上
上下で完結済みです!
よろしくお願いします(*^^*)
世界の最悪となる魔王が倒された。
荒れた世界は沢山の傷跡が残り、それでも人々は希望をむねにゆっくりと生活を取り戻していく。
王都に近い街や村から、王族が主体となって治安維持や整備が行われ世界は復興していった。
しかし、私が住む最果ての街はなかなか復興が進まず、まだまだ荒れているエリアだ。
路頭に迷う人々、暴力が征する、治安が悪く暗く淀んだ街。
そんな街で暮らす私は、幼い頃魔物に家族を襲われ、私だけ生き残った。
その後孤児となり奴隷商に捕まり売り飛ばされ、この街に連れてこられ強制労働させられてた。
魔王が倒され、王国の機関が正常に動き出してから、奴隷制度が廃止となり半年前に解放はされたけど、行くところもないし、食べるために働かなくてはいけない。
でも、元奴隷なんて雇ってくれるところはそうそうなかった。
ぐぅ~
低く空気を揺らすお腹の音が響く。
「あぁ…はらへった…」
私はもう3日間、まともに食べてない。
川の水を飲み、雑草と木の実で何とかしのいでいるが、そろそろ限界だ。
奴隷の頃は一日一食、質素だけど食べれたが、国が奴隷解放させてから2ヶ月、たまに配給がある時以外はまともにご飯にありつけていない。
元奴隷仲間は犯罪に走る奴もいれば、カラダを売って何とか生きている奴もいる。
勿論、もうこの世にいない奴も。
「このまま、私も死んじゃうのかな…」
スラムの片隅でしゃがみこみ、私は大きくため息をついた。
近くの家の窓ガラスに映る私はボロ布をまとって痩せ細って薄汚れている。
こんな身なりじゃ、どこも嫌がって雇ってはくれないだろう。
お先真っ暗…
とりあえず、何か食べないと本当に死んでしまうので、私は市場や食べ物のお店があるところでゴミを漁ることにした。
街の表市場には、楽しそうに笑顔で生活をしている人々がいる。
魔王との戦いが終わって、ある程度の富裕層は元の生活を取り戻しつつあるようだ。
私はそんな表市場に憧れながら、裏スラムでひっそりと生活をしている。
裏スラムは汚れた環境に暴力が横行して、孤児や元奴隷、犯罪者、娼婦など様々な下層民が集まっている。
フラフラしながらゴミを漁っていると、たまたま果物屋の前を通りかかった。
その時、裕福そうな子供がはしゃいで走って果物屋の果物に少しぶつかり走り去って行った。
当たった拍子で、棚から数個果物が転げ落ちたので、私は親切心で拾ってあげた時、奥に行ってた店員が血相を変えて走って来る。
「こら!!泥棒か!!」
「え?」
「果物盗もうとしやがって!!この!!」
嫌な目付きで睨みつける果物屋の店員は店に置いてあった護身用の木の棒を掴み私に振りかざした。
私はただ、落ちた果物を拾っただけなのに…
棒で殴られる衝撃を覚悟して両手を頭の上に構えた。
しかし、いつまでも衝撃が来ないので、恐る恐る顔をあげると果物屋の店員が振りかざした棒をフード付マントをかぶった人が片手で抑えている。
その人はフードを下ろして顔を見せて果物屋の店員に笑顔を向けた。
フードの中から現れた顔はそこそこオジサンでブラウンの髪色が印象的だった。
「この子は棚から落ちた果物を親切で拾ってあげてただけですよ。わたしは見てました。そこの貴方も見てましたよね?」
そう近くで様子を見ていた野次馬のひとりにオジサンは話しかけると野次馬は頷いていた。
果物屋の店員は半信半疑だったが、振り上げた棒を下ろしてばつの悪い顔をした。
「そ、そんな汚い姿で、店に近づくな!それやるから、どこか行ってくれ」
私は手に持っていた赤い大きな果実をもらった。
久々の食べ物に感動して、頭を深く下げて誰かにとられないように走ってその場を離れた。
どこで食べよう。
そうだ、川の近くに行こう!
