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破棄

 とある物語で生まれた時から王妃になるために教育された娘ではなく、異国の町にすむ娘と真実の恋に落ちたいと所望し実現したというものがあった。これはコメディであるので深刻に考えるものではないが、捨てられた娘は気の毒だったといえる。


 それはともかく、王妃になるために厳しい教育に耐えてきたのに、捨てられてしまったら、きっと誰もが捨てた男に言うであろう、ろくでなしと!


 キャサリンは虫の知らせを受けていた。これから起きることに。その日は建国記念祭という王国にとって重要な行事であったが、エスコートしてくれるはずの婚約者がいなかったためだ。いや、エスコートなど真面にしてくれたことはなかった。ただ義務感で惰性でしていた。それは愛情の冷めた夫婦の方がずっとましだと思うぐらい、形式的なものだった。前のパーティーの時などは入場してから行方をくらましてしまい、どうも他の女とおしゃべりしていたようだ。婚約者の頭にキャサリンなどない様子だった。


 キャサリンは溜息をついた。七歳で婚約者とされ、両親から引き離され異国だった王室にやってきて十年もの間、お妃教育を受けてきた。最早、帰るべき実家もなくなっていた。一方の婚約者は二歳年上のヴィルヘルムであるが、第一印象など覚えていないぐらいキャサリンのことはどうでもいいと思っている様だった。彼からすればキャサリンはお飾りだった。


 実はキャサリンの実家だった隣国の王室は断絶していた。両親が他界した時に男子がいなかったためだ。その王室は伝統的に嫡子で男系男子しか国王になれないので、キャサリンが即位する可能性はなかった。また隣国は別の国の国王が兼務しているので、キャサリンの地位は低下する一方だった。


 「王太子婚約者キャサリン様、ご入場」


 会場に入った時、参加者からはこれといった反応はなかった。王太子が婚約者をエスコートしないのは常態化していたためだ。いつものことだということだ。でも後ろから王太子ヴィルヘルムが別の女性をエスコートして入場した時には、ざわめいでいた。それが意味するのはキャサリンにはわかっていた。


 ヴィルヘルムが会場の中央に到着すると、高らかに宣言した。


 「私は横にいるフォレスタル公爵令嬢と婚約する! また現在の婚約者とは婚約を破棄する!」


 キャサリンは溜息をついた。婚約を破棄するのなら名前でいってほしかったと。もしかするとヴィルヘルムの頭の中には名前すら忘れて消えているのかもしれなかった。

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