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えがおのレシピ  作者: 藤坂みやこ
8/10

第8章 いつもありがとう

~前回までのあらすじ~

医者として様々な患者と向き合うことに

限界を感じつつあった片山仁。

ぎたろー枠にリスナーとして通い

医者としてのひたむきな姿勢を

感謝してもらえたことによって"えがお"を取り戻した。


 大人になるほど


 気持ちが抑えきれなくなって


 かえって涙もろくなった気がする。


 ストレートに気持ちを


 伝えられるように


 なった気がする。


 子供の時の方が


 突っ張ってたのかな?


 -----------☆------☆-------☆-------------

 

 時刻は午前3時前。


 今夜も、マイクテストは


 いろいろと思う所があった。


 特に話題を用意しているわけでもないのに


 毎日、色々な話題が飛び交う。


 この、かた416さんという


 この国のどこかで


 医療のために戦っている人たち


こんな勇敢な人たちが、


 この国に


 どのくらいいるのだろう・・・


 お医者さんの存在は、尊い。


 自分の命を削ってまで


 患者の為に尽くしてくれる使命感のあふれる先生も


 俺は見てきた。


 新卒で、大企業に就職した。


 最初はキャリアを積むことが大事だと思っていたから。


 今のように独立してフリーランスになれるように


 下積みするにしても、まずは大企業に入社する、

 

 それが業界のキャリアの第一歩だった。


 大卒で22歳の時、

 

 大企業には立派な研修センターがあり、


 週末以外は研修センターの寮に泊まるが


 週末は自宅に帰れる。


 そんな時に、親父に


 (さとし)「この業界で日本一目指そうかな」


 とか、言うと


 (さとる)「へぇ、智の口からそんな言葉が聞ける日が

 来るとはな!」


 と返してくれた。


 その時は、親父は何ら健康的に見えた。



 実家での安らぐ時間も瞬く間に過ぎて、


 日曜日の夕方に


 (さとし)「いってきます」


 (さとる)「明日からまた研修か、いってらっしゃい!」


 その時の、

 

 神戸に戻るために駅まで送ってくれた親父と交わした会話が


 今生での最後の親父との会話になるとは


 その時は


 微塵も思っていなかった。。


 その翌週は、神戸での住まい探しなどで


 九州には帰らなかったからだ。


 ------■■■■■■■■-------------



 5月になり、研修センターから


 事業所へ配属になった。


 毎日、必死になって勉強し仕事に取り組んだ。


 元々、デザインが好きだったのも有り仕事の情熱はあったが、

 それ以上にwebのことを覚えるのは大変だった。


 まだ、見習い社員としての歩み出しが始まったばかりの頃


 受付の女性「営業部の浜野 智さん、外線03番でお電話です。」


 智「はいー今取ります。」


 看護師「浜野智さんですか?お父さんが倒れられまして、

 非常に危険な状態です・・」


 智「・・・は?・・え?」


 携帯を見ると、母と姉からの着信が30分前くらいから

 ものすごい数でかかってきていた。


 新入社員だから仕事中に見ることは流石にできなかった。


 上司に報告して、その日の新幹線で小倉にある病院へと

 向かった。


 親父はICU(集中治療室)で人工呼吸器をつけ横たわっていた。

 

 突発性の、くも膜下出血だった。


 そこから手術をし、10日前後様々な処置を施してもらったが


 親父は還らぬ人となった。



 最後の日、6月の雨が降らなかったので


 親父の時計を、時計屋で電池を交換してもらった。


 動くようになれば、親父の様態も回復するかもしれない。


 祈りはむなしく、天には届かなかった。


 時計屋からICUに戻ってきて、10分位で


 親父は息を引き取った。


 

 そんなことを、昨日のことのように


 今でも覚えている。


 親父の治療の為に、

 

 多くの先生があれこれと治療方針を模索し


 非常に難しい手術を計画し、


 10時間を超える施術時間で


 全力を尽くしてくれた。


 あの時の先生の額には

 

 汗がびっしょりついていて


 手術のための服も


 汗で色が半分変わってしまっていたのを

 

