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沈黙と願望者  作者: 寺田夏丸
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沈黙と願望者

 下校途中、お気に入りの人が少ない路地で、自分と同じ制服を着た男が倒れていた。砕けた頭からアスファルトに染み込むように血が流れており、相当な衝撃が彼を襲ったのだと想像できた。ふと、視線をずらせばそれなりの高さがあるアパートがあったため、そこから飛び降りたのだろうか。住民はたまったものではではないだろう。顔は崩れていて識別できないが、特徴的な色素の薄い癖毛と、恵まれた大きな体に見覚えがあった。「確か隣のクラスの、なんという名前だったか」と思考を巡らせたが全く浮かばなかったため即諦める。確実に死んでいるだろうが警察を呼ぶことは、些か都合が悪かった。

「じゃあな自殺願望者」と心の中で言い残し、倒れたままの大きな体を無視して自宅へと足を進める。罪悪感はない。何ら関わりもない男で、自分から死んでいったのだ。出る幕はない。しかし、お気に入りの路地を自殺スポットにされては叶わない。一発くらい蹴っておけばよかったなぁと不謹慎なことを考えた。誰もいない家に着く頃にはすっかり存在も忘れ「今日の宿題なんだったっけ」と口ずさんだ。


 翌朝、欠伸を噛み締めながらクラスを目指して廊下を歩いていると、突如目の前に大きな影ができた。進行方向を故意に邪魔されるのは腹が立つ。目の前にいる人物を睨みつけた直後、背筋が凍った。自分より高い位置から、髪と同じ色素の薄い瞳がじっとこちらを見ている。整った顔は穏やかで、微笑みすら浮かべていた。なぜ?こいつは昨日、死んだはずじゃなかったか?混乱するこちらを他所に、テノールの声が鼓膜を揺らす。

「おはよう。昨日はどうも」

ますます混乱した。こいつは頭が砕け散っていたはず。

「あはは、驚いてる」

面白そうに目が細まる。何も返せなかった。何が起きているのか、現実なのか、目的は何か。無意識に口を堅く結んでいた。下手に何かを話して面倒になるのはごめんだ。口は災いの元である。彼はしばらく観察するようにこちらを見ていたが、予鈴のチャイムが鳴ったため教室へ帰っていく。

「じゃあ、また放課後に話そうね」と言い残して。

 死んだはずの人間が生き返るなんてことはあり得るのか。いや、そんなことはない。生き返るのなら今頃世界はハッピーエンドか阿鼻叫喚に包まれている。あの口ぶりだと、放課後にまた話しかけてくるということだろうか。色々と考えた挙句、弾き出した結果としては「無視する」の一択だった。


 放課後、奴は本当にやってきた。なんならクラスメイトに自分を呼ばせたほどである。顔立ちの整った奴に声をかけられたクラスメイトは、高揚した様子で俺を引っ張り出した。心底腹が立ったが、ここで殴るわけにもいかない。グッと眉根を寄せて、どさくさに紛れて掴んでおいた鞄を肩にかけて下駄箱へ向かう。後ろから「ちょっとー」と声が聞こえるが、何もないかのように無視した。学校から出てしばらく歩いても、声が消える様子はなかった。思わずため息が漏れる。

「あ、やっとこっち見た。本当に全く喋らないんだね!」

何が嬉しいのか、満面の笑みが俺を捉える。そもそも俺とこいつでは歩幅が違いすぎる。少し歩いただけで追いつかれるのだ。この調子では家までついてきそうだし、とっとと追い返そう。

何の用か、手短に話せと言葉を絞り出すと、彼は実に嬉しそうに話し始めた。

「お願いがあるんだよ!昨日の僕を見たろう?」

「見てない」

「見たろ??だって君、僕の隣を通ったじゃないか。後ろ姿はちゃんと見たんだよ。すぐに“元に戻った”からね」

元に戻った、というのはぐちゃぐちゃだった顔面の話だろうか?

「ご覧の通り、僕の体はどうやっても死ぬことはない。刺しても炙っても潰してもミンチにしても、必ず元に戻るんだ。心底気持ち悪いよね!」

底抜けに明るい声で放たれる言葉に、体温が下がるような感覚に見舞われた。何を聞かされているのか。これを聞いてしまっては、引き戻せないのではないか。

「他を当たれ」

「そう言わないで、最後まで聞いてよ」

「聞かない」

「ひどいな!君にとってはすごく簡単だよ、一瞬で終わるさ」

縋り付いてくる手を振り払う。意味もわからないし、薬でもやっているのか。背を向けて歩き始めるが、背後からの言葉にまた足を止めることになる。「君に俺を殺して欲しいんだ」

ゆっくりと振り返ると、やはり奴は笑顔だった。湧き上がる嫌悪感が脳内を支配する。

「…頭おかしいんじゃねーの、お前」

「本気だよ!だって君さ、」

人を殺したことあるよね?と妙に確信めいた問いに思わず力一杯拳を振るった。骨が砕けるような鈍い音が周囲に響く。殴られて地面に倒れた奴の口から血が飛んだ。しかし、数秒経つと蒸発するように消えていく。目を擦ってみても、赤い液体はどこにもない。奴は心底おかしいといった様子でケラケラと笑った。

「ほら、見たよね?」

どうやっても死なない、と自分の口から言葉が溢れた。夢でもみているのだろうか。

「人を殺すことに躊躇のない君に、是非とも僕を殺して欲しい。どんな方法を試したっていいから、ね?お願いだよ。同級生の好でさ!」

なぜ、こいつは俺が「人殺し」だと思っているのか。どこを探ったって、俺が人を殺したという記録などないはずだ。目の前の得体の知れない何かを、どうするか。考えて、考えて、考えた。

「え、ちょ、ちょっとどこ行くのさ」

歩き出した俺の後ろで、奴は慌てたように起き上がる。

「ねぇねぇ」

何も聞こえないし、何もいない。

「君はダンマリが好きだね。沈黙を具現化したみたい」

何も聞こえない。

「おーい、沈黙くーん!!」

何も…

「聞いてる??」

「うるっせぇんだよ願望者が!!!!」


周囲には再び鈍い音が鳴り響いた。





登場人物紹介


【沈黙】

 高校2年生の男。身長は165センチと小柄。黒髪の直毛で目つきが悪く、不機嫌そう。常に何かしら考えているがあまり口から出ることはない。願望者に対しては苛立ちが強すぎて、無視しきれずに話すことが多々あり。短気ですぐ手が出る。口も悪い。ガリ勉のヤンキー。一撃が重たい腕力ゴリラ。沈黙が最初に見た願望者は、落ちたてホヤホヤの状態だったため見た目が普通の死体だった。


【願望者】

 沈黙の同級生で隣のクラス。身長は189センチ。薄茶でクセの強い髪と同じ色の瞳、絵画のように整った顔をしている。常に笑顔で明るい口調で話す。不死身の体を持ち、通常であれば即死の怪我を負ってもしばらく経つと復活する。自分の体質を「呪われている」と感じており、自殺願望が強い。サクッと殺してくれそうな沈黙につきまとい、心底ウザがられている。

沈黙と願望者の出会いをきっかけに、家庭内不和やカルト宗教など問題を抱える少年少女らが交流していく物語です。少し残酷な描写や、精神的に不安定な子たちが出てきますが、なんとか成長を描いていきたいと思います。


 今回が初投稿になります。よろしくお願いいたします。

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