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鬼将軍冒険譚  作者: 寿
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アフリカ編 第三話

とにかくアフリカ大陸は広い。

前へ、前へ。

進まなくてはゴールできない、それがアフリカ大陸である。


無事にサバンナを抜けた私たちは、民族紛争の激戦区中央アフリカのビジャール国に入った。

この国はまだ安全な方で、言語や金銭が通じるからである。

もちろん依頼主である鬼将軍は最激戦区の突破を希望していた。


しかしこの男がそんな場所を通過したら、世界のパワーバランスが崩れかねない。

地元の紛争は地元民が解決すべき、というのが私の方針だ。

第三者が首をはさむべきではない。


ということでビジャールの首都、ボア。

ここで給油していると、店番の年寄りが面白い話をしてくれた。

アフリカの星という娘の話である。


天地宇宙万物の真理を司る神がいた。

神は地上の穢れを嘆いていた。

犯罪、不正、争い。


それらすべてを浄化するために、アフリカの星という娘を使わしたそうだ。

アフリカの星は飢えや貧困から人々を救い、アフリカの大地に緑をもたらしたそうだ。

しかし愚かな人間たちは、今度はアフリカの星を巡って争い始め、神はますます嘆いたそうだ。


「なるほど……」


冷えたコークを飲みながら、鬼将軍は呟いた。


「やはり世界は、この私が統べねばならないようだな……」


そして不味いホットドッグにかぶりつく。


「そしてアフリカの星と呼ばれる娘を、この胸にかき抱くのだ!」


……もしかするとこの男、アフリカの星を娘だから欲しているのだろうか?

そのために世界統一とかホザいているのではなかろうか?

いや、世界統一の暁には、「世界の美少女は私のものだ」とか考えているのではないだろうか?


疑念に捕らわれていると、ブロンドの娘が目の前を駆けていった。

大きな赤いリボンに赤いスカート。

白い長袖に青いベスト。


足元は革長靴ブーツである。

そしてあどけなさの残る低い鼻の、白人娘である。

それを追いかける軍用ジープ。

銃を担いだ地元兵士が満載である。


鬼将軍はスーパーカブのスターターをキックした。

猛烈な加速で原付バイクが走り出す。


「ゆくぞ! フジオカ隊長!」


私も代金を投げつけて、ランドクルーザーを走らせる。

正義と男の魂が乗り移ったか、ランドクルーザーが時速一〇〇キロメートルを出しても、鬼将軍のスーパーカブに追いつかない。


そしてスーパーカブは、私より先に軍用ジープに追いついた。

鬼将軍はスーパーカブを乗り捨てて、敵陣に飛び込んだ。

主を失ったスーパーカブだが、それでもジープと並走している。


これがジャパンのテクノロジーだ。

例え無機質の塊であろうともすべてのものに魂が宿るという森羅万象の思想を持つ、日本だからこそ可能な技術なのである。


そしてジープの荷台から、地元兵士が打ち上げられた。

日本柔道の必殺技「竜巻投げ」が炸裂したのだ。

続いて「浅間山天命三年大噴火」、そして「ヤマアラシ三段投げ」。


鬼将軍による日本柔道の大技がオンパレードで炸裂していた。

男の魂、そして正義の心を前にして、地元兵士たちは次々とロケットのようにキリモミしながら打ち上げられてゆく。

その隙に、私は白人少女を片手運転ですくい上げた。


もちろんこんなテクニックも、男の魂と正義の心が無くてはなし得ない技だ。

私は羽のように軽い娘の身体を助手席に座らせる。


「もう心配はいらないよ、怖いオジサンたちは私とあの男がやっつけたからね」


ルームミラーの中で、軍用ジープが爆発するのが見えた。

そして鬼将軍のまたがったスーパーカブが追いかけてくるのも。

私はアクセルから足を離し、スピードをゆるめた。


「ありがとうございます、あの……お名前を」


「私はフジオカ、ニッポン人の冒険家だ。そして後ろかっら来るのが……」


鬼将軍が追いついた。

窓越しに名乗りを上げる。


「私の名は鬼将軍! ニッポンの大起業家だ!」


しかしよそ見運転をしていたので、穴ボコにつまづいてバイクごと前転してしまった。






とりあえず、車を停めて魔法瓶から熱いコーヒーを注いでやる。


「お嬢さん、お名前は?」


鬼将軍が訊いた。


「アンジェリカ。おじさま方はどうして私を助けてくれたの?」


「美少女を悪の手から救い出すのは、冒険家の務めだからな」


私が答えた。


「……ですが、私は救われてはいけない娘。世に争いをもたらす、アフリカの星だから」


「アフリカの星だから救われてはいけないというのかね?」


紙コップのコーヒー片手に、鬼将軍が言う。

厳しい表情だ。

アンジェリカはうなずいた。


「それは違うな」


鬼将軍はアンジェリカの意見を真っ向から否定する。

そして、正論にしてろくでもないことを言い出した。


「世の美少女が救われることを拒んだならば、私たち冒険家の浪漫がなくなってしまうではないか! 美少女の微笑みは黄金の財宝にも勝る、世界の宝なのだぞ!」


先程の疑念が、私の胸によみがえった。

そうだ、私の依頼主がロリコンなのではないか? という疑念だ。

そしていまでは、それが確信に変わっていた。


「でもでも!」


アンジェリカは食い下がる。


「私のためにおじさまたちが危険な目に遭うだなんて、耐えられないわ!」


「危険な目に遭うのが嫌なら……」


私はコーヒーをすすって言う。


「冒険家になんてなっていないさ」


そして紙コップを置いた。

傍らの双眼鏡を手に取る。

ヘリだ。

保安官事務所のものではない、武装している。


「武装ヘリがこちらへ……総裁、どうします?」


「美少女との語らいを邪魔するとは、無粋な連中だ」


面倒臭そうに立ち上がる。

そしてローター音のする方角に顔を向けた。

インテリ臭さが鼻につくが、美男である。


その眼鏡が発光し、レンズの中央に光が集まった。

そして謎の怪光線となり発射される。

武装ヘリは爆発、炎上、墜落した。


「フッ……口ほどにも無い……」


「さすが総裁、お強いですな」


私は賛辞を贈ったが、アンジェリカなどは目を丸くして驚いている。

どうやら日本の起業家を見るのは初めてらしい。

生馬の目を抜くような日本経済界。


そこで生き延びるには、この程度の芸当はできなければならない。

その程度の常識でしかないのだが、幼い少女には刺激が強かったようだ。

しかし何事も無かったかのように鬼将軍は振り向く。


「さて、レディ・アンジェリカ。私たちには君を安全な場所まで送り届ける義務がある。どちらへ送るべきかな?」


両親、あるいは親戚のところ。

私はそんな回答を予想していた。


「どこまでも、遠くへ……争いの無い場所へ」


少女は答えた。

鬼将軍の瞳が邪に輝く。

私は先を制して言う。


「総裁、アンジェリカの希望は、総裁の腕の中ではありませんので。抱き締めないように」


悪の化身は唇を尖らせて背中を向けた。


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