 今でも思い出せる。


 かた416さんも、


 恐らくは


 それとは状況は別だろうけど、


 ひょっとしたら


 それ以上の


 苦労をされているのかもしれない。


 部屋でwebデザインを描いてる自分の仕事とは


 プレッシャーも比較にならないだろう。


 

 心から伝えたい、感謝の気持ち。


 患者さんの命を救いたいという気持ちを


 全力で応援したい。


 そんなことを考えていると、


 心の奥の暗闇の中から


 一筋の光がきらりと輝き


 メロディーと


 言葉(歌詞)が


 あふれてくる・・・



 智「応援の言葉・・フレー・・フレー・・・」


 それを、もしかたさんが歌うなら・・


 応援してもらえたら、元気をもらえて、


 強くなれる・・・


 コードは・・


 D、DM7、Esus4、Em、G、A、D、Eb、、、


 智「・・いつもありがとう・・」


 ありがとうを言う時って


 どんな時?


 笑顔だから、というわけでも


 ないよなぁ。


 そう、今のように


 笑えない時でも


 伝えたい気持ち。


 自分の気持ちを、誰かの気持ちを


 強くさせてくれる言葉


 それが、


 ありがとう。



 智「ありったけのー・・・気持ち込めて・・」


 初めから、ちゃんと伝えたい・・


 これは順番を逆にした方がいいかな。

 

 そんな風に

 深夜の部屋に、


 自分の声だけが響く。


 もう少し、煮詰める必要はあるけど


 だいたいの曲の構成は出来上がった。


 ギターを指でなぞると、


 奏でられる音に


 気持ちを載せられる。


 雰囲気で


 曲は出来上がっていく。


 気持ちがメロディーに


 なっていく。


 どうしてだろう。

 

 頬を伝う


 一筋のしょっぱい水。


 気持ちは溢れだすと


 目から流れる涙になる。


 次から次へと


 止まらなくなる。



 喉が、

 

 ひっ、となる。


 大人になってからの方が


 涙もろくなった気がする。


 ----------☆------☆-------☆--------


 今晩も配信。


 同じ一日は無いように、


 同じ配信になる日も無い。


そんな、その日々のアイデンティティを感じる出来事があった。


 「ななこ☆が応援(1)を贈りました」


 ぎたろー「ななこちゅわぁーん(はーと)

 いらっしゃいませぇー」


 ななこ☆「こんばんわー」


 ななこ☆「ちょっと今日は頭が痛いから

 

 潜りでスミマセン(汗」


 ぎたろー「大丈夫かなぁ?無理しないでね」


それでも枠に聴きに来てくれている事は本当にありがたい。




 ------♪----♪----


 ぎたろー「ありがとうございました、福山雅治さんで、

  milk teaでした♪」


 yuriko0407「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」


 kodama3321「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」


 ななこ☆「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」

 

 まだ、かた416さんは来ない。


 ぎたろー「ミルクティー飲みたいなぁ・・」


 そう言いながら、コーヒーをすすり飲む。


 喉をごくりと通った時、画面にペンライトの


 喝采の画面が降ってきた。


 「かた416がペンライト(歓喜)(300)を贈りました」


 ぎたろー「かたさぁーん♪いらっしゃいませぇー」


 ついに、来た。


 次の曲は、これに決めた。


 ななこ☆「かた先生~」


 かた416「ななこちゃん、大丈夫なの?」


 ななこ☆「今のところ、大丈夫だお」


 だお、だなんてかわいいなぁ。。


 頭痛がするから今日は潜りだと


 言っていたけど、


 かたさんの名前を呼んだ瞬間に


 ななちゃんが浮上してきた。


 仲がいいんだろうなぁ。


 それだけ、きっといい先生なんだろうと


 思っている。


 では、頃合いもよさそうだ。


 ぎたろー「かたさん、本当に新型感染症で色々と

 大変だと思います、お疲れ様でございます。」


 かた416「いえいえ、今日も忙しかったですが

 何とか乗り切りました。」


 ぎたろー「かたさんのような、頑張っている方への

 メッセージを伝えたいなぁと考えたんですぅ。」


 思いを語りだした。


 ぎたろー「でも、かたさん自身も歌いたいっておっしゃってましたよね。だから、どっちの気分にもなったつもりで

 新しい曲を書いてみました。」


 かた416「おお、そうなんですか!」


 ななこ☆「s」




 ぎたろー「本当に、自分で作っててメロディーをね?

