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求婚

 キャサリンも少女の時は夢があった。一緒に幸せになれる殿方と結ばれることを。でも、それは王族に生まれてしまった以上難しいのは理解していた。もし御伽噺のように自由に恋愛できるなんてありえないからだ。全ては政略による婚姻なのだから。


 それで諦めたうえで婚約したのはヴィルヘルムだ。唯一よかったといえば平凡な少年でも将来は国王になれると運命が決まっていたぐらいだ。それ以外の事にキャサリンは関心はなかった。それは向こうも同じだった。どんなに幼い時から婚約しても心が通ったことはなかった。


 特にフラマン王家がトリニティ王国と同君連合になる話が頓挫して以降は、ヴィルヘルムの両親すら関心が無くなったように思えた。ただ、王妃教育だけはハインリッヒの差配のおかげで充分すぎるほど受ける事が出来たのが救いだった。王妃教育だけが生きがいだった。


 夢の中でキャサリンは彷徨っていた。そこはトリニティ王国の王宮だった。王宮はフラマン王国よりも規模が大きくそれ自体が町のようであったが、人々の姿はなかった。キャサリンはいろんな建物や部屋を探していた。そのとき、何を探しているのか不思議に感じていたら、とある部屋からピアノを奏でる音が聞こえてきた。


 「あの曲は?」


 その演奏は心地よいものであった。いつしかピアノの前でうっとりしていた。その曲を演奏している人を知っていた。今まで唯一恋心なの? とときめいた男だった。たしか、名前はヴィクター様だった。帝国貴族だと聞いていたけど話はあまりしたことはなかった。でも、ものすごく心を揺り動かされた気持ちは覚えていた。ああ、この人ならずっと一緒にいたいと思っていた。その時、夢の世界は静かに消えていった。ああ、なんて悲しいのよ、このまま目が覚めなければいいのに! そうキャサリンは思っていた。



□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ 


 目が覚めたのは教会の一室だった。今まで住んでいた部屋よりもずっと狭かったが、なぜか侍女の数は多かった。服装からするとどうもトリニティ王国の者のようだった。


 「殿下、お目覚めですか? これから謁見の予定がございますから着替えをお願いします」


 侍女に促されるままにドレスに身を包んだがそれにキャサリンは驚いた。これってトリニティ王族の伝統的な衣装ではないのよ! それも正式なもので、胸に勲章までつけられていた。


 「これって、いったい?」


 「殿下にお会いしたいというお方がおられます。久しぶりにお会いできることが光栄だと」


 そういった事いわれても相手が想像できなかった。フラマン王国では家庭教師以外、とにかく王族や貴族すら友人などいなかったキャサリンには見当がつかなかった。キャサリンは教会を出て近くの広場に向かった。そこに天幕がかけられていたが、教会は手狭ということのようだ。


 キャサリンがそこに行くと、目の前で一人の貴公子が待っていた。彼は夢の中でピアノを弾いていた彼だった。彼はヴィクターを名乗りこういった。


 「是非、僕を殿下の王配にしていただけないでしょうか?」


 それが帝国第三皇子の座を捨てキャサリンの王配になるヴィクターとの最初の正式な出会いだった。

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