最終話 五十路のおじさんが勇者認定される話
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
魔王と勇者その両方が魔法を受けて必死に耐えている。爆発は一気に広範囲を破壊する勢いで発生した。両者の結界は一瞬は持ちこたえた。
先に結界が崩壊したのは魔王。魔力のこもった大爆発を受け、大ダメージを受けるがまだ立っている。爆発の衝撃はまだ終わっていない。
対するヴィルドは自身にかけていた結界では【魔法無効結界】以外のすべての結界を破壊され、あとは【魔法無効結界】を残すのみとなった。ここまで経過した時間、なんと1秒。
それだけ高威力の爆発が発生している。魔王は既に消滅しかけている。ヴィルドの【魔法無効結界】も今にも崩れ去りそうなほどにぼろぼろだ。【封鎖結界】の外から見れば何が起こっているのかわからないといった感じだろう。
そしてそこから2秒後、魔王の体が崩壊し、消滅した。それでもまだ爆発は終わらない。それに【魔法無効結界】と【封鎖結界】がある以上転移で逃走することもできない。
【封鎖結界】に関しては解除してしまえば近くにいるであろうパーティーメンバーたちを巻き込んでしまうだろう。そんなことをする人物ではないはずだ。
やがて【魔法無効結界】は消滅。
そして爆発の余韻も消え去った。それ絡数秒後には【封鎖結界】が解除された。
ヴィルドが死んでいた場合、あの結界は二度と解除されなくなるからまだ生きてはいるのだろう。
ただ、結界の張ってあった場所の中央でボロボロになって倒れている。この世界には傷を癒すポーションは存在していない。それに一番近くの町の教会には蘇生魔法を扱える術者がいない。
「みんな近くによって。転移で町まで戻る。私の治癒魔法では治せないから。」
声を絞り出しておじさんは3人を呼び集める。確かに今の魔力では4人を最寄りの町まで転移させるのが限界だ。
「【座標転移】」
おじさんが転移先に選んだのは最寄りの町ディアスの教会前。普通の道路になっているけれど、ここなら確かに目立つだろう。けど、この傷の深さで魔力切れまで起こしてしまうと死にかねない。
おじさんの残り魔力残量は【火】の魔法を最小出力でギリギリ使えるかどうかというところ。魔力が巡っている間は傷の治癒が少しづつではあるけれど行われる。それがあれば今の状態から即死することはないけれど、今の魔力残量ではそれも期待できない。
「エリス、できるだけ速くMPポーションを買ってこい!お前が一番早いはずだ。ピルドルは教会の人に説明を。」
「わかった。」
「わかりました。」
ドラルが指揮を執って最も適切な行動をとろうとしている。エリスは貯金をしていたようで、MPポーションくらいなら余裕で買うことができるくらいにはお金を持っているみたいだ。
本気でギルドまでダッシュして、MPポーションをギルドから購入、そして教会まで2分で戻ってきた。町の人たちが数人巻き込まれて転んでいるが仕方がないだろう。
戻ってきてMPポーションをおじさんに摂取させる。かなり弱っていて、なかなか呑み込めなかったみたいだけれど、何とかすべて飲ませ切る。
おじさんの顔に少し血色が戻る。ピルドルも教会の人に事情を説明し終えたようで、3人で慎重におじさんを仲間で運び込む。
教会の中では10人ほどの回復魔法の使い手が儀式魔法という方式を使用して、一度に絶大な効果を発揮する回復魔法を使用する。
「「「「「「「「「「儀式魔法【完全治癒】」」」」」」」」」」
おじさんの体が光に包まれ、体についていた傷が全て癒える。それでもおじさんは目を覚まさない。神官曰く、心臓も動いており生きてはいる。ただ、魔力攻撃によるダメージを受けると魂も消耗してしまうらしい。目覚めるまでには数日かかるだろうということだった。
その間に全世界に魔王が倒されたことが伝えられ、すべての町はお祭りムードだった。ただ、勇者パーティー3人だけは教会の神官に転移魔法で送り届けてもらったおじさんの家で過ごしていた。この祭りの立役者が今眠っていることなど知らずに町の人々は騒いでいる。
3日後、少し町の様子も落ち着いたころにおじさんは目を覚ました。ドラル、ピルドル、エリスは交代でおじさんの容態を見ていて、いま見ていたのはエリスだ。
「ヴィルド。わかる?」
「エリス。どうやら心配をかけたようだな。ドラルとピルドルはいるか?」
「すぐ呼んでくる。」
エリスが離れ、おじさんは上体を起こして体に違和感がないかを確かめていた。そして何ともなさそうな表情をして、3人の戻りを待っていた。
「ヴィルド、本当に良かったぜ、目覚めて」
「えぇ、本当に良かったです。」
2人とも目に涙を浮かべている。普段感情を発露しないエリスは珍しく号泣だ。
「心配かけてすみません。この通り、何とか助かったみたいです。ありがとうございます。」
それから、これまであったことをおじさんに話した。3日間眠っていたこと、全世界に魔王討伐が周知されたこと、国王の使者からヴィルドが目覚めたら全員で来るようにと伝えられていること。