  歌詞を書いてて、深夜に気持ちが溢れて  

  止まらなくなっちゃって。」


 かた416「ななこちゃん?」

 ななこ☆「s」

 

 Sは何を意味しているのだろう。


 その意味まではわからなかったが、

 

 準備が整っていたので、ギターを構えた。


 ぎたろー「それでは、聞いてください

 オリジナルソングで”いつもありがとう”」

 

 その瞬間、昨日書き上げた紙の譜面が


 譜面台からパサリと落ちた。


 ぎたろー「ああっと、ごめんなさい、焦っちゃったね(汗」


 何かが当たってしまったのだろうか?。。


 クーラーの風が強すぎたか?


 扇風機は演奏にノイズが乗るから回していない。


 せっかくのかたさんへの新曲披露なのに


 段取りが悪い。。


 ぎたろー「改めて。、、、聞いてください

 オリジナルソングで”いつもありがとう”」


  ~♪~(Youtube で”ぎたちゃんねる いつもありがとう”で検索してみてね )~♪~


 ぎたろー「フレー、フレー、フレー、君の声がぁー・・・」


 kodama3321「(キラコメ)(キラコメ)(キラコメ)」


 yuriko0407「(キラコメ)(キラコメ)(キラコメ)」


 やえ07「(キラコメ)(キラコメ)(キラコメ)」


 藤田みやこ「(キラコメ)(キラコメ)(キラコメ)」


 18(エイティーン)アプリにも色んな人がいる。


 この人は名前は女性だが、男性の女装配信ライバーらしい。



 ぎたろー「僕をいつもより、強くさせる~」



 そう、こんな応援が、

 

 ライバーとしての心を強くさせるんだ。




 ぎたろー「初めからーちゃんとー言うよぉー」


 ”いつもありがとう・・”




 自分の曲なのに、


 始めてこのフレーズを歌うとき


 鳥肌が少し立った。


 何か温かい気持ちが、高ぶってきている。


 ぎたろー「笑ーうこーとがー出来ない時もー」

 

 かた先生ってどんな人だろう?


 想像しながら、


 その人が、すごい重装備で


 患者さんと一生懸命向き合っている


 そんな様子が頭に思い浮かぶ。


 ぎたろー「僕の心―包んでくれた―今更かもだけどー


 言うよー」


 

 ”いつも、ありがとう・・・”



 ぎたろー「いつーかはー限りある時間ー・・」

 

 命には、限りがある。


 伝えられる間に、気持ちは伝えておかないと


 ある日突然、


 命は終わってしまうかもしれない。



 

 ぎたろー「ありったけのー気持ち込めてー」

 

 これがもし、一生に最後の出会いだとしたら・・


 もうどれほどの気持ちを込めるだろう。




 ぎたろー「これからずっとーきっとー言うよー」


 言いたかった、ずっと言っていたかった。


 今はもう、言っても聞いてもらえないかもしれないけれども


 空の上から聞いていて欲しい。


 親父。



 ”いつも、ありがとう・・・”



 ”いつも、ありがとう・・・”




 この気持ち、伝わるだろうか・・・?



 

 kodama3321「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」


 yuriko0407「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」


 やえ07「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」


 藤田みやこ「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」



 ぎたろー「ありがとうございましたっ、オリジナルソング

 の新曲で”いつも ありがとう”でしたっ」


 yuriko0407「いい曲だね(うるうる)」


 kodama3321「泣ける(拍手)(拍手)」


 「藤田みやこが花火(300)を贈りました」


 たくさんのギフトや


 キラコメを頂けた。。


 それは素直にとても嬉しい。


 弾き間違えや、音程が外れたりも


 なかった。


 初めての演奏は、成功だと言えると思う。


 ・・・。


 しかし、ひとつだけ


 気になったのは・・・


 かた416さんには


 どうも、聞いてもらえなかったっぽい。


 それだけが、どうしても


 負けたようで悔しかった。


 とは言え、かたさんは、お医者さんであることを


 考えれば、


 急な用事とか


 電話とか


 そういうことも考えられるだろう。


 かたさんは、「おおそうなんですか!」と


 驚いてくれているようにも思えた。


 今度また、配信に来てくれた時に


 改めて聞いてもらうことにしよう。


 演奏前に、なんだかんだと


 バタバタもしてしまったし。。


  


