1人
回想の回想だと!?
カオスじゃねぇか!
俺があなたの心の傷を埋めたいと思ったのは。
あなたが俺の心の傷を埋めてくれたから。
俺に居場所をくれたから。
「バー薫って・・」
「そ。俺たちの出会った場所。俺と親父の再会の場所でもあるんだ。」
微かに笑みを浮かべている和春。
ゆっくりと続きを話し出した。
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小さなクロスは小さな音をたてて地面に落ちた。
和春はそれを拾うとクロスを見つめる。
「なにこれ?」
「ああ・・ありがとう。」
天祢にそれを渡すと天祢は大切そうにスーツの胸ポケットにしまった。
「息子が昔、お小遣いをためて私に買ってくれた唯一の誕生日プレゼントなんだよ。」
「・・・・・・」
「あのころは幸せだったのに・・いつからこんあ風になっちゃたんだろうな〜。」
遠くを見つけてため息をつく天祢に和春は何かを感じた。
自分のせいで息子は死を選んだ。
そんな悲しみを背負って生きているのだろう。
息子の死に縛り付けられてるんだろう。
「失いたくなかったよ。」
「・・・・・・」
「でも失ってしまった。壊してしまった。」
「おっさん・・」
「それが悔しくてしょうがない。」
「・・・・・・・・・」
重い空気を断ち切るように不意に天祢は笑った。
「いつもはこんなこと口にしないのに。君をみた瞬間。どうもとめられなくなってね。」
「・・・」
「雄大のこと、組のこと。」
「おっさんは・・・」
「ん?」
黙って聞いていた和春はゆっくり口を開く。
「おっさんは息子と組。どっちが大切なんだ?」
真っ直ぐ天祢を見つけて問いかける。
天祢はそれを笑って返した。
「もちろん、息子だよ。・・そう言いたいんだけど、あのころの私は息子より組だった。
だから息子にも嫌われた。」
「んだよ・・・・・・。」
「なにか言ったかい?」
小さすぎて聞き取れなかった和春の声に天祢は首をかしげた。
下を向いてずっと黙っていた和春は爆発したように話し出す。
「守るって決めたんじゃねぇのかよ!」
「決めたよ。あの子が生まれたとき、あの子の母親が死んだとき、
1人残ったあの子を見て、自分が守らないとって思った。」
「・・・・・・・・・」
「初めて守りたいって思った人ができた。でも、何かと組優先で、気が付けば私はいつもあの子を1人にしていた、そのくせ組長になれなんて、期待を押し付けて、あの子の将来を踏み潰していた。最低な父親だった。憎まれて当然だった。」
「お前に分かるか。大好きな親に見てもらえない気持ち。
寂しいんだよ、つらいんだよ。生まれてこなければよかったって思うよ。」
「和春くん?」
「なのに、こうなって、今更うじうじ悔やんでたって、後戻りできないのに。
後悔だけが残るだけで、俺は、どうしようもねぇじゃねぇか・・・」
「え?」
天祢は自分の目の前にいる息子そっくりの男子が涙を流している理由を分からなかった。
「責任感じてるんだったら、悔やんでるんだったら、堂々と生きやがれ。
じゃねぇとこっちが後悔すんだよ!」
涙をぬぐいながら走ってさってしまった和春。
都会の夜へと消えていく彼の姿は益々息子にそっくりだった。
「・・・・・どういう意味なんだい?」
天祢は和春の後ろ姿にその意味を問いかけた。
都会の空気は冷たくて、冷気にさらされた涙はゆっくりと自分の頬を伝い落ちる。
自分でも分からない涙に戸惑いながらも泣かずには入れなかった。
天祢の話に同情したわけでもなく、むしろ怒りを感じたのは、天祢の言葉が
自分の親に似ていたからだった。
「ちくしょう!」
大きな声で叫んでゴミ箱を蹴ると周りからの視線が集まった。
それを威嚇しようと舌打ちをしたが小さなその舌打ち、周りは気づかす去っていく。
