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皮肉

 馬車は荒れ果てた旧ヴァイス領から帰途についていた。王都近郊は帝国の領土として編入されるので、フラマン王国の消滅を待たずに、着々と実効支配が行われていた。馬車の窓からジェーンが覗くと人々に活気が溢れ笑顔である事に衝撃を受けた。


 「閣下、何故みんな嬉しそうなのです? この国が滅亡するというのに!」


 「決まっているだろ! 君ら貴族による圧政が除去されたのだからな! 帝国軍は庶民からすれば解放軍なのさ。帝国も専制的な政治体制だが、はるかにましなのさ!」


 フラマン王国の宰相兼摂政の発言とは思えない言葉にジェーンはさらに衝撃を受けた。


 「それって、私たちは・・・嫌われていた?」


 「そうさ! 国王陛下には再々上奏していたんだが、うまくいかなかった。それで帝国の圧力で私が宰相に就任したのだが、全ては手遅れだったのさ。帝国の狙いはフラマン王国の再建ではなく餌食にすることだったから。

 だから、君ら貴族がキャサリン陛下を婚約破棄して処刑しようとしていた動きを見逃していたわけさ。君があのバカ王子に近づいていたのは知っていたが、私は何ら対抗策はとれなかったし」


 「知っておられたのですか? 私はヴィルヘルム様を誘惑していたことを?」


 「ああ、知っていた! 知っていたけど、止められなかった。止めたところで君ら若い二人の恋愛ごっこは終わらないし。それがヴァイス伯ら貴族の狙いだったし」


 「どうして、私を止めてくださらなかったのですか?」


 「止めたところで、反発するだけだろ? それにヴァイス伯らの浅はかな陰謀を止める有効な手段はなかったし。それにキャサリン陛下も関係修復は諦めていたから。元の鞘に戻る事はないから。

 だから、早くキャサリン陛下とバカ息子の婚約を解消したかったんだ。でも、愚挙に出たわけさ。一応はヴァイス伯にそれとなく情報が流れるようにしたが、役に立たなかったわけさ。

 君だって心の底から酔っていたんだろ、婚約者がいる王子との逢瀬を! 恋というのは障害があれば燃え上がるものだし。それを真実の愛なんて思っていたんだろ! 結果は、今の外の光景さ。見方によれば君らは愚かな行為で悪い国を亡ぼした救世主かもな」


 ハインリッヒは皮肉を込めていった。婚約者がいるのに別の令嬢と心身を重ね新たな命さえも授かったヴィルヘルムの行為は滅亡を招いたが、結果として庶民からすればよかった事だと。一般の庶民はこの国の支配層であった貴族が悪の存在だとみなされていたなんてジェーンは唖然としていた。


 「そんな・・・」


 ジェーンはうなだれてしまった。少なくともヴィルヘルムと幸せになる選択肢はもうありえないと思い知らされて。馬車は元の王城へと戻っていった。


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