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歎願

 フラマン王国の事実上最期の政治指導者であったハインリッヒは死刑執行人ないし葬儀委員長と揶揄された。フラマン王国を”円満”に分割割譲する立場を帝国に強制されたためだ。その報酬として帝国はハインリッヒを旧王都付近を領域とする子爵ないし伯爵を下賜するという内示を出してきたが、固辞した。


 その理由はハインリッヒが独身で前妻との間に儲けた男児とも疎遠のためとしたが、実際は帝国による割譲を不満に思う勢力から受けるであろう悪意から逃れるためであった。帝国の意図はハインリッヒを不満の的にするつもりだと分かっていたから。


 「宰相閣下、よろしいのですか? お荷物をニビル村に送って」


 副宰相のオットーは困惑していた。そこはトリニティ王国に割譲される地域にあり、そこに引っ越すと「帝国貴族」としての特権を放棄することになる。帝国の意向に従わなくてもいいが、平民になることを意味していた。


 「構わないさ、あそこは私が生まれた村だ。そこに一軒家を購入した。古くて狭いが老人が余生を過ごすのに十分さ。憧れの晴耕雨読生活に入るのさ。それに今も平民だから、帝国貴族になるつもりはないさ」


 「しかし、閣下。あなたほどの能力はまだまだ必要です。せめて残っていただけないですか?」


 「それは出来ない、これ以上あの帝国宰相の手駒になりたくないさ。彼が望んでいたようにしてやったからな。それで充分だろ」


 帝国宰相のランザロッサを人間としてはハインリッヒは好きだった。家族思いで質素な暮らしを好み、文人として才能があった。しかし政治家としては嫌だった。目的の為なら手段も選ばないし、場合によっては流血を伴う事もした。それらを帝国で長年彼の部下として過ごしていたから嫌というほど知っていた。


 「ところで宰相。元王太子とその恋人は何故死刑にしなかったのですか? 有罪になった場合死刑しかありえない罪を犯しているのですから。それを恩赦で追放刑に減刑だなんて」


 オットーは疑問に思っていた。国王陛下夫妻でもある両親に対する毒殺未遂は、それだけでも弑逆未遂であり尊属殺害未遂という重罪だ。それにキャサリン女王陛下に対する処刑命令は完結しなかったが、様々な法令違反であった。結果、長年続いてきたフラマン王国を滅亡させる破目になった。


 「オットーくん。君はなぜ国家が国民を死刑にする権利を持つか知っているか?」


 「いきなり・・・なぜですか?」


 「それは国民の生与奪権を握ることで、神に勝るとも劣らない存在であるのを思い知らせるためさ。だから、帝国は反乱を理由にフラマン貴族を殺戮したのさ。では、なぜ私があの二人に恩赦を与えるかであるかであるが、これが理由さ」


 そういってハインリッヒは懐から出したのは一通の手紙だった。それはトリニティ王国女王陛下からの公式外交文書であった。


 「歎願されたのさ! あのバカ王子の命は奪わないでくれと! 女王陛下直々に! ついでにいうと、娘の方は好きにしてもいいけど、あのような男と関わった事を悔やむように生かしてくれだってさ」


 「あの・・・彼女が? 処刑を命じた当事者を?」


 「そうさ! でも、その真意は生きる事で苦痛を与えろというわけだ。それにこうも書いていた。”滅亡する国に殉じるような事はないようにしてください。なぜならフラマン王国は地上から消えるから罰する必要はないでしょう。そのかわり、過酷な人生を過ごさせることで罰してください。そうすれば真実の愛とやらで、狂わされてしまった数多くの人々の人生を体験させることになるでしょう” 」


 「女王陛下は出来るだけ苦しんでとおっしゃっている、あのバカ男にさ。私だったら餓死させるか地の果てに置き去りにしたいところだな」


 ハインリッヒは不気味な笑みを浮かべていた。その時、ヴィルヘルムの処遇についてある考えが完成しようとしていた。信じている真実の愛を破壊させ、滅亡しかありえない地に追放させる方法を。

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