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初恋

 キャサリンが異性を好きになったのはこの時がはじめてだった。もちろんそれは婚約者がいる彼女にとって浮気であった。だから成就できる可能性は全くなかった。でも、心の中はときめいていた。


 真っ黒な喪服に黒いヴェールが周囲から彼女がよからぬ想いをしているのは隠してくれていた。演奏が終わり演奏者たちが観客席に挨拶してきた。彼らは文化水準が高いトリニティ王国の音楽学校の生徒などであった。このような演奏会はフラマン王国では見られないものである。キャサリンの気持ちは高揚していた。


 演奏会がおわり、各国の王族による細やかな昼食会が行われた。その場にはヴィルヘルムはいなかった。両親はお腹の調子が悪くてお休みしていうといったがウソだった。トリニティ王国の王都に出かけたまま帰ってこなかったのだ。


 あとで、このウソがばれたため将来的にトリニティ王国を任せる事が難しいという事で、経過措置として隣国のキャサリンの叔父が国王を兼務することになった。それを勘違いしたヴィルヘルムはキャサリンとさらに大きな溝を作ったのは別の話である。


 その昼食会には演奏した奏者の何人かと指揮者が招かれていたが、その中にあのピアノ弾きがいた。その男は身長も高く身体ががっちりしていて騎士のようにたくましかった。そんな武人のような彼が奏でるピアノは神が奏でる音楽であった。その彼が目の前にいると思うだけでキャサリンはドキドキしていた。


 ああ、これが初恋なの? 胸が苦しいってこのことなんだと、感情を押さえていた。いくら振り向いてくれず名前すら答えてくれないでも婚約者がいる、その使命感という名の重圧に抑え込まれていた。


 「この度はわたしの家族の為に素晴らしい演奏をしていただきありがとうございます」


 そのピアノ弾きに対しドキドキしながらキャサリンはあいさつした。そのあとあまりにドキドキしていたので彼と何を離したのかよく覚えていない。でも、もし許されるのなら付き合いたかった。でも、それは許されないと分かりきったことであった。


 「またお会いできますか? あなたの演奏をもっと聞きたいわ」


 「神様がお許しになったらきっと会えると思います。その時までお元気で」


 それが彼とかわした最後の言葉だ。でもキャサリンにとってその時間がそれまでの経験で一番輝いていた。その光景を何度もキャサリンは思い出していた。

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