えて虹の橋まで戻ってトコトコと降りてゆく。みんなが虹の橋を降り切ると、虹の端はぼんやりと薄くなってゆく。城の周りには雲や霧が湧いてきてその姿を包んでしまった。もう何分もしない間に虹の橋は消えてしまい、雲が晴れると城の姿は無くなってしまっていた。

私は黙ってブーツを履き、みんなに向かって「さあ戻りましょう」と声をかけた。

みんなは毒気が抜けたかのように黙って馬車に乗り込み、別荘に戻ることになった。



別荘に戻るとマシューとマーサが出迎えてくれて「いかがです?古代の城は見えましたか?」と聞いてくれた。

おそらくは否定の返事を期待していたのだろうけれど私は「ええ、見えたわ。そこでこんな変な卵を見つけたの」と白い卵を見せた。

マシューとマーサはその卵を見てびっくり仰天していた。

部屋に戻るともう湯浴みをする元気もなく、卵を倒れないようにクッションで支えるとまぶたが閉じそうになってきたのでドレスだけ脱いでベッドに潜り込んだ。

そのまま何時間眠っていなのだろう。もう明け方なのか少し空が白んでいた。「セレス、セレス」という呼び声に目覚めてみると、なんだかチラチラしたものが飛び回っているようである。よく見ると小さな小さな女の子が飛んでいる。

「あなたはだあれ?」

「私は風の妖精のエアルよ。あなたの魔法を分けてくれたら契約してあげるわよ」

え、風の妖精だって?しかも喋れる妖精って大妖精じゃないの。

私は学院での妖精学の講義を必死で思い出した。

「ええ、構わないけれどどうして?」

エアルによるともっと前から私から自然に溢れていた魔力を見つけてこっそり拝借ていたみたいなのだけれど、月と水の洗礼で私の魔力が増大したため正式に契約した方がいいと考えたらしい。

