第2話 おじさん、冒険者になる
おじさんが王様に呼び出されて何か話をしているようだ。
「ヴィルドよ。貴殿は実戦の経験がないのだよな?」
「はい。訓練以外の戦闘行為自体未経験です。」
「それではこれからは冒険者として活動してもらう。今の貴殿の実力ならAランク相当といったところだろう。Sランクには届いておらぬしこれまでの勇者に比べるとかなり力は劣っているが、その魔法の腕は確かだ。これからは冒険者として実戦経験を積むがいい。」
「かしこまりました。冒険者としての活動はソロですか?それとも仲間を集めてもいいのですか?」
「どちらでも好きにするが良い。私からの要求は3月に1度面会をしてほしい。その一点のみだ。」
「3月に1度ですね。かしこまりました。それでは冒険者登録をしてまいります。」
「少し待て。大臣から渡すものがある。」
王様がそう言って大臣から渡させたのは何かの手紙らしきものと金の入った袋だ。
「冒険者ギルドへの紹介状と当分の生活費を入れてある。ほかの冒険者たちには勇者であることは隠して活動するがいい。」
「お気にかけていただきありがとうございます。ありがたく頂戴させていただきます。」
そういっておじさんは大臣から袋と紹介状を受け取って城を後にした。これから3か月は城を訪れることはないだろう。
そのままの足でおじさんは冒険者ギルドに行き、貴族からの紹介ということで冒険者登録をした。国王はあえて自身ではなく配下の下級貴族の名前で紹介状を用意したようだ。国王からの紹介ともなれば疑われるのも当然だ。そこまで見通しているとはあの国王なかなかのやり手だな。
おじさんはAランク冒険者として登録され、当分はソロで活動していた。初回だけほかのパーティーに入れてもらっていたけれど、意外と余裕だったのかそれからはソロで依頼をこなしていた。魔法を組み合わせて別の効果を発動させたり、初級魔法を日常生活の中で使用できる出力で使用したりと、かなり魔法の扱いに慣れてきたようだ。3か月ごとに王城に行き、普段は依頼をこなすという生活が1年半続いた。
おじさんは無詠唱で魔法を使えるほどにまで成長し、今ではワイバーンを1人で倒せるほどに成長した。この異常な成長速度、さすがは勇者というべきだろう。
ただ、一つ問題があった。おじさんは既に53歳。間もなく54歳になろうとしている。さすがに体に限界が来ている。魔法を使う分には問題ないが、一人で野宿することもあり、徹夜もしていた。臨時パーティーを組むことも多かったが、おじさんはいつ引退するかもわからないので本格的にパーティーに引き入れてくれるパーティーはいなかった。
そんなこんなでおじさんは2日に1回しか冒険者としての活動をしなくなった。ここまで1年半はなんとか続けてきたものの、疲労の蓄積が限界まで来ている。その分成長速度はすさまじいというのは自分でも感じているみたいだ。そして3月に1度の面談の日。
「国王よ。勇者であることを公表して仲間を募集してもいいでしょうか?」
「どうした突然。これまではソロで活動していたのだろう?」
「そろそろ私も体の限界が近づいてきています。少しでも体の負担を減らさないと体がもちません。しかしどのパーティーもいつ引退するかもわからない私のことなど臨時メンバー以外でパーティーに入れてくれないのです。」
「なるほど。それではこちらから公表するとしよう。明日ギルド内にて公表する。貴殿も同席してくれ。」
「かしこまりました。」
おじさんの交渉は成功したらしい。国王もおじさんの2歳年上、ほぼ同年代だ。その体のきつさには共感しているのだろう。さすがにおじさんが毎日モンスターと戦って帰ってくるというのは少しハードなものだ。ソロでは気を張り続けなければいけないし、それだけ自分への負担が増える。そろそろ仲間との連携を覚えて魔王との戦いに備え始めていい頃だろう。