さようなら
あああ〜。んもう!
残された時間は、君たちと過ごすために使うよ。
俺の大切な
家族だから。
分かる・・・分かるよ君が何をいいたいか・・
怖いよね・・怖いんだよね!
尚は朝食を食べながら無言で頷く。
先日家にやってきた、希美の彼氏が、涙目で、尚に助けを求めるように見つめるからである。
彼の涙の理由はただ一つ。
尚の隣で朝食を食べる夢が思いっきり睨んでいるから。
夢曰く。
『私の希美を独り占めしやがって・・・・』
ということらしい。まぁ親友の彼氏を嫌うのは乙女とて普通のことなんだろうか。
しかし彼氏はそんな夢の視線が怖いらしい。
それは嘗ての尚のようだった。
家にきてすぐでなれなかったころは夢に何度も睨まれて、舌打ちされて、
足を蹴られて、和春に縋り付いたもんだ。
今じゃとても仲がいい。
でもどうにかしてそんな夢の視線を彼氏からはずさなければいけない。
じゃないと、卓磨くんがかわいそう・・・
尚は思考回路をフル回転させた。
とそのとき
pppppppppp
夢の携帯が鳴り夢が電話に出るために食卓から立ち上がった。
卓磨のホッとした顔に、希美はフォークを銜えながら頭に?マークを浮かべている。
「あっ・・・和?うん・・・うん・・・尚?いるけど・・・・」
そういって夢は尚に電話を渡した。
「もしもし和さん?」
『あっ尚〜!携帯なんで出ないの〜』
「すいません部屋におきっぱでリビングにいました。」
『今日これる?』
「あっ・・はい仕事後なら、5時からいけますよ。った〜!」
いきなり夢に足を踏まれ大声を上げる。
きっとまた和春が尚だけを呼び出すのが気に入らないのだろう。
『うわっ!びっくりした・・どうした?』
「いえ・・・なんでも・・・」
『あっ!そーだ!尚!今日は夢もつれてきていいよ!』
「あっそうですか!分かりました。」
『うん、じゃ〜ね〜』
そういうと電話は切れた。
尚は携帯を閉じて夢に渡しながらいった。
「和さんが今日は夢も来ていいって」
「え?」
「俺仕事5時に終わってそのまま直でいくけどどうする?」
「あっじゃあ私も学校帰りにそのままいく!」
「分かった。久しぶりにあってたくさん話せるといいね。」
「うん!」
一気に笑顔になった夢。
可愛いなぁ〜なんて尚も思ってしまう。
―手を出さないこと―
そんな和春の言葉が頭によぎり首を振った。
「さてと、朝食だべたら俺はいくよ〜!」
「「いってらっしゃ〜い!」」
「あれ?二人学校は?」
「今学校いったらどうなると思います?どうせ親学校で待ち構えてるんですよ!」
「あっ、そっか。じゃあ猫に餌あげてくれる?」
「了解です!」
「じゃっ!いってきま〜す!」
そういって尚は家を後にした。
++++++++++++++++++++
案の定、仕事場で、中島夫妻に娘のことを聞かれる。
学校にも行ったらしい。
適当にごまかして仕事を続けた。
「そうえいばお兄さん元気?」
「あっはい、だいぶよくなりました。」
「そ〜。よかったわね〜」
「はい。」
和春の事件は世間には交通事故といってあった。
乱闘の事や組のことは公に出していなかった。
仕事を終えて、携帯を見ると夢からメールが入っていた。
『学校おわったから、早めに来たけど、なんか入りづらい。
早く来て。』
着信が4時。今・・・5時30分・・・どんだけまってるんだよ・・
そう思いながら尚は夢に電話した。
がちゃ
『はい。』
ワンコールで夢が出る。
ずっと待ってるのかな?なんて思って聞いてみた。
「いまどこ?」
『病院』
「・・・・の?」
『前の喫茶店・・・』
思わず吹きそうになってしまったのをぐっとこらえる。
可愛いことをしているなぁ〜なんて思っていると、夢の不機嫌な顔が浮かんだ。
『つか早くきてよ!』
「うん、ごめんごめん、今仕事終わったの、今からいくから」
『分かった。』
電話を切ったあと尚は走って病院に急いだ。
「おそい!」
「ごめん!」
「まぁ・・しょうがないけど・・・」
「うん。じゃあ・・いこっか。」
「う・・・うん。」
少し進んで振り向くと、夢の不安そうな顔が見えた。
「どうしたの?」
「なんか・・・緊張してきた・・」
「なんでよ〜、和さんに会いに行くんだよ?」
「だって・・・」
そういって拳を握り締める夢。
入院してすぐに自分を拒否していたことがショックだったのか。
それともあの日・・・
「オニイチャンって・・呼んじゃったし・・・・」
やっぱりそこか
尚はまた吹きそうになるが必死に抑える。
素直じゃないところがまた可愛くて、笑みがこぼれた。
「なっ!なによ!だってさ!!!・・・だってさ・・・」
「はは、でもいいじゃん、兄弟なんだし」
「でも・・・」
「またオニイチャンって呼んであげれば?喜ぶよ?」
「・・・・む・・・」
「ほらいこ」
そういって夢の手を掴むと引っ張るように歩き出す。
次第に夢が手を握り返してきて、尚の少し後ろでも歩幅をあわせて歩くようになった。
尚はずっと前をみていた。
だから後ろで顔を真っ赤にしている夢にはきづかなかった。
「ゆ〜め〜!!!」
大きく両手を広げて叫び和春。
俺の胸に飛び込んでおいで!