「え、私って魔力が増大していたんだ。あの変な卵を貰っただけじゃなかったんだ。なんだか実感がないわね」

「はあ?それってあんた,ちょっと鈍すぎるんじゃない?そもそもあなた、今私の姿が見えているでしょう?」

そうなのである。妖精の姿を見ることができるのは大量の魔力の持ち主だけである。既にこのエアルが見えている私は大量の魔力の持ち主になってしまったということだろう。

「わかったわ、契約しましょう」

私は妖精学の授業で習った契約の呪文を必死で思い出して唱えた。

「日と月、妖精女王と妖精王の名において大妖精エアルと契約を結ばん…」

「ご苦労様〜。さあ契約も結んだし魔力ちょうだいね」

風の大妖精エアルは私の手の下でパクパクとしている。

「こう滴り落ちる魔力を食べるのが乙よねえ。魔力の質も上がっているし。幸せー」

私には見えないのでなんのことかよくわからない。

「でも私って魔法が使えないのよね」

「そりゃ『真実の愛』をまだ知らないからじゃないかな」

げっ、『真実の愛』なんて、また聞きたくもないワードが出てきたなあ。すんと無表情を作ることにする。

「もうすぐ運命の輪が一回りするからそうすればまた運命の変転を実感するようになるから大丈夫だよ」

とりあえずなんのことだかわからないわ。

「な、なんのことだかよくわからないんだけれど」

「そりゃただの人間が世界の秘密なんて簡単にわかったら困るじゃない。わからなくて当然だからどんと胸張っていこう」

「はあ」

なんだかからかわれているのかもね。

「じゃあエアルはあの卵がなんなのかわかるの?」

「そりゃわかるよ。でもそれを言っちゃっていいのかどうかはわからない。あなたの聖なる魔力を浴びせていればそれなりのやつが生まれてくるんじゃないかな」

全くなんのことかわからないけれどとにかく抱っこしてあげて魔力を浴びせればいいということのようである。

とにかくベッドから降りて卵を抱きしめてあげることにした。

そんなこんなしているうちに外が明るくなってきた。

エアルは機嫌よく私の周りを飛び回っている。

外ではエオーラとカールが朝の鍛錬を始めているようである。ゼフィルの機嫌良い鳴き声が聞こえてくる。

と、ノックの音がして「朝でございます。お嬢様、お部屋に入ってよろしいでしょうか」と侍女の声がする。

「ちょっと待ってね」と言って私は卵を元の位置に戻した。

「入ってちょうだい」

侍女たちが部屋に入ってきた。

卵を見てちょっと気味悪そうにしている。

可愛い卵ちゃんなのに。

「お嬢様、湯浴みをなさいますか?」

「よろしくお願いするわ」

今日は少し早く侍女が来たのはこのためだったらしい。

お風呂に入って体を磨いてもらう感覚に身を委ねる。

スッキリして食堂に向かうと既にみんな座っていた。

フレデリック様とカールたちはちょっと真面目な顔をしている。

エオーラこちらに顔を向けず視線を合わそうとはしない。

これは何かあったなと思いながらお祈りをして食事を開始した。いつもと違って男性たちの口が重い。

食事が終わった頃にフレデリック様が「急な知らせが来たので王都に帰らなければならなくなった。今日中に出立する」と告げた。

マルコは「多分すぐまたくると思うけどね」と混ぜ返す。

フレデリック様は「先日、瘴気の沼を浄化したので魔獣の被害は抑えられていると思うが、また魔獣が問題になるようならばいつでも教えて欲しい。その時には最大限、援助する」と言って立ち上がった。

三人の騎士たちは一礼して「それでは」というと食堂から出ていった。

私は思わずフレデリック様を追いかけそうになったがそこで私たちは(仮)の恋人であることを思い出してすんでのところで思いとどまった。

食事を終えた私たちはリビングに向かってマシューと話をしたが、マシューも今朝出立の話を聞いたたまに詳しいことはわからなかったということらしい。

少し待っていると部屋の方だ負けを終えた騎士たちが「ではお暇します。長い間お世話になりました」と挨拶をした。

私が「お礼を言うのはこちらの方です。魔獣退治ありがとうございました」と返礼をすると、フレデリック様は私の手を取ってその甲にキスをして「ではお元気で」と行って玄関に引かれて来ていた馬に乗った。

そして私たちに手を振ると、馬を走らせて別荘から出て行ってしまった。

私はこれは親愛の情,親愛の情。決して恋人の愛情じゃないから勘違いしてはいけないわと自分の心に言い聞かせ続けていたのである。

騎士たちが見えなくなるまで手を振り続けていた私たちはなんだか気が抜けたようになってしまったが、マシューとマーサに言われて別荘の中に戻ることにした。

部屋に戻ればエオーラへの尋問である。

「エオーラ、たなたは事情を知っているわね。知っていることをきちんと教えなさい」

「あの、その、細かいことはわからないのでます。今朝,朝の鍛錬をしていた時に早馬が来たのです。その一報は『勇者パーティ』のドミニク王子とマージーの二人だけが王都に帰ってきたというものでした。どうやら『勇者パーティ』は魔人の『魔界の王子』というものを討伐に出かけていたということのようです」