 -------〇------〇-----〇----


 外はうだるように暑い。

 今日も東京はいい天気だ。

 久しぶりに気分の方も晴れやかだ。

 なぜなら今日は午後から外来診察の担当ではなくなった。

 

 院長が、他の病院や知り合いの個人の医者に声をかけて

 アルバイト的に外来を担当する医師を

 短期間ながら増やしてくれたからだ。

 

 こういう、ひっ迫した状況ながら


 そういう所まで手を回してくれる辺り

 流石院長だと感謝するしかない。


 おかげで、心理カウンセリングに関する

 貯めに貯めた文献を

 午後からはゆっくり読むことが出来そうだ。

 どんな論文があるのだろうか。

 

 パラ、パラ・・

 「音楽療法のリラクゼーション効果に関する研究」

 ・・・ほほう

 私も、ギターを使って論文書こうか・・?

 

 ギターはもう何処に行ってしまったのだろう。

 忘れていた少年の時の思い出のように

 手元に保管していないことは明白で

 大学になるまでに処分してしまったと記憶する。

 

 ロックブームだった頃は

 多くの男子がギターとかエレキギターくらいは嗜みとして

 持っていたものだった。

 

 有名高校に進学してからは

 医学部に入学するために3年間を捧げ

 それをさらに2年予備校で過ごして

 まだ、早い方だったと思いたい。

 少子化が進んだ現在よりも医学部は入るのは難しかった。

 気が付いたら、もう楽器を嗜んでいる時間は、

 青春の間には残されていなかった。

 楽器はともかく、音楽はずっと大好きだった。

 今もそれは変わらないからこそ、

 耳は肥えていると思っている。

 スマホの音楽を聴きながら仕事をしてはいけないとは

 思いながらも、

 音楽を聴きながらの方が、色々な作業に集中しやすい。

 クラシックも聞くが、

 やはりアップテンポなJ-POPも捨てがたい。

 

 そういえば、この前の配信で流れていた曲は・・


 サイケデリックだったか。

 

 あの曲もまた聞きたい。

 iTonesなどでも流しているのだろうか。

 YouTubeに動画があったりするのだろうか?

 

 あー・・・


 聞きたい・・


 ぎたろーさんの配信、


 やって・・・ないか。

 

 いつも夕方からだもんな・・


 もやもやする。。。


 気持ちを落ち着けるために

 外にタバコを吸いに行くか・・


 ラボを出て、

 院内の廊下を歩いていると

 

 片山「お、ななちゃん、こんにちは。」


 ななこ「あ、かた先生・・こんにちは。」

 

 片山「ん?どうしたの?元気ないね。」


 ななこ「最近、急に症状が重くなってきちゃって・・

 なんとなく、しんどいの。。。」


 ななちゃんの病名である慢性活動性EBウイルス感染症は

 免疫異常に分類される病気である。

 だからこそ、何でもないようなウイルスの侵入が

 思いのほかに重い症状につながる時もある。


 厄介なのは、急に症状が悪化すると手が付けられない。

 

 その時、頭に何かの予感がよぎった気がした。

 そして、こういった。


 片山「ななちゃん、これは、万が一の時の為に

   と思って話しておくんだけど、いいかな?」


 ななこ「ん?なに?」


 片山「ななちゃんの病気は、急に症状が悪化するときがある。

 そんな時は処置に一刻を争うんだけど、手遅れになると

 予後が良くなくなるどころか、命の危険まであり得る・・。」

 

