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第一章

夏の暑さも盛りを過ぎてようやく秋の香りがしてくると王都のタウンハウスにはバカンスから帰ってきた家族たちの声が聞こえるようになる。王都が活気を取り戻した頃に王立中央学院の新学期が始まる。

この年はマハティア王国の第二王子で王太子でもあるドミニク王子が入学するということで話題を集めていた。

入学式の日である。この年に入学を許された100名の15歳の若者たちは3年間の学生生活を送ることになる。

学院は全寮制であり、貴族だけでなく平民の入学も許されている。校訓は「誰もが集いて学べ」というものであり、学園内では身分や男女の区別なく自由に学ぶべきだとされている。

そういう建前とは別に当然のことながら王太子は特別扱いされ、入学式においても入学生代表として学園長の挨拶ののちに壇上で挨拶を行ったことは当然である。

入学生の中にはドミニク王太子の婚約者であるセレスティア公爵令嬢も混じっていた。彼女は大貴族の一員として最前列で入学式に臨んでいた。

入学式が終わると多くの貴族令嬢や令息がご挨拶に訪れる。

セレスティアはそういうご挨拶に上品に応えながら寮に割り当てられた自分の部屋に向かう。

部屋には専属の侍女がおり、すでに荷物はあらかた片付けられていた。

「ふう、お部屋の片付け、ありがとう」

セレスティアは侍女のサラに声をかけてソファに腰掛けた。

ドミニク王子は入学式の後は学園長と話をしに行ったのか、それとも友人たちとどこかに行ったのか、セレスティアはその姿を見ることはなかった。

侍女のサラは「お疲れになったでしょう」と言いながらポットからティーカップに紅茶を注いでセレスティアの方に運んできた。

「ありがとう、サラ」

セレスティアはカップから紅茶を一口飲むと「少ししたら学園長にご挨拶に行って、それから王宮に行くので馬車を用意しておいてちょうだい」とサラに支持を出した。

それからゆったりと立ち上がって教員棟の方に向かうことにした。

学園長にご挨拶をしたセレスティアは生徒会室に向かった。

生徒会室には既に何人かの生徒が座っていた。

その中で凛々しい顔をした赤毛で緑の瞳をした少女が「セレス様、お待ちしておりました」と挨拶した。

彼女はエオーラ伯爵令嬢で、リンデン公爵騎士団の騎士団長の娘である。本人も父親から剣術を習っており、並の騎士よりは強く、セレスティアの護衛騎士に任命されている。他には黒髪でハシバミ色の瞳をした優しそうなノーラ子爵令嬢や金髪碧眼のジェレミー伯爵令息やハンター子爵令息がおり、生徒会を形成することになっている。

ドミニク王子は名誉生徒会長として実務には携わらず、セレスティアが生徒会長として実務を担うことになっている。

入学式直後は顔合わせとして生徒会メンバーのお互いの自己紹介を行ない、セレスティアはエオーラを連れて王宮に向かうことになった。



王宮に着くと謁見の間に向かう。

謁見の間には王と王妃が座っており、セレスティアはご挨拶をしなければならないのである。

型通りの挨拶が済むと、ゲートルード王妃は「セレスちゃんはきちんとご挨拶に来るのにあのバカ息子はどこをほっつき歩いているんでしょうね」なんて普通の人が言えば不敬罪で捕まりそうなことを平気でいうわけである。

セレスティアもどう答えて良いか分からずに黙っているとロベルト王が「王妃よ。あの子も勇者なのだから活発なことは良いことだ」とフォローを入れてくれた。

セレスティアは二人に再度礼をして執務室に向かわねばないのである。

執務室にはドミニク王子はおらず、未決の書類が山積みになっている。

文官たちは揃って「セレスティア様、今日もよろしくお願いします」と頭を下げる。

7歳でドミニク王子と婚約したセレスティアは6年に及ぶ王太子妃教育を終えた後、執務室からエスケープするドミニク王子の代わりに溜まってしまった書類の処理をやっているのである。