そんなポーズを夢は軽くスルーすると見舞い品のフルーツを和春の顔に押し付けた。
照れ隠しなのは分かってるけど、本当に痛い。
和春は自分の鼻の骨が折れてないことを確認する。
「いたた・・・ゆめぇ〜!久々に再開したのに、冷たいんでないの?」
「久々なのはあんたの所為でしょ!なんで私だけ見舞い禁止なのよ!」
「あれ〜?俺に会いたかったの?」
そういうと夢は青くなったり赤くなったり。
兄にあえて嬉しいのだろうが、素直になれなくて、ついつい冷たく当たってしまう。
「んなわけあるか!ば〜か!」
そう叫ぶとどすどすと病室から出て行った。
「どこいくの〜?」
「トイレ!」
そういって出て行くが、トイレとはまったく逆方向である。
「ふふwかわいいなぁ〜。子供みたいw」
「ですよねw」
2人で顔を見合わせて笑った。
「あっ足の調子はどうですか?」
「あ〜、うん、だいぶよくなったんだよね〜。」
「そうですか。。よかった。」
「だからね。」
「はい。」
「もう帰る。」
「は?」
突然の帰宅宣言。
「でも!あと、1週間あるって・・・」
「大丈夫だし!俺頑丈だし!毎日牛乳のんだから!」
「でも・・・」
「医者とはもう話した。」
「えええ・・・」
なんという急展開。
そのあと夢が帰ってきて帰る時は3人で、
夢は嬉しそうな顔をしていた。
「早く帰ろう!」
張り切って歩く夢。
その後ろを荷物をもった尚と松葉杖の和春が続く。
「一気に機嫌よくなりましたね〜。」
「素直なんだか素直じゃないんだか・・」
「でも本当に嬉しそうです。」
「そうだね〜。」
そういって3人で歩いていく。
「あっここら辺で、タクシー捕まえますよ。」
そういって和春から少し離れる尚。
夢も尚の隣でタクシーを捜していた。
そんな2人を見ながら和春はそっと自分の胸ポケットから小さなクロスを取り出す。
それは嘗て天祢にもらったもの。
天祢が和春そっくりな息子にもらった思い出の品。
和春はそれを見つめながら呟く。
「親父・・俺は残りの時間を、あいつらと、そして組のやつらと過ごしていくよ。
俺の大切な家族と・・・・」
『ずっと』
微かに動いた中指。
夢の中で和春の声を聞いた気がした。
自分の吐息が響いていた。
「親方!目覚めたんですか!」
後藤が見えた。
「今!お医者さんを呼びますね!あと若頭も!」
「・・・じかんには・・・・」
部屋をでようとした後藤は足をとめて振り向いた。
「え?」
「時間・・には限・・りが・・ある。その・・残された・・時・・間・・を・・大切・・に
使うんだよ・・。和春・・・
けして・・雄大の・・ような・・最後を迎えては・・・いけない。
家族を・・・大切に・・して・・ね・・・」
途切れ途切れにそういうと、微かに笑みを浮かべて。
目を閉じた。
だんだん聞こえなくなってくる自分の吐息。
自分を呼ぶ後藤の声がだんだん小さくなっていって。
自分の息子の姿が見えた。
追いかけていくと次第に真っ白な世界へと、引き込まれていく。
『和春・・・さようなら・・・』
「親父・・・?」
ふと何かが聞こえた気がして和春は振り返る。
タクシーはもう出ていて、病院が遠ざかっていく。
一番上の一番端のあの部屋。
和春はそこを見つめながら何故か悲しい気持ちを覚えた。
「さようなら・・・」
不意にでた言葉に、隣の夢と尚が首を傾げる。
「和さん?」
「どうしたの?」
「え!?俺いまなんかいった?」
「・・・・さようならって・・・」
「え・・・」
自分でも何に別れを告げたのか分からなかった
とっさに口をついた言葉。
無意識に口にた言葉。
『さようなら』
・・・ここ・・まで・・よんで・・くださって・・
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