「それではまだ時間にも余裕あるでしょうし、王城に向かいましょうか。それが終わったら4人で豪勢に食事でもしましょう!」
「本当に大丈夫か?あと1日くらい休んでも王様は何も言わないと思うぞ。」
「大丈夫です。体に異常はないですし、やることを終わらせてからみんなで祝勝パーティーでもしましょう。」
「ヴィルドさんがそれでいいなら僕も異論はないですよ。」
「それでは行きましょうか。」
王城ではこれといったことがあったわけではない。報奨金と勲章の授与くらいなものだった。
「意外とあっさり終わりましたね。それではこのお金でいいものでも食べに行きましょうか。」
「すまんな。俺はちょっと元のパーティーメンバーに呼ばれてるんだ。用件は分からんが、また今度行こうぜ。」
「すみません僕も同じです。ちょっと言い出しづらくて言ってなかったんですけど。」
「そうですか。それではまた明後日とかどうですか?」
「俺は大丈夫だ」
「僕も大丈夫です。」
「そしたら明後日の夕方に私の家に集合でいいですか?」
「もちろん。それじゃ約束の時間に間に合わないかもだからもう行くな」
「ありがとうございます。それでは僕も。」
2人ともそんな約束はない。そのあと2人で飲みに行ったのだから。それでもうそをついたのには理由がある。
「どうする、エリス?どこか食べに行く?」
「うん。あの2人はどっか行っちゃったし2人で行こう。」
「そうだね。そうだな。ちょっと静かな場所で食べたいから個室のある、あそこでいいか?」
「ヴィルドがよければどこでもいいよ。」
いつもより声に感情がこもっている。ヴィルドとエリスを2人きりにしてあげるためにドラルとピルドルは2人抜け出したのだ。
「エリスもありがとうね。ずっと世話になっちゃって。」
「そんなことない。ヴィルドがいなければ私はとっくに死んでた。」
「そういってもらえると嬉しいよ。」
「それでね、ヴィルド。こんなこと言うのが柄じゃないのは分かってるんだけど……」
「うん、どうした?」
ここまで気づかないヴィルドはヴィルドで鈍感だよな。いや、娘のような存在として扱っているのか。
「私はヴィルドのことが好き。」
「僕も好きだよ。エリス。もちろんドラルとピルドルもね。」
「そうじゃない。私の隙はそういうのじゃなくてもっとなんというか、恋愛的な感じの・・・奴・・・」
「えぇ!?そういう好き?こんなおじさんのどこがいいっていうんだい。それに君みたいに若い子にはもっと素晴らしい相手がいるよ。」
「私のことを守れるような相手が他にいるの?」
少し意地悪そうに笑いかけるエリス。これが本当のエリスなのだろう。
「…………。もしかしたいるかもしれない。」
「ほら、即答できなかった。とにかく私はヴィルドのことが好き。これからもヴィルドとずっと一緒にいたい。」
「そうか。エリスの気持ちは分かったよ。僕はね、ドラルを友人、ピルドルとエリスは息子と娘だと思って接してきたつもりだ。もし君がいいのなら、僕と一緒に暮らさないか?もちろん、今の家では狭いから引っ越すことになるだろうけど。勘違いしてほしくないんだけど、娘としてではなく、妻としてね。」
ヴィルドもここまで来たら引けない。それにエリスの本気さ、そしてこれまでエリスに救われてきた経験もある。
それに対してエリスの顔は真っ赤に染まる。
「本当にいいの?私で。」
「エリスがいいんだ。」
もちろんドラルとピルドルは後をつけており、店に頼み込んで隣の部屋に通してもらって聞き耳を立てている。
「うん。ありがとう。これからもよろしくね。」
それから数か月後、ヴィルドは4人ほどが暮らせる家を購入した。もちろん一緒にクラスのはエリスだ。
ただ、そこにはほかの人影もあった。
「ここが新居か。これから世話になるぜ。」
「新婚さんの家にお邪魔させてもらうのも恐縮ですが。」
荷物をまとめて引っ越してきたのはドラルとピルドルだ。
「いいの。私とヴィルドが望んだことなんだから。」
「そうですよ。これからも4人仲良く過ごしましょうよ。」
「そしたら全員敬語とさん付け禁止ね。堅苦しいのはなし!。」
「「え」」
エリスから通達された突然の「口調かえろ」という指示に反応したのはヴィルドとピルドル。
「わかったよ、エリス。それじゃあこれからもよろしく。」
「みんながそうだったら渡しだけ敬語というのはいけないか。それじゃみんなこれからは家族としてよろしくね。」
エリスはこの度でずいぶん成長したみたいだ。普通に話すようになっているし、しっかり者になったって感じかな?
ドラルはあんまり変わっていないように見えるけれど、一生を共にする仲間たちを見つけた。これは彼の人生で最も大きな宝物だろう。
ピルドルも少し頭が固いところがあったけれど、かなり柔軟な思考ができるようになった。
そして勇者ヴィルド。おじさんながら魔王を倒した歴代最年長の勇者。彼に並ぶ勇者はこの世界ではもう現れないかもね。
これが私が記録した「五十路のおじさんが勇者認定される話」。人の人生をのぞき見する罪悪感は少しあったけれど、それ以上に人の成長を見れて、感動できる話だった。




