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stringere  作者: 汐音真希
7/23

目覚め

あ〜・・よくわかんねぇ・・・

受験生は大変です・・

   




    ここは・・・どこだ・・・・?




   俺は・・・・・何をしているんだ?


  







「はい。これ飲むと落ち着くよ。」


「ありがとう。」


缶を開けた瞬間に広がる暖かく甘いミルクセーキの香り。

夢はほっとため息をこぼした。


「でも、よかったね、無事だって。」


「うん・・・」


「ほら。そんな暗い顔しないの。お兄さんが起きたとき、笑顔で迎えてあげるんでしょ?

それが、夢の役目なんだよ?」


夢の口元を引き上げるように軽くつねりながら、希美はそういって、

夢の顔を覗き込んだ。


こんなに仲良くなったのはいつからだっただろうか。


無口で素直に思ったことを口に出せない夢は小さいころから、友達ができなかった。

学校でも1人で、下校時間ぎりぎりまで、教室に座って、空を眺めるのが日課だった。

それを誰かが気づくこともなくに気にすることもなく。

ただ、希美だけは、そんな夢に明るく話しかけてくれたのだ。


―夢ちゃんだよね?いつも、教室に残って何やってるの?―


空をみてた。


―空好きなんだ〜。私も好き。ね。一緒に見てていい?―


うん。


転校先で初めて話した相手。

初めて一緒に帰ったり。

初めて友達と呼べる存在になってくれた。


夢にとって希美は大切な親友。



「希美・・ありがとう。」


ミルクセーキを飲みながらつぶやくと、希美は何もいわなかったが

足をバタつかせて夢に笑顔を向けた。


大切な親友。

大切な兄。

大切な




大切な・・・・・



ふと立ち上がってガラス越しに和春を見る。

目を覚ます気配はなく、

呼吸は安定しているが、まだ医師が付きっ切りの状態だった。


「和・・・起きて・・・」


「・・・・・夢・・・」


「和・・・起きてよ・・・・」







++++++++++++++++



和春が目を覚ましたとき、そこは真っ暗だった。


「ここは・・・どこだ?」


自分の声を響く以外何も聞こえない。

すべてが闇だった。


「そうか・・俺・・死んだのか・・・?」


そんなことまで考えてしまう。


―カズ・・オキテ・・・―


どこからか微かに聞こえた声。

聞き覚えがあった。


「・・夢?」


―オキテヨ・・カズ・・―


声はだんだん大きく聞こえてくる。

和春は声の聞こえる方向へ走った。


「こういうシーンよくドラマでやるよな・・」


そういいながら自分を呼ぶ夢の声を頼りに走っていった。


―オニイチャン・・・―


夢の泣き声が聞こえる。

今まで素直に「オニイチャン」と呼ばれたとこは無かった。


「くそっ・・」


和春は自分に腹が立った。


夢を守る。夢を泣かせるやつは許さない。

そう決めたはずなのに・・

今夢を泣かせているのは、自分だった。


「何やってんだよ。俺は・・早くここから出ないと・・」


そういってひたすら夢の声の方へと走っていくしかなかった。








微かに指を動き、ゆっくりと和春が目を覚ました。

発見されてから、11時間たったときだった。


「和!」


「・・夢・・・」



「和・・よかった・・」


ガラスの向こうで泣きながら夢は和春を見つめていた。


「夢・・笑って上げなよ。」


希美に後押しされ、夢は笑顔で和春を迎えた。


「お帰り。」


「ただいま。」


和春は力の入らない手をゆっくりあげた。


ガラスの外にいる夢の涙を隠すように、夢に手を重ねて。


「ごめんね。夢。」


「ううん・・・よかった・・和が無事で・・」


どうしても笑う事ができなくて、そのまま泣き崩れてしまった。

今までの緊張が抜け、足に力が入らなかった。


「・・・私・・尚さん呼んでくるね。」


希美はそういって屋上に向かった。





「和さん!」


尚と後藤が和春の病室に入ってきた。


「お・・尚・・後藤・・心配かけたな・・」


「和さん・・」


「尚・・・」


和春は尚の顔で気づいたらしい。


「後藤から聞いたんだね・・」


組のこと、今回の事件のこと、和春がヤクザの次期組長であることをすべて。


「・・・・・・」



「すみません、和春様・・・」


そう子声で言うと、後藤は和春に耳打ちをした。


「そこはお前に任せていいか?」


「はい。では私はこれで。」


そういうと後藤は去っていった。


「私も帰るよ?そろそろ時間だし。」


「うん。ありがとうね希美。」


「なんのなんの。和春さんお大事に。」


希美も去って3人だけになった。

尚はどんな顔で和春を見ればいいのか分からなかった。


「2人とも心配かけたな。ごめんね〜、不良に絡まれちゃって」


いつものペースで笑っている和春だったが、和春もまた

どんな顔を尚に向ければいいのか分からなかった。

どうしようもできなく気まずかった。


「私・・屋上いってくるね。外の空気吸ってくる。」


「俺も行こうか?」


「1人でいい。」


夢が屋上へ向かい病室の残ったのは和春と尚だけ。

お互いその話に触れることはなく、ほかの話でごまかすこともなく。

只々沈黙を守っていた。








+++++++++++++++++++++++++



大切な親友。

大切な兄。


大切な・・・・


夢は屋上で空を見ていた。


「私にとって・・尚って何なんだろう・・」


いるのが当たり前になっていて、いなくなったらなんて考えられなかった。

夢にとって尚は。




「夢・・・」


「尚・・・」


「ごめん、1人になりたいなら病室戻るけど。」


「ううん、大丈夫。」


尚は若干あの沈黙から逃げる形で病室を後にした。


「寒いからね。コート持ってきた。」


「ありがとう。」


「和さん無事でよかったね。」


「うん。」


空を見上げながら尚に寄りかかる。


尚は一瞬夢を見たがそのあと、夢の肩を寄せた。


「・・・・・・・・・尚・・」


「ん?」


「私・・・・・・・・」


「うん」


「・・・・・・・なんでもない。」


「なんだそりゃ。」


笑いながら尚は夢の方を見た。

夢が少し不満な顔をしているのが分かった。



自分は何を言おうとしたのだろうか。

いきなり何を。

いえるわけが無いのに。

今気が付いたこの気持ち。





―尚が・・・・好き・・・・・―









ここまで読んでいただきありがとうございます。


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