14 草のシェルター
「じゃあシェルターを作っていこう」
マモルが輪の真ん中で言った。みんな興味津々という感じでマモルを取り囲んでいる。
木の枝はみんなで協力して打ち終わっていた。
「まず縦軸になる棒は本来は地面に打ち込むんだけど、今は省略するね。六本くらいでいいかな。隼人、棒を持って来てくれる?」
俺は輪の中に入った。
直径二センチほどの先が細くなった若木の棒を持っている。長さは三メートル半ほどだ。
「あと五人いいかな。そしたら六角形になるように並んでくれる?」
俺たちは、もっと大きく、もっと小さく、と言うマモルの指示に従って、直径三メートルほどの円の上に等間隔になるように立った。
「そしたら真ん中に先を集めて」
木の細くなった先が真ん中で重なるように差し出す。
「そしたら六本をキツく縛る」
マモルは蔓で六本を結んだ。棒の、余った部分を折り取る。
「そしたら棒を立てて」
俺たちが木の根元の方をそれぞれの足元に来るように持って来ると、やや膨らんだ六角推が出来た。おおー、と軽いどよめきが上がる。
「棒を地面に刺していたらこのまま自立するはずだけど、今はしてないから底を結ぼうと思う。誰か手伝ってくれる」
秋葉が出てきた。
「蔓で棒のなるべく下の方を縛って、ぐるっと一周するように」
木の根元を蔓で縛り、隣の木に張り渡しまた縛る。ぐるりと一周し、蔓は輪になった。
「手を離していいよ」
俺たちが木から手を話すと、六角推の枠組みはかろうじて自立した。つんと指で押せば倒れてしまいそうだ。
おおー、と軽いどよめきが上がる。
「あとは同じように、草が重なるくらいの間隔を空けて横に蔓を張り渡していくよ。みんなでやってみて。あ、ここは出入り口にしよう。この高さまでは張らなくていいよ」
マモルはひとつの木の間に一メートルくらいの高さを示して見せた。
「あと、横に張るのは木の方がいいと思うけど、今回は蔓でやってみよう」
みんなが出て来てわいわいと相談しながら蔓を結びつけていく。
「そっち引っ張りすぎだよ」
「あ、広すぎたか」
「やり直し!」
枠組みを揺らしながら作業を続ける。
「あ、木の皮の繊維だけど、皮の内側にあるから剥がして使うよ」
マモルは木の皮を手に取った。俺も近づいて見てみる。
木の皮の内側から薄っぺらいカンナの削くずのようなものをマモルは剥がした。よく見ると細い糸状のものもくっついている。
「お、それで蔓を結べばいいじゃん」
トラが木の繊維をひったくっていった。
蔓を結ばず、蔓と木を繊維で縛って固定する。何人かは中に入って作業をしていた。
俺は木の繊維を取ってはみんなに配っていった。
やがて、鳥かごのような枠組みが出来上がった。だいぶしっかり自立しているようだ。
「次は周りに草を取り付けていくんだけど、下の方から付けていって、重なるように上に貼っていくんだ」
「そんなので雨が防げるの?」
女子が聞いてくる。
「んー、たぶん」
とマモルは笑った。
「たぶんかぁ」
女子は肩を落とす。
「まぁ応急処置みたいなものだからな。今はこれでいいじゃないか」
上原が言った。
「そうだね。草はどうやって付けるの?」
「ちょっとづつまとめて縛って重ねていくんじゃないかなぁ。そこはよくわかんなくて」
「じゃあ試行錯誤するか」
「アイアイサー」
みんなで座って草と格闘する。
俺も他の者が集めた草を使ってやってみた。細長い固い草だ。
細い蔦の真ん中あたりで直径三センチくらいにまとめた草をぎゅっと縛る。余った蔦で同じように草を縛る。
串に刺した団子のようになるが、ちょっと隙間が空いてしまう。これだと水が漏ってしまうな。うーむ。
「秋葉くん、すごい! どうやるの、それ!」
可愛い声に目を上げると、馬場くるみが秋葉の作った草の束を見て目を丸くしている。隙間なく平たい草の束が出来ているようだ。
「ああ、これはね――」
「秋葉、みんなに教えろよ! いや、教えてください!」
トラが言って、秋葉はちょっと頬を染めて立ち上がった。説明する。
なんというか、半分ずつずらして結んでいく感じ? 上から蔦を通したり下から通したりしている。
理解した者は秋葉と同じような物を作り、理解していない者は、俺と同じようになんだかヘンテコな物を作っている。よし、諦めよう。
「俺が枠に取り付けるよ」
うまく出来たやつから草束を受け取り、俺は枠の内側に入った。下からだったな。