表市場を抜けて川にたどり着くと川水で果物を洗ってがぶりとかぶりついた。
口の中に甘い果汁が広がり、私は夢中で芯や種まで食べた。
「ぅんめーーー、あーもう無くなった…」
果物の果汁があるついた手をペロペロなめて名残惜しそうにしていると、さっき助けてくれたオジサンが側までやって来て、少し呆れた表情をしていた。
「そんなにお腹すいていたのか…」
「…悪いかよ」
「いや、別に」
「オジサン、さっきはありがと。おかげて食べ物にもありつけたし」
オジサンはジッと観察するように私を見ていた。
ちょっと気持ち悪くなって、私が眉間にシワを寄せるとオジサンはハッと気がつき愛想笑いを浮かべた。
「キミ、名前は?」
「私?ユナだけど。」
「ユナ、首に跡があるってことは元奴隷?」
私は首元を手でさすった。
奴隷の時につけていた首枷の跡がまだ残っているのだ。
「そうだよ」
「まともに…食べれてないようだけど…」
「…なに?」
オジサンは少し考え周りの環境を見回した。
街の川沿いにもいくつかスラムが出来ており、川で水が使える分
、比較的力を持っているスラムの住人が多い。
「酷い有り様だな」
「まあ、仕方ないよ。生まれ持った運だからね。あーあ、私も裕福な家に産まれていればなー」
「家族は?」
「もういないよ。だいぶ前に魔物にやられちまったんだ」
「…そうか…」
「大変な目に遭ってる人は私だけじゃない。魔王が生きていたらもっと最悪な状況だっただろうし。ただ、せめて働くことが出来たら、もっとまともに生きられるんだけど…」
「…丁度いい。仕事をしないか?」
「え?」
「俺はこの街に来たばかりなんだ。わからないことだらけで、丁度サポートしてくれる人材を探していた所だ」
予想外の提案に私は驚き目を輝かせた。
仕事があれば、お金がもらえて、ご飯が食べられる。
「わ、私でいいの?」
「ああ。俺の名前はゼクロ。国から依頼を受けて魔物ハンターをしている」
魔物ハンター、聞いたことがある。
魔王がいなくなっても生き残っている魔物を倒しているらしい。
「安定した収入ではないから、多くは給与を支払えないが、食べるのには困らない程度は支払える」
「やります!やります!何をしたらいい?」
私の勢いにゼクロは苦笑いをしていた。
「まず、住む所を探したい。しばらくこの街に滞在するから宿ではなく、一月借りられる一軒家がいいな」
「一軒家か…貸してくれそうな人はいるけど…」
「けど?」
「私の格好じゃ話もしてくれないから…」
私が自分の身なりを気にして少し俯くと、ゼクロはすぐに気が付いた。
「そうか。では、まず服を買いに行こう。これは仕事を受けてくれたお礼に俺からのプレゼント」
「え?」
私は俯いていた顔をあげてゼクロを見つめた。
「服屋はどこにあるか案内してくれるかな?」
「こっちだ!」
服を買ってもらえる。
嬉しくてたまらなかった。
私は街で一番安い服が売ってある店に案内して、店の前で立ち止まっていると、ゼクロは背中を押して店内に私を押し込み自分も入店した。
「いらっしゃ…!い…ませ」
若い女の子の店員は私の姿を見るや顔が嫌そうな顔をした。
それもそうだ、いかにも金が無さそうな身なりの客が来店すればそんな顔にもなる。
「すまないが、この子に似合う新しい服が欲しい。どんなのがいい?ユナ」
「どんなのでも…あ、コレでいい!」
一番近くにあって、安売りのワゴンに入っているくしゃくしゃになっていた服を私は指差した。
ゼクロはその服を取り上げ広げるとかなり大きな薄手のシャツだ。
「これ?サイズが…」
「いいのいいの。お腹の部分を紐で縛れば、ワンピースみたいになるし」
「…なるほど。店員、この店でこの子に似合うワンピースを準備してくれ」
「え!」
「はぁ…かしこまりました…」
ゼクロの勝手な依頼に私と店員は顔を歪めた。
「このシャツも買ってあげるから安心しろ」
「いや…これ一枚でいいよー」