 ななこ「うん・・・」


 片山「コールは勿論なんだけど、念のため

 サインのようなものを決めておいてもいいかな?」


 ななこ「えーそこまでしなくても(汗」


 片山「ま、万が一の時に、だよ。例えば、配信中に

 ことが起こったら、文字を打ち込むのもやっとかもしれない。


 だから・・そういう時は、”S” とだけコメントしてみて」


 ななこ「えす?」


 片山「SOSの、つもりのS。余裕があったらSOSでもいい」


 ななこ「わかった!まあ、いたずらでも許してね☆」


 片山「病室は知ってるんだから、当直に連絡入れるようにするよ!」


 ななこ「えー・・」


 片山「あ、でも明日は私が当直医だなぁ・・」


 明日が随分久しぶりの、当直医だったことを今更思い出した。


 ななこ「じゃあ、かた先生が飛んでくる?」


 片山「明日に限っては、そうなるだろうね。」


 ななこ「じゃあ、SOSだぁ~寂しいから泣いちゃうの」


 片山「カウンセリングも、もし必要だったら呼んでね。

 何もなければ、当直は結構ヒマなんだ。」


 とは言え、結構毎回バタバタするのが当直なのだが。


 ななこ「もぉー先生真面目すぎなんだから!」


 片山「私はいつでも真面目ですよ?」


 この時の、何となくの嫌な予感でとっさに決めたサインだったが・・


 その”まさか”は、、、


 すぐにやって来てしまった・・・


 -------●●●-----------


 片山「はい、お疲れさまでした、当直交代しますよ」


 里河「あ、片山先生ぇ、お疲れ様です。久しぶりですねぇ~」


 里河先生は、外科のプロフェッショナル女医だ。


 女性らしい細やかさの効いた手術の腕前は院内随一である。

 新型感染症がはやってからは、ご無沙汰だが

 カラオケの方もなかなかの歌唱力だ。


 片山「そうなんですよ、外来診察がずっと続いてたので

 当直なんて本当に久しぶりですよ」

 

 里河「最近は、発熱でどうしてもっ!という人以外は

 そんなに大きなことは起きないですよ、私も今週末は

 久しぶりに実家に帰ろうかなぁと、品川最終の新幹線で

 関西に戻るんですよ♪ずっと働きづめでしたからね。」


 片山「いいですねぇ、地元か、、、

 確かに、院長のお陰で

 仕事は余裕が出てきそうですねぇ。」


 里河「そうですよー、もう大丈夫でしょう。

 何かあっても私を呼ばないでくださいね(笑」


 片山「緊急案件ができたら戻ってきてください!」


 里河「かなんなぁー(笑)あ、そういえば緊急には


 ならないと思うんですが、7B病棟の松島さん、今日の

 午後の回診では少し具合が悪そうでした。バイタル的には

 微熱があるくらいで大きな問題はなかったのですが、

 少しだけ注意しておいてくださいね。」


 7B病棟の松島さんは、ななこちゃんのことである。

 昨日からあまり快方に向かっていないどころか

 悪化すらしているのかもしれない。


 片山「わかりました、注意しておきます。お疲れさまでした。」


 

 ------♪----♪----


 仮眠室の電気はまだ消さないでスマホを眺めていた。


 ようやっと一息つける。。


 だが、見に行かないわけにはいかない。


 今日も18(えいてぃーん)を開く。


 仮眠の時間は貴重だ。

 

 5時間の休憩時間で


 実質的に3時間余り寝られればいい方だ。


 それも、何かあれば、全部応急処置や


 時には緊急手術のようなことも


 しなくてはならない。


 医師の免許を持っている以上は。


 それでも、朝日が昇る頃から、夜のとばり迄

 

 ほとんど開ける時間は

 このライブ配信アプリの虜になってしまっている。


 貴重な仮眠時間を割いてでも、

 見たいものは見たいのだ。


 それが人生の貴重な時間の充実した過ごし方でもある。

 

 ぎたろー「ありがとうございました、福山雅治さんで、

  milk teaでした♪」


 yuriko0407「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」


 kodama3321「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」


 ななこ☆「(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)(拍手)」

 