なるべく隙間が空かないように、草を縛った蔦に別の蔦を通し結びつける。
俺以外にも何人か同じ作業を始めた。
ふと目を上げると、マモルが秋葉になにかを話しかけている。秋葉はちょっと考え込むような顔になると、新しい草を取って蔦で縛り始めた。
なんだか今までのものとは違うようだ。なんだろう。
「はい次、よろしく」
女子が草束を手渡してくる。
ぼんやりしているわけにはいかない。まだ何段も横枠はあるのだ。
俺はせっせと手を動かした。
補充の草や蔓を刈りに行ったりして四時ごろに外枠の草を貼り終えた。
もっと時間がかかると思っていたが人数がいると早い。
しかし、まだ完成ではないのだ。
「真ん中はどうすんの?」
トラがシェルターの先っぽを見上げて言った。
そう、最上部がぽっかり空いて六本の木が交差しているだけだ。どうやって草を貼るのだろう。
「秋葉くん」
マモルがにこにこしながら巨漢の名を呼んだ。
秋葉がマモルの横に行く。
その手にはちょっと形の違う草の束が乗っている。まるで小型のシェルターだ。
「これを天井に取り付ければ完成です」
マモルが満面の笑みで言った。
そうか、帽子みたいに被せるものを作るようマモルは秋葉に言っていたのだ。
「どうやって?」
トラの言葉に、マモルの笑顔が固まった。
「な、投げて?」
マモルが引きつった笑顔で言った。考えてなかったのか。
てっぺんまでは二メートル半くらいだが錐形なのでいくら秋葉や杉浦でも手は届かない。
「まあ一応投げてみろよ、秋葉」
杉浦が腕組みして低い声で言った。
秋葉がガニ股になって両手を使って下手投げで放る。ちょっと横にずれて、ぼすんと跳ねた。
地面に落ちる前に捕まえた女子が上から放る。落ちる。
捕まえたやつが放る。乗らない。
ゲームみたいになってきた。
「俺が乗せてやる!」
トラが放ったミニシェルターはすっぽり天井に乗った。逆さまに。
あー、とため息がみんなから漏れる。
「なぜだ!」
トラが頭を抱えた。
みんなが見上げるミニシェルターに棒が伸びてきて、そっと落とした。
振り返ると余った木を両手に持った長澤がいた。
「棒を使えばいいんじゃない?」
にこにこしながら長澤が言う。そうだね、最初からそうすべきだったよね。
棒の先にミニシェルターを乗せて、そろそろとシェルターの先端に伸ばしていく。慎重に置き、さっと棒を引き抜くとシェルターは出来上がった。
みんなから大きな歓声が上がり、拍手が鳴り響く。苦労した。特に最後。
棒を持った長澤はやっぱりにこにこしていた。
シェルターの中に入ってみた。暗い。草の間から光が見えるところが何か所かある。
大丈夫なのだろうか。まあ雨が降ったらわかるだろう。
出来上がったシェルターは結構広くて座ってなら結構入れるだろうが寝るなら三、四人だろうか。杉浦と秋葉ならふたりでいっぱいかも知れない。
俺が外に出ると他のやつが入っていった。
外に出るとマモルがシェルターを見上げて立っていた。なんだか真面目な顔をしている。
「おつかれさん」
俺はマモルの横に立った。
「隼人もおつかれさま」
俺を向いた顔はいつもの笑顔になっていた。
「らしくない顔してたけど?」
俺が言うとマモルは声を立てて笑った。
「凄いなと思って」
「凄い?」
「うん、シェルターを作るって言ったけど、こんなに早く立派なものができるなんてね」
立派かどうかはあれだけど、まあ早くは出来たんだろうな。
「そうだな」
「みんなが一致団結して頑張ったらこんなことも出来ちゃうんだなって。凄いよ。僕たちは凄い」
僕たちは凄い――個人個人は大したことなくても、みんなで力を合わせれば俺たちは凄くなるんだ。
なんだかこの世界でもやっていけそうな気になってくる。
「うーし、やるぞー!」
「次はなにをしようか?」
マモルが聞いてくる。
「んー、火熾し?」
人類は火を持った時、人類になったのだ。
「そうだね。ここじゃ緑色のやつらに火を見られるかもしれないから河原でやろうか」
「よし。みんな! 次は火を熾そう! 焚き木を集めて河原に集合だ!」
「お、キャンプファイヤーか。いいねいいね」
トラが言って、
「もう! 遊びじゃないんだよ!」
と但馬琴子に怒られた。
みんな森に入っていく。
よかった。なにお前が仕切ってんだよ! とか言われるかと思った。
俺はみんなを追って森に入った。