「欲がないな、ユナは。」
少し呆れたという表情をゼクロがしていると、店員は2枚ワンピースを持ってきた。
「あのぉ…試着はご遠慮願いたいのですが」
「…」
いくら客でもあからさまに汚れている客への試着はお断りだ。
私は恥ずかしくなって顔を赤くして小さくなった。
「…わかった。では、両方買う。全部でいくらだ」
そんな私を気遣ってか、ゼクロはスムーズに会計を済ませて店を出た。
「あの…そんなに買ってもらって、ありがと。」
「いい、気にするな。さて、では次は宿だな。借家を借りるのも時間がかかるだろう?」
宿…
「ゼクロ、ひとりで泊まる宿だよね?」
「?いや、ユナも一緒に泊まる所だよ」
一緒に…
あーーーそういう事だったのか
そうだよね、そうですよね。
ただで仕事と服なんかくれませんよね…
私が浮かれて初対面の人を信じきったのがバカでしたよ…。
「とりあえず、安い所でいいよ」
「わかった…こっち」
私は街で一番安い所に案内した。
そして、入り口で立ち止まって宿に入っていくゼクロに買ってもらったばかりの服を突き返した。
「これ、やっぱりいらない」
「え?」
「仕事も…いいや。じゃ…」
「ちょ、待ってユナ」
立ち去ろうとする私の手首をザクロは掴んできた。
「離して!私は…カラダは売らない!」
「は?」
「タダで服買ってくれて、次に宿で一緒に泊まるって、そういうことだろ!」
「いや、どういう?何言ってるんだ?」
「だーかーらー」
顔を赤くして睨んでいる私に対して、ゼクロはキョトンとして、首を傾けた。
「宿で体を洗って新しい服に着替えたいかと思って。ユナの家にシャワーがあるならそこでもいいけど、スラムでは寝泊まりするだけの場所しかないと思ったのだが」
確かに、私に家なんてないし、シャワーなんて川の水を使ってる位だ。
私が勝手に勘違いしたようで、更に恥ずかしくなって顔から火を吹きそうだ。
「な、ナニもしない?」
私の問いかけにゼクロはプッと吹き出して笑った。
「しないよ。こんな、一回り以上若そうな女の子に手なんて出さない」
「ゼクロって何歳だよ」
「俺?40」
「よんじゅう!?」
確かにオジサン顔だが、実は30歳ぐらいかと思っていた。
私は19歳なので、一回り以上違う。
「下手したら親子だな」
「親子かーまあ、それでもいいさ。さ、宿に入ろう」
「ぉう」
私は勘違いで良かったと思いつつ、ゼクロと宿に入った。
宿の主人も私を見ると嫌な客だといった顔をしたが、ゼクロはお構い無くチェックインをして、部屋に入った。ベッドが2つ並べられて置いてあるだけの簡素な部屋にシャワーがついている。
私は早速、シャワーで全身を洗って買ってもらったばかりのワンピースを着た。
大きな鏡がないので、部分的にしかわからないがとても清楚な雰囲気のワンピースだ。
ゼクロにも見せたが、笑顔で似合ってるよと言っていたので、まあいいのだろう。
それから、ゼクロが美味しいご飯が食べたいというので私は案内すると夜ご飯もお腹いっぱいおごってくれて、私はかなり久々にベットで寝ることが出来た。
この日から、私はゼクロと共に行動し一緒に住むようになった。
借家も難なく見つかり、私にも部屋を準備してくれた。
ゼクロの仕事は不定期に依頼があり、両手ぐらいの大きさの青い鳥がいつも足首に手紙を着けて運んでくる。
ゼクロいわく、魔法がかかっている伝達鳥らしい。
仕事依頼が入るとそのターゲット魔物に合わせた装備をするがいつも必ず古びた短剣だけは持っていく。
ゼクロが魔物の討伐に出掛けている間、私は借家でお留守番が仕事だ。
大体、魔物の討伐に出掛けて、3日以内には帰ってくる。
「一週間帰ってこなかったら、死んでると思ってくれ」
そんな縁起でもない事を笑いながら話すゼクロはちょっと変わり者だと思う。
ゼクロの所で働きだして2ヶ月が過ぎようとしていた。
もうすっかりゼクロ専用の使用人だ。
