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鬼将軍冒険譚  作者: 寿
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アフリカ編 第一話

男は男らしく、女は女らしく。

そんな当たり前のことがセクハラと言われるようになって、どのくらい経つだろう?

しかし私は、やはり男は男であるべきだと思い、女は女であるべきだと思う。


それと同じことを今回の依頼主クライアントは正面切って訴えてきた。

私は問う。

では男が男らしくあるためにはどうすればいいのか、と。


依頼主は答える。

至極自然に当たり前であるかのように。


「簡単だよキミぃ、女たちには理解できないことをすればいいのさ」


「それは? 具体的にどういうことをするのですか?」


「そうさなぁ……よし! アフリカへ飛ぶか!」


「何をしに⁉ どのような目的で!」


「そうだな、スーパーカブでアフリカ大陸を横断するか!」


「だからどんな目的なのか! それを教えてくれ!」


すると依頼主クライアントは言った。

理解などはちっとも求めない、孤高の眼差しで。


隊長コマンダーフジオカ、行動に目的を求めるのは男らしくない……」


こうして私と依頼主、鬼将軍と名乗る男との旅が始まった。

私は隊長コマンダーフジオカ。

世界を旅する冒険家だ。

その腕を見込まれて、奇妙な日本起業家、鬼将軍の案内人シェルパを務めることとなった。


私たちはイタリアから船に乗りアフリカ大陸を目指した。

ミラノで調達した原動機付自転車、スーパーカブを運ぶには海路が適していたからだ。

そして私が運転するランドクルーザーもだ。


ランドクルーザーにはスーパーカブを修理するための工具、道中消費するガソリン。

それに食料とキャンプ道具が満載されていた。

もしかすると満載した燃料の大半は、この自動車が消費するのではないかという、大変に無駄な旅である。


しかし君よ、それを無駄と言うなかれ。

この無駄こそが、女には理解できないことなのだから。

アフリカ大陸の入り口サヌビバ共和国に上陸した私たちは、早速地図を購入した。


そしてそこに描かれたアフリカ大陸の広さに、早くもウンザリとする。


総裁フューラー、今回の旅は困難に満ちあふれ過ぎてます。間違ってもキリマンジャロを制覇したいとか、寄り道は希望しないでください」


「ダメかね?」


鬼将軍はいつの間にか背負っていた、登山用のリュックを残念そうに下ろした。


「ダメです、確実に死にます。見てください」


私は地図を指差した。

インテリ眼鏡の日本人は、私の指差した地点を見つめる。


「この街を出たら、すぐに大平原サバンナ獅子ライオンや巨象があふれる野獣の王国です。とくに恐ろしいのがカバです。愛嬌のある姿をしていながらどうして、奴らは凶暴です」


「なるほど、スペクタクルだな」


「その向こうには紛争地帯、ここは強行突破しなくてはなりません」


「血わき肉踊るというところだ」


「そしてメインイベントとして二〇〇キロを超える砂漠地帯。これだけ盛りだくさんなら、キリマンジャロを制覇している暇はありません」


「うむ、具だくさんだな」


「御理解いただけて何よりです」


「それで、隊長?」


「なんでしょうか、総裁フューラー?」


「キリマンジャロの制覇は何日目の予定かね?」


「だから寄らねぇっつってんだろーが! リュックを背負い直すな、降ろせ! いますぐにだ!」


私たちはサヌビバの首都、ゴスカスのカフェテリアで旅の打ち合わせをしていた。

すると地元のウェイターが私たちの会話に興味を持ったようで、親しげに近づいてくる。


「お客さん方、ニホンジン? 観光かい?」


「いや、こちらの大企業の会長さんの道楽でね、大冒険に出かけるところさ」


私は現地の言葉で答えた。

すると鬼将軍も現地の言葉で話す。


「日本の原動機付自転車で、このアフリカ大陸を横断するのさ」


「え? なんのために?」


「私たちが、男だからだ」


「そして男であるためにだ」


同調するように、私も答えた。

そう、二人きりならば頭がクラクラくるようなこの男の理論も、第三者をはさめば理解できるようになるのである。


「危険だよ、やめておきなよ。アフリカにはカバもワニもいるし、銃を持った怖い連中もいるんだよ」


親身になって忠告してくれる。

このウェイターはほんとうにイイ男のようだ。

しかし、私は彼の肩をガッシリ掴んで、真正面から目を見て言う。


「だから行くんだよ!」


「そうだ、そして西海岸に沈む夕日を眺めながら、一本の煙草を吸うのだ」


「そのために行くんだよ!」


ヤレヤレ、といった感じでウェイターは首を横に振った。

まるで、言い出したら聞かない亭主の相手をする女房のようにだ。

そう、私たちの行為を理解できないというその仕草は、女のようであった。


「では総裁、行きましょうか」


「うむ、このコーヒーが最期の一杯になるかもしれんな」


そう言って、男はカップの中で冷めてしまったコーヒーを飲み干した。

鬼将軍がヘルメットをかぶり、スーパーカブにまたがるのを見届けてから、私もランドクルーザーに乗り込む。

車内の空気は揮発したガソリンの臭いで充満していた。


すぐさま窓を全開にして空気を入れ替える。

そうしないと頭が痛くなりそうだったからだ。

キック一発、鬼将軍はエンジンをよみがえらせる。

大冒険のはじまりだ。


悠々と走り出すスーパーカブの後ろについて、私もランドクルーザーを走らせる。車間距離は十分に開けておく。

時速は日本の法律に従った三〇キロメートル。

というか、すぐにアスファルトが消えて未舗装ダートになってしまったので、世界の名車スーパーカブとてそれ以上の速度が出せないのだ。


読者諸君はポニーエクスプレスをご存知だろうか?

西部開拓史を彩る超高速郵便機関だ。

それはロングライダーと呼ばれる馬乗りたちが手紙や現金をはこんでいたのだが、その平均時速が丁度三〇キロメートルだったそうだ。


そのことを無線で鬼将軍に伝える。

彼は機嫌よい返事をくれた。


「それでは私たちはアフリカ開拓史を彩っているかのようだな」


「そのような発言をしていると、『彼らは未開の野蛮人ではない!』とか騒ぎ出す連中が涌いて出て来ますよ?」


「そんな連中がいたらこの大平原サバンナに連れて来たまえ!

どうせ家の中でペーパーヴィューを観ながらコークとポテトチップスを楽しむしかできない連中だろう! コヨーテと一緒に説教してくれるわ!」


大変に気が大きくなっている。

そして上機嫌だ。

そうさせてくれる何かが、このサバンナにはあるのだ。


ハロー、大自然!

HOWDY、サバンナ!

私まですっかりゴキゲンになってしまった。


すると鬼将軍はスーパーカブを停めた。

ここは大平原である。

信号機や一時停止の標識も無いのにだ。


「フジオカ隊長、せっかく大平原をのし歩いているのだ。少し気分を出したいな」


なるほど、そういうことか。

奴は無粋なヘルメットを脱いだ。

私はツバも巨大なカウボーイハットを、後部座席から取り出す。


そしてポンチョもだ。

もうひと工夫欲しい。

依頼主クライアントからのリクエストだ。


私は銃ケースをスーパーカブにくくりつけ、そこにレバーアクションのライフル銃を差し込んだ。


「完璧だな、フジオカ隊長!」


「では私もご相伴について……」


同じくカウボーイハットにポンチョを身につける。

しかし助手席に置いたライフル銃はホーランド&ホーランドの水平ニ連銃。

ダブルライフルと呼ばれる、巨象をも撃ち倒す銃である。


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