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彼女

 ヴィルヘルムにとって「真実の愛」とは自分が好きになって相手も好きになった、相思相愛の状態であった。いま彼が夢中なのはフォレスタル公爵の令嬢ジェーンであった。ジェーンと心も体もつながっていた。不貞行為していたのはヴィルヘルムであった。「元」婚約者のキャサリンは婚約者として貞操を守らされていたというのにである。なのにキャサリンの方が断罪された。


 キャサリンとの婚約破棄を宣言したものの本当は国王の裁可を得ないものなので、宣言そのものが無効だった。そこでヴィルヘルムの取り巻きは恐ろしい事を実行しようとしていた。キャサリンを亡き者にすることを。死んでしまえば誰も異議を挟めないだろうと。


 当初、キャサリンを病死に見せかけて毒殺しようと計画したものの、彼女は宮殿の奥で幽閉されているような状態なので実行できなかった。そこで罪をでっち上げて殺すことになった。哀れなキャサリンは黄泉の国へ旅立ってもらうわけだ。


 「ところで、あの女の始末は?」


 真実の愛の祝杯をあげて酔いが回っていたヴィルヘルムは側近の男に尋ねていた。その男が今回の陰謀の立案者のホルストだ。


 「それですが、いまごろ北の刑場に向かっているところです。処女の血を流すのは不吉な事ですから・・・いまごろ刑吏に可愛がられているところでしょう」


 それはキャサリンが処女を喪失してから処刑されることだろうとヴィルヘルムはほくそ笑んでいた。婚約者とはいえ手さえ握ったこともない女が傷物にされて死ぬことに。もっとも彼女のような強制的に押し付けられた婚約者を抱くつもりなんてなかったし、名前すら覚えようとしなかった。だからいつも「あの女」としか呼んでいなかった。


 「ねえ殿下、そろそろお暇しませんか?」


 ヴィルヘルムの背中から女が抱きついてきた。金髪のかわいらしい愛しい容姿のジェーンだった。


 「そうだな、今日から堂々と君とこうすることも出来るな」


 そういって二人は口付けをかわし抱擁しあった。


 「うれしいわ、わたしも」


 二人は人目も憚ることなくいちゃついていた。それには会場に残っていた者も呆れていた。もっとも二人の仲は噂になっていた。噂を知らなかったのは将来の王妃として教育の為に事実上幽閉されていたキャサリンだけだったといえる。そうされたのも彼女の立場が微妙なものであったためだ。政略結婚の価値が無くなった滅亡した王朝の王女をそのまま放置していた。実のところヴィルヘルムの父である国王も踏み出せなくなっていた。


 「じゃあ、部屋に行くか? 君が正式な婚約者になったらできないからな」


 ヴィルヘルムはジェーンの腰に手を回していた。これからやりたいことを示唆するように。


 「そうですわね。ところで国王陛下は大丈夫なの? 納得しそうもなさそうだけど?」


 ジェーンはそういいながら彼の手を女の子にとって大事なところへといざなっていた。それは何度も逢瀬の時にしてきたことだった。


 「それは大丈夫。俺以外に王位継承者はいないからな。それに立太子も終わっているし、親父はいまさら王位を譲れないなんて言い出せないさ」


 そのときヴィルヘルムの頭の中では来年の春の光景が浮かんでいた。死病に冒された父である国王が崩御し、喪が明けたときに目の前のジェーンと結婚して幸せになれる。真実の恋が成就できる。そう信じていた。ジェーンは妻になってずっと幸福に暮らせるんだと、


 「そうよね、わたしはこの国の伯爵の娘よ! すでに滅んでしまった王国の娘よりも王妃に相応しいわ、絶対!」


 二人は同じ未来予想図を共有して幸福感に浸っていた。そんな未来なんぞ来ることはないのを知らなかった。

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