 ぎたろー「ミルクティー飲みたいなぁ・・」


 ミルクティーではないかもしれないが、

 こちらをどうぞ召し上がれ・・・っと。


 「かた416がペンライト(歓喜)(300)を贈りました」


 ぎたろー「かたさぁーん♪いらっしゃいませぇー」


 今日も、やってきてしまった。

 さぁ、楽しい時間が始まる。



 ぎたろー成分補充の時間である。




 ななこ☆「かた先生~」


 お、ななちゃんが居る。


 かた416「ななこちゃん、大丈夫なの?」


 ななこ☆「今のところ、大丈夫だお」


 里河先生からは、しんどそうだと報告を受けていただけに

 少し安心した。 


 ぎたろー「かたさん、本当に新型感染症で色々と

 大変だと思います、お疲れ様でございます。」


 かた416「いえいえ、今日も忙しかったですが

 何とか乗り切りました。」


 これも里河先生の予告通り、

 発熱外来を希望する患者が2人来た。


 何とか仮眠時間までには、

 全部片づけられてよかった。


 ぎたろー「かたさんのような、頑張っている方への

 メッセージを伝えたいなぁと考えたんですぅ。」


 えええ!それは・・・嬉しい・・


 仕事として、確かにそれは忙しい日々だった。


 これまでにないくらい、多くの患者を診てきた。


 普段やらない専門外のことも随分やってきた。


 その気持ちだけでも、温かくなる・・・


 ぎたろー「でも、かたさん自身も歌いたいっておっしゃってましたよね。だから、どっちの気分にもなったつもりで

 新しい曲を書いてみました。」


 かた416「おお、そうなんですか!」


 そんな気分が、最高潮に高揚した次の瞬間、、、




 背筋が凍りそうな文字が目に飛び込んできた。


 


 ななこ☆「s」



 これは・・・



 SOSのサインだ・・・!!!




 ぎたろー「本当に、自分で作っててメロディーをね?

  歌詞を書いてて、深・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ぎたろーさんの言葉が途中から、ただの音にしか聞こえなく

 なってしまった。


 冷静に、、落ち着いて、、、


 おふざけじゃないよな・・・?


 一応聞いてみるか・・・


 恐る恐る、書き込んでみる。


 かた416「ななこちゃん?」



 ななこ☆「s」

 

 やっぱり、これは、、


 あの時、決めたSOSのサインだ・・・


 (ピピピピピピピ・・・)


 その時、部屋のコールフォンが鳴った。 


 片山「片山です。」


 看護師「先生、すぐに処置室に来てください!

 7B病棟の松島さんが・・」


 片山「すぐに行きます」


 

 スマートフォンをポケットに入れ、

 白衣を羽織り、仮眠室を飛び出した。


 処置室に入ると、看護師が数人で

 バイタルチェックと点滴の準備をしていた。


 看護師「先生!松島さん、サチュレーション86、血圧100,

体温35.6℃です!喘鳴があり、意識はありますが、危険な状態です!」

 

 まさかここまでとは・・・


 片山「あ・・・あぁ・・・」


 私に何ができるのだろう・・・


 変な汗が額から流れた。


 看護師「片山先生!」


 今から、里河先生に来てもらうか・・


 そういえば、今日は新幹線で関西に帰るんだっけ。


 最終の新幹線ってもう発車したのだろうか。。


 呼ぶにしても、その間にななちゃんが果てる可能性も・・


 すぐに処置を施さなければ、


 予後がよくなるどころか、


 命の危険が・・・


 あああああああああ


 あああああああああ


 もう、、、


 やるしか・・・ない!!!


 僕は医者だ!!!


 やる!!!


 ななちゃんを、、


 救う!!!



 片山「ちょっといいですかっ」


 ポケットから、スマホを取り出した。


 緊急処置室の、


 ステレオ装置に


 接続した。


 ”あの”配信はまだ、着けたままである。


 ぎたろーさんの・・


 声を・・・



 スピーカー「フレー、フレー、フレー、君の声がぁー・・・」

 スピーカー「僕をいつもより、強くさせる~」


  ~♪~(Youtube で”ぎたちゃんねる いつもありがとう”で検索してみてね )~♪~



 

 処置室のスピーカーから、


 配信中の、ぎたろーさんの曲が流れ出した。


 処置室中に、ぎたろーさんの歌声が響く。


 これが、、、


 この曲が、、、


 僕のために描いてくれたという


 曲なのかな。


 もう終わっちゃったのだろうか。


 この曲なのか?


