114 謎の声
「うわあ!」
鋭く突いてくるのを、下から剣ではね上げると同時に身をかがめて、かろうじてかわした。
小滝たちにも襲いかかってきたようだ。
「たあ!」
「ぬおお!」
真っ直ぐ頂上を目指すのは傾斜が急で無理だ。下はフロッグマンの仲間が上がってくる。
苔むした岩場に戻れれば囲まれて袋叩きに遭うことはなさそうだ。
「岩場に引き返そう!」
いったん距離をとったフロッグマンの頭を小滝のウォーハンマーが上から叩いた。崩れ落ちるフロッグマンを横目に踵を返して走った。
気味の悪い鳴き声が追いかけてくる。先を行く小滝が岩と岩の間に入った。あとを追う。
すぐに岩場を抜けて裏側に出た。小滝は斜面を上がっていく。
斜面の上の方には出っ張りがあって、身を隠せばフロッグマンをやり過ごせるかもしれない。
俺は息を弾ませ斜面を登る。背中のバッグが重いのだ。長剣を納める暇もない。そう思って手首の腕輪に気がついた。また考える暇のない時に現れたのだ。
小滝はすでに出っ張りにたどり着いて身を隠したようだ。秋葉は俺のちょっと先を行っている。
「早く早く!」
抑えた声で小滝が鋭く言ってくる。俺は足を早めた。
後ろの岩場からフロッグマンの気味の悪い声が聞こえ始めた。俺たちを探しているのだ。
俺は歯を食いしばって足を動かした。汗が目に入って視界が悪くなるがカブトのせいで拭えない。這うようにして上がってやっと出っ張りに入った。
俺は出っ張り横の斜面に四つん這いになって喘いだ。フロッグマンに聞こえるのではないかと心配になった。
「探してるね」
小滝はどこからか下の岩場を覗いているのだろう。
俺は大きく息をしながら蔓鞘にゆっくりと長剣を納めた。この蔓鞘ももうすぐ壊れてしまいそうだ。
剣を納めると俺は耳を澄ました。鳴き声からするとフロッグマンはかなりの数がいるようだ。ここも見つかってしまうかもしれない。辺りに樹木は多いが草はまばらで身を隠して移動するのは難しそうだ。
俺はゆっくり大きく呼吸を繰り返した。
「一匹上がってくるよ」
小滝がささやいた。この出っ張りを確認しに来るのだ。
俺はそっと出っ張りに身を寄せた。見つかりにくいようにだ。
倒すのは小滝に任せよう。それでも、ゆっくり剣を鞘から抜いた。
出っ張りのすぐ下で、からりと石が転げ落ちる音がした。フロッグマンはすぐそこだ。
小滝のウォーハンマーが空気を切った。鈍い音が響いた。
ひと声も発しなかったフロッグマンだが、その体は斜面を落ちていき小石が音を立てる。下のほうのフロッグマンが気味の悪い声で吠えた。
「バレたぞ! 逃げろ!」
秋葉の声に三人は駆け出した。斜面を横に走る。
フロッグマンが何匹も追いかけてきた。
逃げ切れるのか。戦って勝てるのか。
走って体力を消耗してからでは戦っても勝てない。
いま戦うべきか。
俺が長剣の柄を強く握ったその時、
「こっちだ!」
俺たちの誰でもない声が、森に響いた。




