第3話 強くなったおじさん
翌日おじさんは冒険者ギルドに来ていた。ギルドマスターを含む全員が王が派遣した国家騎士に集められ、国家騎士とその隣に立つおじさんを不思議そうに見つめていた。
「今回は国王陛下よりヴィルド殿について伝言を預かってきている。」
周囲で声を発する者はいない。全員が状況を見てそれを把握している。
「それでは伝えさせていただく。魔王討伐を志す者は勇者ヴィルドのもとへ集え。これが国王陛下の伝言だ。現状ヴィルド殿が勇者であることは各国の上層部とこのギルドのもの以外には秘匿であるため、このことは口外禁止である。そのことをお忘れなく。」
そういって国家騎士は去っていった。ギルドマスターだけは先に聞かされていたのか、それとも察していたのか表情に変化がなかった。しかし他の冒険者たちにとっては衝撃の事実なので皆騒ぎ出した。
しばらくしてギルドマスターが全員を落ち着かせ、話し出した。
「今聞いた通りヴィルドは勇者らしい。これは本当だな?」
「はい。3年ほど前に勇者認定されました。」
「うむ。魔王討伐となると最低でもAランク以上のものでないと話にならないな。それにヴィルドに身体的な負担はあまりかけられない。そうなると望ましいのはSランクだが、今この街にSランクはヴィルドだけだ。」
おじさんはいつの間にかSランクになっていたらしい。実力は確かということか。
「Aランクでも私と相性が良ければ大丈夫ですよ。この1年半で私の魔力量はかなり増えて魔力切れが起こることはほぼありません。なので回復魔法と攻撃魔法を使える方はいなくて大丈夫です。最近では結界の魔法も覚えたので自分の身は自分で守ることができます。なので組んでほしいのは、近接の物理攻撃が得意な戦士、防御を得意とするタンク、あとはアーチャー、ランサー、シーフもいるとありがたいですね。」
「確かに理想的なパーティ編成だな。Aランクの諸君には申し訳ないがこちらでヴィルドの仲間を決めさせてもらう。魔王を倒したら元に戻ってもらって構わないし、それまで活動できないのならその間の生活費をこちらで全額負担しよう。それではAランクの者のみ明日の同刻、再びここに集まってくれ。」
アーチャー、ランサー、シーフは何で必要なんだろう?まぁ、アーチャーは遠距離物理アタッカー、シーフは鍵の開錠とかで必要になりそうだからわかるけど、ランサーは何だろう?この世界ではランサーは何か特別なものなのかな?魔法使いが一人でバランスが悪いように見えるけれど、おじさんの能力を見ればそんなことはない。
今のおじさんはかなり強くなっていて、各種攻撃魔法、回復魔法に加えて結界魔法や状態魔法などその他多くの魔法を使用できる。
特に今言った状態魔法これは強力な魔法で魔力消費も大きい。魔力量が増える前のおじさんでは3回使用するのが限界だっただろう。今では10回使うことができるほどになっている。その効果は対象を毒、麻痺、呪い、昏睡のいずれかの状態異常にするというもの。もちろん状態異常によって魔法の種類も違うのでこれだけで4種もある。
人間が扱う魔法で相手を状態異常にするものは少なく、知能のある魔物や魔族相手ではかなり有効打になる。レジストが可能だとしても意識していなければ不意打ちを喰らってレジストできない可能性もある。そこに昏睡を叩き込めばほぼ勝利が確定する。それだけ強力な魔法だ。
おじさんが今使うことができる魔法は約150種。そのすべてをイメージするだけで無詠唱で発動することができる。魔力効率も以前より良くなっている。それだけおじさんは強くなっている。
誰もがヴィルドは勇者特有の特別な力を持っていないと思っていた。しかしそれは違って彼には特別な力が一つあったのだ。
それは異常なほどの才能と成長速度。現時点でこれまで生まれたどの勇者よりも強くなっていた。しかし、当の本人はそれを知らないし、歴代の勇者より強いからといって魔王に勝てるわけではない。歴代の勇者は所持していたスキルが魔王に対して有利なものだったから倒すことができたのだ。
たった一人のおじさんとその仲間たちが歴代で初めて魔王と実力だけで戦おうとしていた。