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鬼将軍冒険譚  作者: 寿
9/25

アラスカ編 第ニ話

東へ東へ。

私たちのクルーザーは荒波を越えてアリューシャン列島に入った。

するとまたも片言の日本語で無線が入った。


「こちらはアメリカ海軍アリューシャン列島防衛隊、貴君はニッポンの鬼将軍か?」


私は英語で応える。


「その通り、こちらはニッポンのミチノック・コーポレーション総裁、鬼将軍の所持するピラール号だ」


アメリカ海軍は友好的な姿勢であった。


「ようこそ閣下、アメリカ合衆国を代表して閣下を歓迎します。なにか御入り用はございませんかな?」


鬼将軍がやってきた。

私からマイクと取ると、こちらも流暢な英語で答えた。


「貴官の友情に感謝する。燃料用のガソリンを融通していただきたい。それと……」


鬼将軍は私に目配せしてきた。


「閣下のデスクの側で休んでいる、バーボンウイスキーを一本所望したい」


「もうシーズンですから、ターキーなども添えましょうか?」


「ありがたい、頂こう」


しばらくすると日本製の魚群探知機に巨大な船舶の影が映し出された。

原子力潜水艦だ。

巨鯨のような姿が、海を割って現れる。


潜水艦は静かに浮上した積りであろうが、トレジャーボートのこちらは揺らされに揺らされまくった。

まさに上を下への大騒ぎである。

しかし潜水艦は甲板作業員を並べて、整然と作業を開始していた。


まずは重りのついたロープがピラール号に投げ込まれる。

私は素早くそのロープを船に結わえた。

そのロープをガイドとして、給油ホースが送り込まれる。


給油口にはすでに鬼将軍が待っていた。

私の仕事はそこまで給油口ホースを運ぶことである。

荒波の揺れる甲板キャビンの上をだ。


給油ホースを返納すると、今度はクーラーボックスが送り込まれる。

中身はターキーの丸焼きだろう。

受け取ったクーラーボックスに私はキスをした。


そしてお次は、バスケットに入れられたバーボンウイスキーである。

鬼将軍はこちらにキスをして受け取った。


潜水艦は静々と、私たちを刺激しないように去っていった。

信号旗には「航海の無事を祈る」とあった。

鬼将軍は手旗で返す。星条旗よ永遠なれ、と。


海の男たちが交わす尊敬と友情、そして畏敬。

その現場を目の当たりにして、私は心暖まる思いであった。


「キャプテン、先にターキーを頂きたまえ。私が舵を執ろう」


「よろしいのですか? では遠慮なく」


先に熱々のターキーと、バーボンウイスキーにありついて良いというのは、私が信頼されるべき案内人シェルパと認められた証だ。

私は決して食べすぎず飲みすぎず、最高の部位は主のために取っておく。


そうした信頼がなければ、このようには言われない。

そしてクーラーボックスを開けると、グリルで調理したアメリカ海軍自慢のターキーが、匂いだけでご飯三杯いける香りを発した。

ショットグラスでバーボンウイスキーをチビと頂き、ターキーも少々頂いた。

あとの空腹はビスケットでごまかす。


「閣下、御食事をどうぞ」


「もういいのかね、キャプテン?」


「この揺れの中でグリル料理のターキーとバーボンウイスキーを楽しめる奴は海のタフガイだけですよ」


「あまり食事を楽しめなかったようだね。君の分は私が存分に楽しませてもらうよ?」


「どうぞどうぞ、閣下のための冒険旅行ですから」


鬼将軍は下のランチルームへ降りて行った。

これでいい。

冒険旅行は私のためのものではない。


依頼人クライアントが満足する旅を演出するのが、私の仕事なのだ。

本来ならば不眠不休で舵を執らされ、依頼人は高いびきというのが普通である。

しかし鬼将軍という男は違う。


単なる金持ちの道楽旅行ではない。

だから私もプロフェッショナルとして、最大の敬意を払っている。

夜間航行。


いよいよベーリング海に突入だ。

海は波という牙を剥き、雲が風を呼び風は嵐を巻き起こした。

舵は私、スロットルの調整は鬼将軍。


私たちはツーマンセルの芸術的なコンビネーションで、危険な波を次々とクリアして行った。

しかしついに、それだけでは済まされないアクシデントに見舞われたのだ。

ひときわ大きな波をクリアしてホッと一息ついているピラール号に、信じられないほど巨大なタコの脚が巻き付いてきたのだ!


鬼将軍は駆け出した、レミントンM870のショットガンを手に。

鹿熊用の専用弾バックショットを飲み込ませて、ショット! &スライド、さらにショット!


深手を負ったタコ脚は、ピラール号から離れていった。

しかし巨大蛸クラーケンはしぶとい。

別な脚を巻き付けてきた。


それもまた、鬼将軍のショットガンによって撃退できた。

だが巨大蛸クラーケンなどよりも厄介な奴が現れる。

歌声だ。


この荒波と暴風雨の中で歌声が聞こえてきたのだ。

いわゆるセイレーン。

船を沈める歌声。


これまでさまざまな冒険を制覇してきた私も、さすがに恐怖した。


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