陰謀
ホルストはジェーンの叔父であった。今回の婚約破棄劇を企てた張本人だった。ここまで首尾よく計画通り進んでおり、後はキャサリンだけでなく宰相を始末すればよかった。現在宰相を務めるハインリッヒを失脚させれば、自分が次期宰相になれると踏んでいた。
「宰相は現在どこにいるんだ」
部下に尋ねるとこんなことをいった。
「それですが、予定よりも早く帰国させるようです。予定では三日後出発のはずでしたが」
ホルストは少し焦った。内容は分からないが帝国はこのフラマン王国に対しとある条約を締結せよと要請していた。要請とはいっても事実上拒否はできない。だから少しでも条件を良くするため宰相自身が交渉にいったのが一週間前だった。その間に全て成功する必要があった、ハインリッヒが戻ってくるまでに。そうキャサリンを始末していなければ既成事実で状況を有利に進められなくなる。
「そうか、ところで国王陛下夫妻のご容態はどうか?」
ホルストはグラスを傾けながら部下に尋ねていた。
「はい、芳しくないそうです。予定通りに」
「そうか」
ホルストの頭の中には、あの錫で出来た美しい壺があった。あの中に”遺産相続を解決する薬”が仕込まれていた。その薬で国王、ヴィルヘルムの父親はもうすぐ鬼籍に入るはずだと踏んでいた。そうすれば自分の姪ジェーンを王妃に押し込められるはずだった。あとは末永くこの国の宰相になるつもりだった。
そして今自己陶酔していたのは、ジェーンの「純愛」を成就させることが出来る事だった。そのために一人の女が死んで不幸になっても小さな事だった。この国にとって不良物件でしかないキャサリンのことなど。
「あいつは、王太子の事が好きになったんだからな。それを利用して何が悪いんだ」
ホルストは愛を確かめ合っている二人を想ってニヤけていた。それが破滅に向かっているなど想像もしていなかった。事態はホルストが意図したものと違う方向に向かっていた。