マチュピチュ編 第ニ話
さて、祭りの始まりだ。
会場正面のステージで、楽団がファンファーレを奏でる。
MC……マスター・オブ・セレモニーつまり興行の支配人がマイクを握る。
「世界のみなさん、ようこそマチュピチュ村へ! これより天の祈り手コンテストを開催いたします!」
会場は大歓声、拍手も沸き起こった。
「メインイベントに先立ちまして、まずは有志によります『男子 ミス・マチュピチュコンテスト』を行います!」
「フジオカ隊長……ミス・マチュピチュというのに、男子と冠されているとは、これ如何に?」
「さあ、心当たりがありませんなぁ……」
そんなことを言っていると、トップバッターが紹介された。
ストレートの黒髪に黒い瞳、しかし日本のセーラー服を着ているあたりが「なんだかなぁ」である。
そしてMCによる紹介だ。
「トップバッターはクスコから参加してくれた、ホセ・チャベスくん11歳です! ホセくん、よく来たね」
ホセ・チャベスくん? つまりこれはまさしく男子?
「……フジオカ隊長、私はいま猛烈にイヤな予感がしているのだが……」
「奇遇ですな閣下、私もです」
つまりこれは男子による女装コンテストなのではないか?
それも女子セーラー服を着ているということは、まさか……日本の悪い影響?
イヤな予感が現実となったのは、三人目の参加者、佐々木真くんが紹介されたときだった。
「ミス・マコト! きみは昨年のプリンセスだったね?」
「はい、ペルーにも可愛らしい男の娘文化が根付いて大変に嬉しいです!」
アホたれが! なんつー文化を輸出しとんじゃい!
男の怒りが一瞬燃え上がってしまったが、マコトくんの可憐な姿に士気を挫かれてしまう。
そして鬼将軍もまた、複雑ビミョーな顔をしていた。
「フジオカ隊長……」
「みなまで申さずともわかっております」
「可憐な姿を堪能させてもらっているが、しかし! 彼らはみんなツイてるんだよな?」
「閣下の心中、察して余りあります」
「実に複雑な心境だよ……」
セレモニーは進み、優勝者が決定した。
なんともまぁ複雑なことに、今年のプリンセスもまた日本の佐々木真くんに決定してしまったのだ。
たのむ日本、我が祖国よ。
これ以上海外におかしな文化を撒き散らさないでくれないか。
そうでなければ私はもう、海外で日本人だと名乗ることができなくなってしまう。
しかしMCが「天の祈り手決定戦」を告げると、憂いは頭から霧散した。
セレモニーを華やかに彩るファンファーレが、前座以上に鳴り響いた。
「赤コーナーより、ランキング1位。マリアさんの入場です!」
おい、どこのボクシング試合だよ、というツッコミは無粋なだけだ。
観客は喜んでいる、それでいいじゃないか。
マリアという娘は華やかというかヒラヒラのたっぷりとついた豪華なドレスで入場。
地元の顔役のような男がその手を引いている。
どうやらマリアの父親でマヌロスという男らしい。
観客たちのささやきでそれが知れた。
しかも評判は悪い。
悪どく儲けている男のようだ。
そして青コーナーからはエリーという娘がコールされる。
こちらはいささか地味ではあるが、ミッション系の制服姿。ニットのベストに校章の入ったネクタイ。
チェックのミニスカートに黒いハイソックスという、真面目を絵に描いたような娘だ。
鬼将軍はこちらのエリーを贔屓にしたようだ。
拳を突き上げて声援を送っている。
ここで事前に行われた投票結果の発表である。
なんと、両者同点。
そこで会場の拍手で決定戦を行うという。
まずはマリア、まずまずといった拍手だ。
そしてエリー。
こちらはブッチギリの拍手である。
しかし、あろうことか、MCはマリアを勝者としてコールしたのだ。
当然観客はブーイング、鬼将軍の身体にも怒りの炎のようなエフェクトが発生している。
しかし愚かなことにマヌエルは群衆を懐から抜き出した拳銃で制しようとしたのだ。
空に向かって威嚇射撃を一発。
それがゴングとなった。