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鬼将軍冒険譚  作者: 寿
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アフリカ編 第四話

いかに日本のスーパーカブがすぐれていようとも、アフリカの未舗装ダートを二人乗りで走るのには適していない。

もちろんできない訳ではない。

未舗装道路の多い東南アジア諸国では、そのような人数で乗り込むことは想定していないという情け容赦のない大人数を搭載したスーパーカブが走り回っている。


しかしそれではアンジェリカが可愛そうだ、ということで彼女はランドクルーザーの助手席に座っている。

時折アフリカの日差しにうたた寝をしながらだ。

そして市街地の舗装道路に来ると、鬼将軍はアンジェリカを荷台に乗せる。


「これでジェラートのひとつもあれば、ローマの休日ならぬアフリカの休日なのだがな」


アンジェリカを後ろに乗せた鬼将軍はたいそうゴキゲンであった。

軽快に町中をクルージングする。

私としては気が気ではなかった。


なにしろ美少女がロリコンと二人乗タンデムりしているのだ。

このまま人波に紛れて、アンジェリカを誘拐するのではないかという疑いがあったのである。

しかし鬼将軍は、この日はとても紳士的であった。


私のランドクルーザーから着かず離れず、一定の距離を保って走行している。

しかし、平和な時間というものは、この紛争地帯では長続きしないものだ。

鬼将軍の目の前を、何かが横切った。


そして建物が爆発する。

ロケットランチャーとかバズーカ砲とかいうものである。

幸いスーパーカブは爆風を浴びることは無かった。


しかし鬼将軍はバイクを停めた。

その眼差しが怒りに燃えている。

弾の飛んできた方向に目をやると、銃を担いだ戦闘服の集団が建物の上に並んでいた。


「ぐははははっ! 我々はK国盗賊団、パクリかっぱらい捏造はお手の物。世界の嫌われ者だ!」


「おのれ、アジアの面汚しめ!」


鬼将軍は眼鏡を外し、スーツの胸ポケットに引っ掛けた。

その腕にアンジェリカがすがりつく。


「いや、やめておじさま! 私はアフリカの星のために人が争うのを見るのは、もう嫌なの!」


鬼将軍は蜂蜜色の髪を撫でてあげる。

そして力強い眼差しで言った。


「いいかい、アンジェリカ。人と人が争うのは、君がアフリカの星だからじゃない。人間が平和と安全を掴み取るには、ときに戦わなければならないからだ!

しあわせというものは、神さまやアフリカの星が授けてくれるものではない。人間が努力をして、ときに戦って、そうして掴み取らなければならないのだ」


一見いいことを言っているように聞こえるが、要約するとこれからアジアの面汚しどもをシバキに行くと宣言しているのだ。


行ってくる……そう言い残すと、鬼将軍は駆け出した。

正義の魂、男の浪漫。

そして邪な下心を胸に抱いて。


依頼主を行かせて、私が茶を飲んでいる訳にはいかない。

アンジェリカをランドクルーザーに乗せると外からドアをロックする。

久しぶりの大暴れだ。

私も少し派手にやらせていただく。


戦闘員たちが車と私を取り囲んだ。

銃を向けてくる。

しかし引き金は引けまい、同士討ちになるからだ。


「あ! あれはなんだ!?」


指を差すと戦闘員たちは一斉に気を取られた。

その隙に間合いを詰めて、スペシャル・ブローをお見舞いする。


「フジオカ・ロケット!」


鬼将軍が柔道の投げ技で人間を打ち上げるなら、私はスペシャル・スマッシュだ。

右アッパーを食らわせると、戦闘員はキリモミしながら打ち上げられた。


「スーパースマッシュ!」


今度は地面と水平に人間が飛んでゆく。

そして鬼将軍も奮戦しているのだろう。

建物の屋根から人間が一直線に地面へと飛んできて、突き刺さる。


「札束チョーーップ!」


鬼将軍の声とともに、敵の戦闘員がやはり一直線に飛んできて、こちらは建物の壁に突き刺さった。

まるで昭和を彩るコミックスの傑作「暴力大将」や「熱笑‼ 花沢高校」といったどおくまん先生の作品である。

実際、その迫力あふれる乱闘シーンのように、次から次へと戦闘員が涌いて出てきたのである。


しかし私も冒険家のはしくれ。

美少女を守って奮戦することには浪漫を感じる。

そして熱い正義の心が燃え上がる。


「拳に愛を! 心に正義を! そして戦うはひとつ、浪漫のために! とうっ!」


この日は祭りでもないのに、アフリカの空で人間が花火のように打ち上げられていた。

そしてヤツは建物の屋上、ポンチョをひるがえして高らかに笑う!


「私の名は鬼将軍! ニッポンから来た戦う起業家だっ! ハーッハッハッハッ!」


馬鹿なのだが、様になっている。

口惜しいくらいに格好いい。

大人が一生懸命に働いて、その金を馬鹿なことに使う。


それでいい。

それでこそ人は光り輝くのだ。

……鬼将軍、お前がまぶしいぜ!


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