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stringere  作者: 汐音真希
11/23

居場所

なんかな・・・・放置してたら話が分からなくなりました・・・(泣)

ナイフとフォークだと!?

そう思いながら和春は朝食には相応しくない濃い料理を見つめた。

目の前で天祢はそれを何くわぬ顔で黙々と食べる。


「どうしたんだい?和春くん。」


「あっ・・いや、なんでも。」


和春はそういうと、ナイフとフォークを使ってステーキを切りにかかる。


「いつもこうなの?」


「何が?」


「朝食。」


「ん?うん、そうだね。」


「ステーキ。」


「うん。」


「ワイン」


「うん。」


「・・・・・・・・・」


さすがに朝にこれはないだろう・・・

しかし人の家でご飯をもらっている以上文句はいえない。

まぁ現に尚は家を出てからまともな食事をしていない、

いくら朝がきついからといっても、こんなご馳走を粗末にはできない。


「あっ違うときもあるよ!?毎日ステーキじゃないからね!」


「中華とか?」


「うん、そういうのとか、ローストチキンとか・・・」


くらっとその場に倒れる衝動を抑えて椅子に座った形を保っている。

なんという不健康。且つゴージャスな・・・・


「・・・おっさん何歳・・・?」


「ん?48。もうおじさん」


軽く笑いながら天祢が言う。

和春は目の前のステーキに目をやる。


「胃もたれしねぇの?」


「ん?和春くんステーキ食べれない?」


「いや。そうじゃなくて・・・不健康だよ。」


「え?そう?」


全然自覚ねぇのか・・・

和春は軽くフォークを握り締めるとステーキを差して掲げた。


「俺はまだ若いからなんとかなるけど。」


「うん。」


「おっさん、48歳で朝からこんな肉食ってたらさ〜・・・」


「うん。」


「まぁ肉好きなら文句はいわねぇけど。野菜も食ったら?」


天祢は言われてテーブルを見渡す。


「あっ、確かにサラダがないね・・・」


「だろ!?」


「そうだね〜、これじゃ不健康だ・・・」


「そういうこと!」


「でも生野菜嫌いなんだよ〜。」


「温野菜は?」


「食べたことないね・・・」


そこまで聞くと和春は差したままのステーキを一口食べる。

やはり久々の肉!おいしい!

しかし大量の油が胃を襲った。


「そういえば和春くん。家族は?」


「え?」


分厚い肉を格闘しながら天祢の言葉を聞き返す和春


「お父さんとかお母さんは?」


「お母さんはみんな、他の男と結婚した、お父さんは死んだ。」


「みんなって・・・」


「離婚再婚のオンパレードだったから俺の家。」


「そうか・・・今は一人なのか?」


「そう。一人、だから東京で放浪してたの。」


「ふぅん・・・」


天祢は食べる手をとめて和春を見つめていた。

和春は肉と格闘していてそんな天祢の目線には気付かない。


「じゃあ、私と暮らさないか??」


「は?」


あまりに突然の発言に、手を止めて顔を上げた。


「君は私の息子にそっくりだ。そんな君をどうしても放って置けなくてね・・」


「でも。」


「どうだい?私の養子になってくれないかい?」


「・・・・・」


「いますぐ答えを聞こうとは思わない。

養子の話を断ってもここから追い出したりはしないよ。

いつまでもここにいていいからね。


「俺・・・考えさせてほしい・・」


「そうか、分かった。」


そういうと天祢は食堂を後にする。

和春と黙々とステーキを食べ終えると外へ出た。


―私の養子になってくれないかい―

朝食の時の天祢の言葉を和春は思い出す。


もしも、ここで養子の話を断ったら自分はまた一人になる。

でも、昨日あったばかりの赤の他人なのに・・・

迷惑をかけてしまう気がした。

それに、天祢は和春を見ているのではない。

和春と重なるわが子、雄大の姿を見つめている。


でも、東京へきて、はじめて自分を受け入れてくれた人だった。

和春は、椅子に座ってずっと悩んでいた。



+++++++++++++++++++++++


「・・・・・・・・」


「尚・・」


「はい?」


「あってくれないか?俺の親父に。」


和春は窓の外に向けていた目を真っ直ぐ尚に向けた。


「・・・・え??」


そういうと和春は足を引きずりながら立ち上がり。

病室を後にした。

尚もその後に続く。


エレベーターに乗って、

何階か上ったところの突き当たりの部屋。

大きな個室からは寂しい雰囲気が漂っていた。


「・・・・・この中に・・・・?」


そういくと和春はまだってうなぐき、病室の扉を開いた。






そこには人工呼吸器をつけた老人の姿。


「半年前にな・・・病気で。ずっとこう。」


「・・・・」


「人工呼吸器はずしたら死んじまうんだよ。今は辛うじて生きている状態ってわけ・・」


「そんな・・・」


「親父には・・最後まで組の組長をやっててほしい。だから

こうなった今でも、俺は若頭として組を支えてる。

天祢組の組長はこの人しかいねぇ・・」


「和さん。」


「あのあと。養子の話を受けようとしたんだけどな〜。俺の親の問題とかあってさ。

名前は変えられなかった。でも・・・親父は本当の息子見たいに俺を大切にしてくれた。」


「そうだったんですか。」


「ここが・・・この人がいる場所が、この人の作った場所が俺にとっての居場所だったから。

迷惑かけたくないとか、そんなの気にしなくていい。本当に安心できる場所だった。

この人は俺の太陽みたいだった。」


「お父さんのこと、本当に好きなんですね。」


「親父は・・・偉大だよ。」


そういうとそっと天祢の手を手を添える和春。

その目は何かをそっと見つめていた。



「さてと・・・帰ろうか。病室に。」


「和さんもこの病室に来れば良いんじゃないですか?」


「あ〜!それいいねぇ!看護婦さんにたのもっと!」


「お父さんも喜びますよ。」


そんな話をしながら和春と尚は病室に戻った。





尚は病院を出ると、交差点を見つめた。

和春はまだ話していないことがあると思う。

過去のことを全部は教えてくれなかった。

でもそれが和春の触れてはいけない部分なんだろうと、尚は見てみぬ振りをしていた。


「和さん・・・俺も・・・和さんに居場所もらいましたよ・・」


そんなことを呟いてみて、ゆっくり歩き出す。





++++++++++++++++++++++++++







「いわなくていいんですか?」


「誰にですか?」


「妹さんや、弟さんに・・・」


「先生・・・あの2人には・・言わないでください。」


「でも・・・・」


「これ以上心配かけたくないんです。」


「しかしね・・・」


「のこりの人生は俺なりに精一杯生きますよ。」


「・・・・・・・・残り・・・」


「・・・・・あと・・・・半年・・・・ですよね」


「・・・・・・はい。」


微かに廊下に響く声。

沈黙のなかで和春は自分の命をそっと見つめる。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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