31 石斧すげー
石斧の威力は凄まじかった。
一刀両断という訳ではない。
一撃の威力は今までの大きな石器と大差ない。
凄いのはその取り回しやすさだ。
同じ時間あたりに振れる回数が格段に増える。
片手で使えるのでひとりで枝打ちも難しくない。
作業効率が格段に上がった。石斧すげー。
調子に乗ってがんがん若木を切り倒していたら、手に豆ができた。痛い。
幾分しょんぼりして木を引きずりながらホームベースに戻ると、トラの窯作りがだいぶ進んでいるのが目に入った。
休憩して見物することにする。
掘った穴の周りに、粘土を円筒形に積み上げている。
細長く地面を掘っていたのに、と思ってよく見ると、円筒と重なる部分を埋め戻してあった。
粘土が固まったら掘り返すのだろう。
円筒の粘土の幅は厚い。十センチくらいだろうか。
内部の直径は三十センチほど、高さは今のところ二十センチほどだ。
「お、いいところに来たな。手伝ってくれ」
トラが蔓で編んだカゴを俺に放ってよこす。粘土を取りに行こうというのだろう。
休憩のつもりだったが休めないらしい。
トラとふたりで二往復してかなりの分量の土を運んだ。
「ありがとさん。今度なにかおごるよ」
早速作業を始めながらトラが言った。ここでなにをおごるというのか。
「どのくらいまで高くするんだ?」
弾んだ息を整えながら俺は言った。
「底に手が届くくらいかな」
「底って掘った地面の底? それだともう充分じゃないか?」
「いや、地面の高さにあれを置くんだ」
トラが指差す先には、たくさんの穴が空いた土の円盤があった。
直径は三十センチほど、厚さは二センチくらいはある。
わかって来たぞ。
円盤の下で火を燃やし、穴を通って来た熱で上に置いた土器を焼くのだ。
上から円筒を覗いてみると、円盤が引っかかりそうな出っ張りがある。穴の壁面に大きな石を埋め込んでいるようだ。
しかし、それくらいの熱で焼けるのだろうか?
「これで大丈夫なのか?」
「さあな。やってみないとわからない。トライアンドエラーだ」
そう言ってトラは笑った。
「ふいごを作るといいかもしれないね」
声がして目を向けるとマモルが立っていた。
手には木の棒をを持っていて、その先には黄色っぽい粘液のようなものが付いている。
べとつく樹液だろう。
「ふいごって風を送るやつか?」
トラは首をかしげた。
「そう。まぁ、うまくいかなかったらその時考えればいいよ」
「じゃあその時は頼むな」
トラが笑う。まだだいぶ積み上げそうだ。
手伝ってやりたいが工作班の視線が気になる。
俺は自分の作業に戻った。
工作班は作業内容をシェルター作り優先にシフトした。
柵作りは時間がかかりそうだし、狼との決着はそれより早いだろう。
自然とどこかに行くか、追い払うか、倒すか――もうひとつの可能性は考えたくない。
ひとつシェルターを作って夕方になった。
狩猟班の獲物はツノウサギが三羽。やはり獲物が少ないらしい。
柵作りでハンマーとなる大石を振った秋葉が疲れていたので俺がツノウサギの解体を手伝いにいって、大いに精神的ダメージを受けた。ちなみに内臓の抜き取りを担当した。
漁猟班は十四匹のオナガウオを捕らえた。今日はそっちをいただくとしよう。
採集班の果実はほとんどとぅるるんバナミカンだ。偏りすぎ。
上原も無事に帰ってきた。
上原の報告により、はじまりの草原より向こう側にはゴブリンがいるようだとわかった。
それより山側に行くと中腹に石積みの建造物が見えたという。
時間的に詳しく調べることはできなかったので明日近くまでいってみる、と言うのでみんなで止めた。危なすぎる。
他には特に報告も話し合うこともなく、木登りの練習をする者、焚き火の周りで雑談をする者、ベッド作りに勤しむ者、それぞれの時間を過ごし、見張り番を置いて寝た。




