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うつむき加減のあの人は

作者: 平沼小国

  本町按針の場合


最近、もどかしい。


何がもどかしいかというと、僕の友達が、彼の好きな女子に話もできないでいるのがもどかしい。


彼は人見知りだ。好きな子とまともに話もできない。


僕が何か手助けできるわけでもないが、もどかしい。


彼が好きなのは、同じクラスの安浦三春さんだ。


あくまで噂だが、その安浦さんにはもう彼氏が居るとか、彼女はよく同じ男子の話をしている、


つまり気になる人が居るとか、とにかく彼にとっては残念な情報が僕の耳にも入ってくる。


しかし、残念な情報と共に、一縷の望みを彼に持たせる情報も入っている。


安浦さんの話に出てくる男子には、すでに別の彼女が居るというのだ。


それが本当なら、安浦さんがその人のことを気にしていても付き合うことはないだろう。


でもそれだと安浦さんがその男子を気にしている理由もよく分からないし、


安浦さんに彼氏がいるという可能性も消えないのだが・・・。


さて、彼、逸見汐久の恋愛は成就するのか。


ちなみに、彼の名前は「ヘミ セキヒサ」と読むのであるが、


よく「イツミ シオヒサ」とかと間違えられるらしい。


シオヒサはないだろうとも思うが、僕も初めはそう読んでいた。


そんなこんなで、彼のあだ名は「シオピー」とか「セッキー」とか「ヘーミ」とか、


とにかくいろいろある。


名前を間違えられるのは、僕もよくある。本町按針という名前。


さて、見慣れない字といわれるのが落ちである。アンジンと読む。


按針とは、どうやら江戸時代のとあるイギリス人の日本名らしいが、よく知らない。


本町のほうもよく「モトマチ」と言われるが、「ホンチョウ」である。


逸見とそりが合うのは、名前のことで共感するところがあるからかもしれない。


そういえば、名前で思い出した。逸見が言っていた話だが、彼が音楽の授業で、


隣のクラスの男子と隣同士の席になったとき、


その男子が普段ちゃんと読まれない自分の名前を一発で読んでくれたのだという。


無論、前から名簿等で知っていたのだろうが、


特に覚える機会のない隣クラスの人の名前を覚えているのは、なかなかすごいと思った。


実は、その男子は人の顔と名前を覚えるのが得意だと、よく評判になっている。


そして、逸見はこのことを知らないが、その男子こそ、安浦さんが気になる男子だという。


何度か遠目に見かけたことはあるが、正直よく分からない。


第一印象は暗くて、猫背で、俯いていて。そういったところ。


僕も普段伏し目がちなので、その男子のそういうところについては全く否定できないのだが。


しかし、名前を覚えるのが得意というあたり、マメなのかもしれない。


さっきも言ったとおり、彼女も居るとのことなので、別に悪いやつでもないのだろう。


ちなみに自分は美術選択で、その男子と直接話したことがないので詳しいことは分からないが。


とにかく、逸見の恋愛はどうなるのか。ちなみに、安浦さんも音楽選択だが、


逸見はそのことについては何も言わない。さて、ナイーブなやつだから、


僕が知る情報を教えてしまっていいものか。結局ほっとけない親友なのである。


なんだか、もどかしい。


まあ、安浦さん関係の話を逸見にすると、


「アンジンはなんかないのかよ?」


と逆に質問されるのだが。


―――――――――――――――――――――――――――

  安浦三春の場合


彼は基本的には少し俯いている。たまに顔を上げて、前を向いていることもあるけど、


その「たまに」はユージュアリーよりはサムタイムズ寄りの「たまに」で、


意味どおり時々、といった意味の「たまに」。


彼がそんな風なのは、自分の顔に自信がないから?


