未来への種子
副題:──ある物語の断章──
「──アイツ、まだ見付からないのかよ?」
前期末試験の勉強と称し、エアコンがそこそこ効いた学食の片隅で例の凸凹二人組が雑談に興じていた。
「バイト先の店長さんも、契約満了直前にブッチこかれたってボヤいていたな~」
噂のヌシは異世界に片道切符で旅立ったのだが、二人には分かるはずもなく約半年。
「ホント、一体何処に行っちまったんだろうな」
「さぁな。案外、お前が言ってた"異世界"ってヤツにでも迷い込んだんじゃないか?」
細身の若者がレンズを拭きながら投げやりに答えた。
「…サークル仲間に居たんだよ。"若隠居"が何処か別の世界に居るのを見た!って言ってんのが」
──まあ、与太話か妄想だろうけどな。月夜にだけ開く喫茶店の窓から見掛けたって話だ。そう言いながら、細身の学生は汗の滲み出た顔もウエットティッシュでゴシゴシ拭いた。
「ふ~~ん、アッチは試験も就活も無さそうで楽だよなぁ」
大柄な若者があまり興味無さげに言いながらコーラを飲んだ。少し温くなって炭酸も大分抜けていたが。
「ケモ耳ロリの彼女とか出来てたりしてな。アイツ、そう言うの好きそうだったし」
そう言いながら細身の学生が眼鏡を掛け直した。マジかよ漢の浪漫ww爆発しろwwと大柄な若者がツッコむ。
蝉の声が喧しい昼下がりの学食は相も変わらず賑やかだった。
なお肝心の試験勉強は全く進まず、二人揃って沢山の再試験を喰らった。
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「ちゃんと『シートベルト』はしたかい?それじゃ行くよ!」
母さんがそう言って鍵を回す。
「キュルルル…フワァ~ン」
ソレに応える様に一声鳴いて、ボク達を乗せた『キッチンカー』が力強く動き出した。窓の外の景色がまるで飛んでいるように目まぐるしく変わって行く。
今日は少しだけ冒険して街の外で店開きだ。ドルナウの街の側にはとてもキレイな湖があって、街の片付けが一段落すると他所の街の商人さんやお客さんが立ち寄る様になった。
湖のほとりに着いたら早速ノボリを立てて開店準備!母さんのキッチンカー仲間も、それぞれ出来たてのお弁当を棚に並べて、街道を通るお客さんを呼び込んでる。美味しそうな匂いが湖を渡る風に乗って遠くまで運ばれて行く。
今日はどれくらい売れるかな?そうワクワクしながらボクも精一杯、声を張り上げる。母さんの『丼弁当』おいしいですよ!
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「本当に大丈夫なの?」
『風の痕跡』に繋がる扉の前で、制服姿の娘が心配そうに尋ねた。
「俺達もだいぶ鍛えたからな。それに──必ずお前の元に戻る」
武装した冒険者達の中から神官戦士がそう応えた。初恋の幼馴染みと再会してから一層鍛錬に励み、以前よりも精悍さを増していた。
「…でも、やっぱり心配だわ」
「大丈夫だ。何時だってお前が居るからな」
何度も繰り返されるやり取りと二人の間に漂う何とも言えない甘酸っぱい雰囲気に、慣れたとはいえ仲間は早くもゲンナリしていた。先だって解散したAランクパーティー『クライム』女性リーダーのデキ婚、及び"稀人"であるオーナーの婚約と言う慶事が立て続けに舞い込んだおかげで、目下冒険者業界は空前の結婚ラッシュ。
中には夫婦冒険者として活躍するチームもあり、共働き夫婦のホテルスタッフ一同と連名でホテル内に託児所建設のリクエストも届いているらしい。
「あー…そろそろ出発しないか?日が暮れるぞ?」
リーダー格の男が額に少し青筋を立てながら二人に声を掛けた。ホントコイツら爆発しろ!バカップルを除くパーティーメンバー全員が脳内でツッコんだ。
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秋山裕和作曲『未来への種』(《H/MiX GARELLY》http://www.hmix.net/)
https://www.youtube.com/watch?v=hTIQyHnWkeM&t=0s