「はあ、あちこちで瘴気の発生が増えているし、魔獣の出現も増えている。作物の収穫も減ってきているし嫌な予感がするわね」

セレスティアにしてみればこういう問題の兆しは是非ともドミニク王子に感じて欲しいのだが、当のご本人はもうセレスティアに任せきりで逃げ出しているのである。

セレスティアはため息を一つついて書類を決済してゆくことしかできない。

最近はセレスティアに一つの問題が明らかになっており、それが明らかになってからドミニク王子は明らかにセレスティアを避けるようになっている。

数時間の事務仕事の後、セレスティアは再び謁見の間に行き、王と王妃に挨拶すると、ゲートルード王妃はセレスティアに「王家は勇者パーティで国民の人気を高めることも重要だけど、領地の問題を解決する事務仕事の方がもっと重要なの。セレスもあんなこと何も気にしなくていいからね」と言ってくれた。

セレスティアは視線を落としながら王妃に「承知しております。王妃様のご厚情に感謝します」というしかないのである。

帰りの馬車の中でエオーラは「リンデン公爵もいろいろ手を尽くされておりますからきっと問題はすぐに解決しますよ」ってセレスティアを励ましてくれるが、セレスティアは「ありがとう、エオーラ」という声を絞り出すのがやっとである。



多くの貴族たちは7歳の時に魔力量の測定を行う。

マハティア王国ではほとんどの貴族たちは魔法を使うことができる。魔力測定はマハティア王国の貴族たちにとって自分の子供たちが貴族たる根拠に近いものであるため、真面目に検査を受けさせることが多い。

マハティア王国の平民には魔力のないものがほとんどだが、稀に魔力を持つものがいるため、そういう子供たちを見つけ出した時のために平民であっても王立中央学院に通うことができる制度になっている。

セレスティアも7歳の時に魔力測定を受けた。

この時にセレスティアは比較的大量の白魔法の魔力があることがわかった。

そのため、リンデン公爵はセレスティアには過剰とも言える期待を抱いたのである。

また、彼女の容貌は抜けるような白い肌に銀髪でルビーレッドの瞳を持ち、どうしてもそれは魔王を倒した伝説の大聖女であったリディア・リンデンの姿にそっくりだったのである。

期せずして同い年のドミニク・マハティア王子には勇者特性があることが明らかにされたため、リンデン公爵と王家の期待を込めてドミニク王子とセレスティア嬢は婚約を執り行うことになった。

300年前に勇者マハティールと大聖女リディアは魔王を撃ち倒し、魔王の攻撃によって絶えてしまった古王国を再興し、現在まで続くマハティア王国を築いたのである。



「問題は私なのよね」

セレスティアはひとりごこちる。

彼女の魔力は強固な魔力詰まりによって動かせないのである。多くの魔導士や薬師が魔力詰まりを取り去ろうと取り組んだが、一切の魔力は体内を巡るだけで体外には出てゆくことはない。なので身体強化系の魔法は使えなくもないのだが、リンデン公爵が望んでいた聖女の魔法については絶望的だった。

このことが明らかになったのは多くの魔力持ちが魔法を使えるようになる13歳の時であった。

無論、体外の白い魔石を用いれば白魔法を使うことができる。けれども彼女の体内の魔力を使うことはできない。

鑑定魔法でもセレスティアに聖女の印は現れることはなかった。

それまでもセレスティアに冷ややかな目しか向けなかったドミニク王子は彼女の結果を知ってからは露骨にセレスティアを無視するようになり、王室の行事であっても彼女をエスコートすることにすら難色を示すようになっている。

王と王妃は王太子教育の終わったセレスティアに王太子の事務をやってもらうように頼んだ。

それは一つには真面目に王太子教育を終わらせた彼女への評価という面もあった。

もう一つは13歳を過ぎた王太子は事務仕事に興味を示さず逃げ回っていたため、彼に課した王室事務が滞ってしまい、文官たちからクレームが来ていたためである。

それからセレスティアは週に何度か王宮に出向いて本来なら王太子が処理すべき案件の処理を代行して行うことになったのである。

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