でも私が見る限り、自信を無くす様な顔じゃないと思う。というか、世間一般で言って、


イケメンと言える顔だと思う。


彼がなぜ俯いているのか、それは結局よく分からない。


隣のクラスの彼は、2クラス合同授業である音楽の授業で隣の席になった。


初回授業では、席順は名前順で決まっていて、座るべき席を示す表が黒板に張られていた。


私の隣に座った彼は、少し目にかかった前髪を気にする様子もなく、俯き気味の格好で、


けれど表情は分かるくらいの角度で、微笑んで「よろしく、安浦さん。」と私に挨拶してくれた。


席順の紙で初めて見た名前を、もう覚えていた。


それ以来、大した会話も交わしていないが、なんとなく、彼が気になってしまっている。


決して恋愛感情ではない。というのも、彼に恋人が居ると知ったときに、


これといった嫉妬も感じなかったから。


私が彼のことを気になるのは、彼が、どこか不気味だけど、


爽やかで、かつ謎めいた雰囲気を持つから。


今日も、やっぱり彼は少し俯いているのである。


友達が居ないわけではない。休み時間に、廊下で男子同士で談笑しているのを見たことがある。


けれど、やっぱり彼は少し俯いているのである。


友達のシャツのボタンが外れているのが気になるとか、


もしかしたらそういう他愛もない理由かもしれない。


だけど、そうだったらつまらない。彼のミステリアスさは、どこから来ているのだろう。


なにか理由があったら面白いかな。そういうことなのかもしれない。


こうやって、何かに理由をつけて考えてみるのが最近のお気に入り。


彼は考える私の恰好の対象になっている。


友達にもよく彼の話をするが、他の人はそれほど彼のことが気になっていないみたい。


ちょっと、それはもったいないかなと思っている。


彼の彼女で、同じ部活の京子ちゃんにも話を聞いたけど、私が彼について考えてることを、


彼女は別に考えていないみたいだった。私が勝手に想像を膨らませすぎてるだけなのかな。


でも、想像するだけならタダだよね。


―――――――――――――――――――――――――――

  聖徳寺三海の場合


「じゃあな、タイシー。また明日。」


「じゃあな。」


学校帰り、分かれ道で友達と別の向きに進み、家に向かう。


タイシ、というのは俺のあだ名だ。


聖徳寺、なんて大層な苗字なもんだから、苗字じゃ呼びづらい。


聖徳寺から聖徳太子、そこからタイシ。名前で呼んでもらってもいいんだが、


苗字のインパクトが大分強いらしい。三海という珍しい名前で、覚えやすいとは思うのだが、


海という字が陸上部の俺のイメージと合わないからか。


タイシ、も充分合わないとは思っているが、別に気に入ってないわけではないし。


特に不満は感じていない。しかし、とにかく、名前で呼ぶ人は、


あいつ以外にはこの高校にはいない。あいつに初めて会ったのは中一の時だった。


入学したてで、まだ中学でできた友達は居なかったころ、あいつと隣の席になった。


第一印象は、少し暗くて、猫背気味で、髪が長いやつ。正直言って、苦手なタイプだった。


しかし、その印象からは想像も付かないほど、明るい声で、


「よろしく!聖徳寺くん。」


と、あいつは挨拶してきた。自分は挨拶を返した後、


「苗字、堅苦しいから名前で呼んでくれていいよ。」


と言ってみた。そうしたらあいつは、


「そうか、じゃよろしく、三海くん。」


と返してきた。よく考えれば、入学したてですでに俺のフルネームを覚えていたというのは驚きである。


入学したばかりだから、名札をつけていて苗字は分かったのだろうが。


しかも、ミツミという名前をよく覚えていてくれたものである。


隣の人の名前くらい覚えるだろう、とも思えるが、


少なくとも自分はそのときあいつのフルネームを知らなかった。


会話の後あいつの名前を名簿で確かめたのは言うまでもない。


ちなみに、そのころ俯いてたのは名札を見てたからなんじゃないか、とも思っている。


まあ、そんな単純なことでもないだろうけど。


その後、お互いにより仲のよい友達と一緒にいることが多くなり、


自分はそこでタイシと呼ばれ始めた。


だからあいつと一緒に遊んだりした回数は余り多くないが、なんだかんだ今でも時々話はする。


ゲームの貸し借りもしている。一度自分が借りたものを一年くらい返さなかったことが有り、


そのときは普段温厚なあいつも少しばかり怒った。いつもの猫背を伸ばして、


まっすぐこちらを向いて怒ってきた。そのとき気づいたことといえば、


あいつはいわゆるイケメンということである。


中学で、曲がりなりにも初めにできた友達の顔をまともに見たのは、


そのときが初めてだったことになる。顔立ちがどうにしろ、あいつの少し暗い雰囲気のせいか、


あいつのことは実のところあまりよく分からないのだが、


それでも、一応長い付き合いということでまだ友達づきあいは続いている。


中二、中三と別クラスになりしばらく疎遠になったものの、


たまたま同じ高校で一年では同じクラスになり話すことも増えた。


今、高二でも別クラスなので、それほど機会は多くないが、それでも友達の縁は切れないものである。


あいつ、不思議なやつだよなあ。そんなことを考えながら歩いていると、


家に着いた。早速、部屋着に着替えようとしたときに気がついた。


シャツのボタンが1つ、留まってなかった。


そういえば、今日あいつはチラチラとシャツのボタンを見てたような気がした。


あいつ、黙ってやがったな。まったく。


―――――――――――――――――――――――――――

  衣笠大の場合


音楽室の掃除をしていると、教科書が落ちていた。誰の忘れ物だろうか。


名前を見ると、「津久井 新」と書いてある。えーと、この人は誰だろう。


掃除前最後の音楽の授業は、ウチのクラスと、隣のクラスの合同授業だった。


同じクラスに津久井という人はいないから、多分隣のクラスの人だろう。


そこに、聞き覚えのある声がした。


「衣笠くん!」


振り返ると、同じ部活の北堀京子さんだった。


「どうしたの?」


「この教室に、教科書落ちてなかった?」


「ああ、落ちてたよ。ちょうど持ち主が誰かな、と思ってたところ。」


「よかった。帰り際、友達が忘れたって言ってて、私がこの階に来るついでに取りにきたんだ。」


「そうだったんだ。じゃあこれ、どうぞ。」


「ありがとう!」


そういって北堀さんは戻っていった。


・・・うん?友達?さっきの教科書に書いてあったのは男の名前だったなあ。


・・・彼氏? ・・・いや、無駄な詮索はやめておこう。


「おおい!マサル、さっきの誰だ?まさか例の彼女か?」


むろん、マサルとは自分のこと。大と書くがダイではない。


掃除班員のタイシが茶化してくるのをさっと受け流す。


「違うよ。そんなことよりさっさと掃除を終わらせようぜ。」


へーい、という気の抜けた返事が返ってくる。さあ、さっさと終わらせて帰ろう。


昔書いたものを改稿したものです。


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