ガリガリだった私は、いつもゼクロが外食の時に多目に注文しすぎるせいで、私は少し肉がついてきていた。
大きめだったワンピースは丁度いいサイズになって良かったと思う。
そんなちゃんとご飯が食べられる日々を過ごして、ゼクロが魔物の討伐に出掛けて3日目のある日、街で偶然元奴隷仲間のお姉さんに出会った。
彼女の名前はマリアナ、私より7つ年上で今は娼婦業で生計を立てている。
色気むんむんで香料が少しきつい彼女は私に気がつくと少し目を細めて近づいてきた。
「あんた、男に囲ってもらってるらしいじゃない。わたしが客紹介してあげたとき、あんなに嫌がってたのに」
だいぶ前に、私が飢えて死にそうな時、私に食べ物を別けてくれた、実は優しい人なのだ。
そんなマリアナは私に客を取るよう勧めてくれたが、私は断った。
「囲ってもらってる訳じゃない。ちゃんと働いて報酬をもらってる」
「あら。夜のお供じゃないの?」
「ち、違う!」
私はゼクロをそんな対象に見ていない。
きっと、ゼクロだって。
「ふーん。じゃあ、私に紹介してよ!客としてでも、いいし」
「え…」
「あら?イヤって言わないわよね?」
「う…紹介だけなら…でも、今はいないから帰って来てから」
「ふふ。わかったわ。楽しみにして、店で待ってるわね」
上客がつくかもしれないと、マリアナは嬉しそうに去って行った。
変な約束をしてしまったと少し後悔しながら家に帰ると人がいる気配がした。
もしかして、ゼクロが帰っているかもと勢い良く扉をあげるとほぼ裸で下半身だけタオルを巻いて、いかにもお風呂あがりなゼクロが炊事場で水をコップで飲んでいた。
ブラウンのボサボサ髪は濡れてオールバックになって、普段そんなに気にしていなかったが、中々の整った顔と鍛えられたカラダに所々戦いの傷跡が見えて、なんというか男の色気を感じて見とれてしまった。
「あ、おかえりユナ。」
「…は!あ、ただいまって、おかえりか?」
「はは、どっちでもいいよ。何か、かわりはなかった?」
「うん。ゼクロは?」
「無事に討伐出来たよ。今回は報酬が良かったからユナにご褒美を買ってあげれるよ。何がいい?」
「私はちゃんとお給料で買ってるからいいよ。」
「相変わらず、欲がないなーよし、じゃあ美味しい物食べに行こう。ユナの行きたい店に行こう」
そう言ってゼクロは服を着て準備を始めた。
私はゼクロの心遣いにいつも感謝しつつ、さっき出会ったマリアナの店に案内をすることにした。
いままで、ゼクロが女と遊んでいるのを見たことがない。
恐らく健全な男なら女遊びが出来るとなると喜ぶだろうと思った。
マリアナの店は一見夜の飲み屋だが、店内に入ると薄暗く香水の匂いと数名の女性とお客さんがテーブルに座っていた。
奥に怪しげな部屋があるのはあからさまだ。
「…ここで食べるの?」
「う、うん。あ、マリアナ」
店の奥から現れたマリアナは仕事服に着替えており、街中で会ったときとは違い胸元が大きくあいたセクシーな姿になっていた。
「いらっしゃいませぇ。マリアナと申します」
「ど、どうも」
ゼクロはタジタジになっているとマリアナはゼクロの腕を自分の腕に絡めて席に案内した。
「ご注文はぁ、いかがしますぅか?」
「えーと、ユナ食べたいもの頼んで」
「…それじゃ」
ゼクロに喜んでもらおうとマリアナのお店に来たが、マリアナがゼクロにベタベタイチャイチャするたびに、私はもやっとした気持ちになった。
適当に料理を注文すると、マリアナが一旦席から離れた。
その隙にゼクロが小声で私に話しかけてきた。
「ユナ、もしかして、ここで働いてた?」
「そんなわけないだろ!マリアナは私と同じ元奴隷繋がりの仲で、恩人でもあるから」
「そうか…」
少し安堵した瞳をしたゼクロに私の心がざわついた。
久々に何となく『勇者の英雄(道しるべ)だけど…』を読み返して、一気に書き上げました!
下で完結済みです。
よろしくお願いします(*^^*)