「で,なぜそれを私に隠したの?」

「それはフレデリック様もドミニク王子の事件をご存知だったのでお嬢様に余計な心配をかけるべきではないということでした」

はあ、『真実の愛』ね。もう『真実の愛』に私は祟られているのじゃないかしら。

「そう。フレデリック様の配慮ということならばやむを得ないわね」

「決して悪気があったわけではないと思います」

「で,ドミニクとマージーの様子はどうなの?」

「それはわかりません」

「もしドミニクが死ねば王太子の変更が必要になるかもしれない。フレデリック様が急いで帰られたのは正しい判断よ」

もうエオーラから得られる情報はなさそうである。

私はエオーラを労って自室に帰した。

それから、ノーラに聞いた。

「ところで、あなたって妖精は見える?」

「妖精ですか?私くらいの魔力では到底見えませんよ」

「やはりそうよね」

「もしかしてセレス様は見えるようになったとか?」

さすがに大妖精と契約したことは言えない。

「一度魔力量のチェックをしてもらえないかしら」

「それは構いませんが。じゃあセレス様に魔力を流しますね」

ノーラが私の方に手を伸ばしてきたが,バチっという火花が散った感じで彼女は手を引っ込めた。

「痛っ」

「どう?」

「明らかに魔力は増えていますね。私の魔力が拒否されたわけですから」

「はあ、魔法も使えないのに魔力だけ増えてなんの意味があるのかしら」

「やはり昨日の月と水の祭りですか?」

「それ以外に考えられないと思うわ」

「妖精ってどんな風に見えていますか?」

「なんだかいろんな色の小さい光が私の周りを飛び回っているわ」

さすがに小さい女の子が「本日は晴天なーりー、ただいまマイクのテスト中」なんて能天気なことを言いながら飛び回っているなんてことは言えない。

「セレス様、とにかく妖精が見えるなんてすごいことなんです。大聖女は妖精の愛し子って言われていますからね」

「そ,そんな大層なものじゃないでしょう」

「いいえ、もし言葉を喋る要請が来たらきっちり契約を結んでください。そうすれば精霊魔法が使えるようになるんですから」

「あ、そ、そうね、精霊魔法ね」

そうだった。大妖精ならば精霊魔法が使えるのだ。

後でエアルにどんな魔法が使えるのかこっそり聞いておかなければならない。

部屋に戻って卵に魔力を振りかけながらエアルに「あなたってどんな精霊魔法が使えるの?」って聞いてみた。

「まさか風の大妖精である私にそんな質問されるなんて思わなかったわ」

「えっと、そりゃ当然風の魔法を使うんだと思うけれども、具体的にどんな魔法が使えるのかなって思うのよ」

「そうね。例えば『乾燥』の魔法ね。これはお風呂で濡れた髪を乾かしたり洗濯物を乾かす時に便利な生活魔法だわ」

「うんうん」

「その他には『浮遊』ね。これは重いものを楽に運べるし崖から落ちた時にも安全に地上に下ろせるわよ」

「他にはなにかあるの?」

「そうねえ『飛行』の呪文があるから空を自由に飛べるわよ」

「攻撃系の魔法はないの?」

「攻撃だったらウインド バレット(空弾)ね。他にはかまいたちとかは威力が強いよ。『大竜巻』とか『

ハリケーン』は最強魔法だけれど、やっぱりそれを唱える時にはセレスの魔力も流して手伝って欲しいのよね」

「そりゃその時には喜んで手伝わせてもらうわよ。でも空弾とかかまいたちの魔法を一度見せてもらうことはできるかしら」

「いいわよ。いつも美味しい魔力を食べさせてもらっているし。この部屋でやる?」

「この部屋で魔法を使って散らかしてしまったら侍女やメイドにお小言をもらうかも知らないわね」

「じゃあ外に行こう!『飛行』の魔法よ!」

セレスティアの体はふわふわと浮いている。

「セレス、行きたい方を念じて」

窓に向かって行こうと思うとちょっとスピードが出過ぎて窓枠にぶつかってしまう。

大丈夫よ、エアル,ちょっとぶつかっただけ。まず窓を開けるわね」

窓を開けて外に出ると障害物はない。

何分か飛ぶ練習をしているとだんだんコツが掴めできた。

「飛行っていうと箒に乗って空を飛ぶというイメージだったけれど体一つで飛べるのね」

「箒に乗るなんてちょっとカッコ悪くない?」

「そうね。体一つで飛ぶ方がかっこいいわね」

「でしょ、でしょ」

「少し飛び方にも慣れてきたので森の方に行きましょう」

「うん、じゃあこっちよ」

歩いていけばゆうに1時間以上かかりそうな距離を『飛行』の魔法を使えば数分で飛んでしまう。上から見ても魔獣のいそうな気配はない。

「じゃあここにしましょうか」とエアルは森の中の開けたところに降りてゆく。

私もエアルについて降りて行った。

じゃあちょっと魔力をもらうわねとエアルは私の腕のところで魔力をもらうパフォーマンスをし始めた。

多分、私の体から漏れ出ている魔力を吸い取っているのだろうけれど魔力の流れは私には見えない。

少しの間パフォーマンスを続けると、エアルは「満腹、満腹」と言って私のそばを離れた。

「じゃあまずはウインド・バレットをやるわね」

そうしてエアルは指を木に向けると「放て」と呪文を唱えた。

そうすると指から半透明の空気の塊が打ち出され、木の幹に小さな穴を次々と開けて行った。

エアルは指の方向をうまく動かして他の木に当てたり細い枝を折ったりしたのである。

「じゃあこれでフィニッシュよ」

エアルは今度は指を握り締めてグーの手を太い枝に向かって突き出した。

「さあいけ!ウインド・バレット!」

握り拳から打ち出された大きな空気の塊は直径5cmほどもある太い枝を見事にへし折ったのである。

「次はかまいたちだからね」

エアルは上機嫌で腕を振り払う仕草をした。

そこには空気の波が見えたような気がした。

メリッ、という音と共に目の前の太い木が折れてしまった。

今度は両腕をクラスさせて振り払うと二本の木が同時に倒れた。

「さらに倍!」

4本の木が同時に倒れた。もう目の前は切り株だらけになっている。

「じゃあ最後よ!」

掛け声と共にその奥にあった大木は上から下に縦に裂けた。

「ど、どうかしら」

「すっごーい。すごいすごい。すごいじゃない。さすが大妖精ね!」

「えっ、えっへへ、それほどでも」

エアルはさりげなく私の腕の下に入ってきて私の魔力を吸収しているようである。

少し休んでいると、エアルが「そろそろ帰りましょうか」と言ったので別荘に戻ることにした。

再び飛行の魔法をかけてもらい、別荘に向かってひとっ飛びである。

開けていた窓から部屋に戻り、窓を閉めてから床に降りていった。

必死で疲れを見せないようにしていたが、エアルはかなり疲れているようである。

エアルが十分に魔力を吸収できるように腕を回してソファで横になることにした。

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