 どのくらいの時間がたったのかは


 急いで来て、頭が真っ白になって


 もう全くわからなかった。

 

 でも、手術中は、


 医者が集中しやすい音楽を


 かけながら手術をするのが


 今は一般的なのだ。


 透明なエア袋を渡す。 


 片山「ななちゃん、これ、握れる?」


 ななこ「・・・(弱く握り返す)」


 振り返って看護師に指示を出す。


 片山「ライン2本入れてください、」


 看護師「はい!ライン2本用意してー!」


 

 ぎたろー「初めからーちゃんとー言うよぉー」


 ”いつもありがとう・・”



 ありがとう・・・


 そう、これはいつも、ぎたろーさんが言っている言葉だ。


 感謝の気持ちを持つことの大切さを


 教えてくれる、ライブ配信っていつもそうだ。


 ライバーも、

 

 リスナーも、

 

 お互いが、


 与えあって、

 

 感謝している。


 心からの”ありがとう”が


 言える場所。



 ぎたろー「笑ーうこーとがー出来ない時もー」

 

 ぎたろー「僕の心―包んでくれた―今更かもだけどー


 言うよー」


 ”いつも、ありがとう・・・”


 いつか、笑える日が来るように


 今を一生懸命に生きないと


 ”その時”はやって来ないのだろう。


 少しずつ光が見えてきていれば、いいけれども


 一寸先は、いつも闇で、


 ほんの少し先に


 光があるかもしれないけれども


 それは全然見えない。


 ななちゃんに、


 光を、、


 希望の光を、、、



 片山「ちょっと痛いけど、、我慢してね。」


 メスを握る手の力を入れないように


 気を付ける。


 ななこ「うっ・・・・」


 ツーっと鮮血が流れる。


 



 ぎたろー「いつーかはー限りある時間ー・・」

 

 ぎたろー「ありったけのー気持ち込めてー」


 いつまで、

 

 一緒に居られるかなんて


 誰にもわからない。


 気持ちが、

 

 行動になって


 希望の光を


 きっと差し込ませてくれる。


 生きているからこそ、


 続けているからこそ、


 その”タイミング”は


 やってくるのだと


 信じている。

 

 例え、今この瞬間が


 そのタイミングじゃなかったとしても


 ひたむきに


 ひたむきに


 気持ちを注いで


 伝えなければいけない


 思いを




 ぎたろー「これからずっとーきっとー言うよー」


 ”いつも、ありがとう・・・”



 ”いつも、ありがとう・・・”



 

 ぎたろー「ありがとうございましたっ、オリジナルソング

 の新曲で”いつも ありがとう”でした・・・・・・・」


 心拍測定器(ピピピピっ!!ピピピピっ!!)

 血圧測定器(ポーーーン!ポーーーン!)


 看護師「片山先生!血圧が・・・!」


 もうちょっと・・・


 もうちょっと・・・


 頑張ってくれ・・・!!


 ---------------●●--------------------



 看護師「はーい、松島さーん、回診の時間ですよー」


 ななこ「はーい、(もぞもぞ)」


 里河「松島さーん、こんにちは、気分はどうですかぁー?」


 ななこ「今日はいいですよ☆」


 里河「んー☆それはよかった・・お、またYoutube見てたね?」


 ななこ「うん、この人、今推しのライバーさんなの☆

 こないだ、緊急手術中に、聞いたことない曲が聞こえた気がしたの。その曲がないかなぁーって。」


 里河「ああ~あれねぇ、片山先生が処置室で大爆音で

  音楽かけて緊急手術やったってやつかな?」


 ななこ「ええっ!本当にかけてたの?!」


 里河「そぉーよぉー?手術でクラシックとかかけるのは

 全然ある話なんだけどさぁ?処置室でJ-POP大爆音は

 流石に聞いたことないわー、他の患者さんに聞こえちゃうし(汗」


 ななこ「なんだぁーじゃあ、、あれはやっぱりぎたろーさん枠の  配信だったんだ。。。」


 里河「いっつも夜スマホ見てるでしょ?だめよー?早く 

 寝なきゃあ。いつまでたっても良くならないぞ?」


 ななこ「音楽で良くなるんだもん☆」


 里河「こいつー☆」


 ななこ「はははは」 

 

第2部、かたさん編は今回で大団円です♪

次回、少しエピローグを挟み、いよいよ第3部

うめのちゃん編スタートです!

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