自分がちっぽけな気がした。
自分はあの日から成長してないのか。
どうぜ世界からみたらただの子供だった。
「ちいせぇ・・・」
前髪を掻き揚げて呟いた。
それは自分の存在を、確認するように、
自分の未熟さをかみ締めるように。
そんな和春に雨が冷たく降り注ぐ。
あふれ出る涙を隠すように。
しかしその雨は和春の記憶を呼び覚ました。
―和くんはいい子だから、お母さんいなくて大丈夫だよね―
大丈夫なんかじゃない、でも心配かけたくなくて、忙しいの分かってたから、
笑顔で返事をするしかなかった。
―和はいい子だな〜!!お父さんに似たんだな!―
頭に触れる大きな手が大好きだった。
でも、頭は撫でられたけど、抱きしめてもらったことはなかった。
そういえば一緒に出かけたこともなかった。
でも迷惑かけたくなくて、わがままなんか言わなかった。
離婚すると知らされたのはいつだっただろうか、
泣きながら俺を抱きしめるお母さん。
それが最後だと確信した。
―置いていかないで。離れたくない。お父さんもお母さんも3人でいたい―
そう思っても口にはできなかった。
それは2人を困らせることになることが分かってたから。
―和春くんね、今日から私のこと、お母さんって呼んでね―
再婚しても、新しいお母さんを困らせないようにしていた、
お父さんも喜んでた。
2人の帰りが遅くなり、そのうち帰らない日が続いても、
俺は家で1人、何も言わなかった。
2人を困らせたくないから。
仕事で忙しいことも分かってたから。
でも寂しかった。
また離婚して、再婚した。
15歳の時だった。
妹ができて、1人じゃなくなった。3人目のお母さんは専業主婦だったから
学校から帰るといつもおかえりってて声がした。
それが嬉しかった。
でも、それが辛かったのかも知れない。
知らず知らずに自分を自分で苦しめていたのかもしれない。
縛り付けていたのかも知れない。
それに気づいたのは高校に入ったときだった。
俺は恐れていたんだ。
―お前っていい子だよな〜不良の俺にもこんなに優しくすんのかよ。そのうちパシられるかもよ?―
居残りをされて宿題をやらされてる不良のクラスメイトに勉強を教えていた。
―不良って楽しい?―
そう問うと不良は平然と応える。
―ん?まぁな・・やりたいことやれるし・・・―
―俺には無理だな・・・―
―お前さ、ちょっと思ったんだけど回り見すぎじゃね?―
―え?―
―って人間の落ちこぼれの俺が優等生君のお前にいうのもおかしいけどよ。
お前って周り見すぎてる気がする。周りの様子窺って、周りにあわせて。
誰も傷つかないように丸めようとしてる。―
―・・・・・・・・・―
―でもそれが自分を追い詰めたりする事もあるんじゃね?本当はそうやって周りに合わせて、
嫌われるのを避けてるだけなんじゃねぇの?嫌われるのが怖いんじゃねぇの?
でもそれって自分を自分で縛り付けて、苦しめてるだけじゃん。―
―!!―
嫌われるのが怖い。
和春はその言葉を何度も繰り返した。
自分は嫌われるのが怖い。
お父さんやお母さんを困らせたくないんじゃない。
困らせて、呆れられて、嫌われるのが怖かった。
本当にそうなのかも知れない。
1人になるのが嫌だった。
それでも気づくと和春はいつも―
雨の中をそんなことを思い出しながら歩いていた。
顔に雨と涙が伝う。
雨のおかげで周りの人間には、涙が気づかれなかった。
この広い都会で、この広い世界で、
どうしようもなく溢れる涙をぬぐうことなく空を見上げていた。
「俺は・・・・・・」
―・・・・・1人だ・・・・・―
小説になってドラマになる!そんな野望があったのに・・むりっぽいですwww
ここまで読んでいただきありがとうございました!






