「愛の花束を君に捧ぐ」(I Dedicate a Bouquet of Love to You):はる×蕾
#記念日にショートショートをNo.6『幸福な三つ葉のクローバー』(Happy Trefoil-Clover)
2018年5月5日(土)こどもの日 公開
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【関連作品】
「愛の花束を君に捧ぐ」シリーズ
私たちが結婚してから、10年が過ぎた。高校卒業後すぐに結婚して、夫婦となり、新しい命も授かり、私たちは幸せに暮らしていた。
今日は5月5日の土曜日、こどもの日だ。夫である蕾は、毎年記念日は欠かすことがない。とても優しくて、頼りになる、この人と出会えてよかった、と思える存在だ。私は音楽教室でフルートを教えていて、今日のように長く時間が取れる休日は、フルートの練習や手入れを綿密に行っている。
「たっだいまー!お母さん!」
「ただいま、はる」
散歩に行っていた蕾と今年で8歳になる娘の四葉が玄関のドアを開けて帰ってきた。
「おかえり」
と、フルートを机に置き、玄関を覗く。廊下を四葉が走ってくる。その後に、蕾が歩いて続く。
「お母さん、あのね!」
四葉が楽しげに私を見上げる。
「ん?なあに?」
「しゃがんで、目、閉じてて」
四葉の言う通りに腰を下ろし、目を閉じる。
「絶対、開けちゃだめだよ!」
首に、何かが触れる。
「んー」
四葉の困ったような声がする。上手くいかないのか、四葉の小さな手と何かが触れてくすぐったい。何をしようとしてくれているのか、なんとなくわかる。思わず笑みが零れる。
「お母さん、笑わないでよ!」
四葉が怒ったように言う。ごめん、と謝ってから、四葉のOKサインが出るのを待つ。
「四葉、一緒にやろうか」
蕾が四葉に声を掛ける。四葉が悔しそうに、頷いたのが、なんとなくわかる。四葉のそれよりも大きな手が、触れる。好きな人の身体の下に入るような感じに、昔から変わらないトキメキを感じる。
「四葉、こっち持ってて」
いくよ、せーの、と蕾の声がして、一瞬の後、できた!、と弾けるような四葉の声がした。
「やったな、四葉」
蕾のやさしい声が聞こえる。
「お母さん、いいよ」
四葉の声に目を開ける。差し出された鏡を見る。首に、四つ葉のクローバーがペンダントトップになったネックレスがかかっていた。クローバーの入ったガラスの箱が、輝く。
「きれい……」
思わず息をのむ。
「そこの原っぱで、四つ葉のクローバー見つけられたらネックレスにしてお母さんにあげよう、って、四葉と話していてね」
蕾のほっとしたような声。
四葉と蕾の顔を見る。
「四葉、蕾。ありがとう。すごい嬉しい。」
嬉しそうな、笑顔の四葉。やさしく、あの時と変わらない瞳の、蕾。
蕾に出会えてよかった。そう思った。そして、蕾と結婚して、四葉という命を授かれてよかった、そう心から感じた。わたしは、この風景を大切にして、生きていきたいと、心にその風景を刻んだ。
【登場人物】
○早本 はる(はやもと はる/Haru Hayamoto)
●蕾(つぼみ/Tsubomi)
○四葉(よつは/Yotsuha)
【バックグラウンドイメージ】
【補足】
◎娘の名前について
はると蕾の出会いが三つ葉のクローバー畑であり、四つ葉のクローバーは見つけることが難しく、見つけられた人には幸運が訪れるという伝説があることから、幸運をもたらす人になってほしい、という思いを込めて「四葉」と名付けました。
さらに、四つ葉はそれぞれ、〝希望〟・〝誠実〟・〝愛情〟・〝幸運〟を象徴することから、それらの意味合いも込めています。
【原案誕生時期】
公開時