#30:vs魔王
vs魔王です。
もう少しで第1章異世界編。ライリーの世界での旅が終わります。
魔王城に入るとそこは異界といった感じだった。場内はつねに真っ黒な渦がうっすらと包み込み、青色に輝くろうそくが壁に立てかけられている。一般的な魔王城のようにも見えるが、地面だけはボロボロであった。
「みんな、気を付けて。私が以前来た時と何かがおかしい」
以前、魔王討伐できたことがあるというライリーが俺たちに忠告をした。
「ろうそくの色は橙色だったし、地面もこんなにボロボロじゃなかった。それにこのモヤみたいなの……以前来たときは無かった」
俺たちは魔王城内に出現するモンスターを――といってもほぼライリーが一人で片づけた後ついに最奥の扉へとたどり着いた。
「いよいよだね、カケル君」
「後ろはお姉さんたちに任せてねぇ」
「カケルさんは私たちが守ります」
そう言うと、前衛のライリーと未来が魔王城最奥の扉を開いた。扉の中に入ると、そこは王室のようだった。しかしながら、人はいる気配がなく地面はボロボロな様子だった。すると突然、周りから黒いオーブのようなものが集まりだした。すると、オーブは王座に集結した。
黒いオーブはやがて人のような形をとった。そして、その姿が明確に見えるようになった。真っ黒の鎧に、黒い剣、そして黒い仮面をかぶっている人物がそこに立っていた。
「魔王!」
ライリーがそう叫ぶと、その人物は仮面を取った。中からは人外の顔でもなく、おじさんの顔でもなく、金髪のイケメンが姿を現した。
「あれ、今回はやけに復活が早いですね」
「ええ、私も貴方がこんなに早く復活してしまうとは思ってなかった」
「その声は私を倒した勇者ですか。くくく、まさか一度負けた勇者にリベンジができようとは」
「貴方はいったい何をしたの?何でこんなに早く復活したの」
「さてな。貴様の封印が甘かったのだろう」
ライリーと魔王はお互いにらみ合いを続けていた。
「言葉は不要のようね。今度はあなたを倒すまでよ」
「ふん、無駄だ。貴様では私を倒すことなどできない。だが、まずはギャラリーに消えてもらおう」
そう言うと、魔王が巨大な魔法陣から真っ黒な円を俺たちに向けて放った。
「ここはお姉さんに任せて!『ウォール』」
恵令奈さんが壁のようなものを展開すると、たちまちその魔法は消え去った。これには魔王も驚いたような表情を浮かべた。
「私の魔法を完全にかき消すとは、恐ろしいですね」
「目の前がお留守ですよ」
「ぐっ」
ライリーは魔王がひるんだすきを見逃さず、すかさず攻撃をした。恵令奈さんの術に目を取られていた魔王は、簡単にライリーの攻撃を許してしまっていた。
「やっと私の出番が来ました。見ててくださいねー先輩」
未来がそう言うと、デバイスを起動させていた。そして、一瞬にして魔王の背後を取ると裏側から小さな銃のようなもので後ろから撃ち抜いた。
「あ、貴方たちのその能力は見たことがない。勇者でもないのに、私に大ダメージを与えるなんて」
魔王が膝をつきながら、ライリーのことを睨みながら見た。ライリーは剣を魔王に突き付けた。
「魔王の能力は勇者以外から受ける被ダメージを極端に減らす能力」
「そうだ。なのに、なぜそいつらの攻撃が私に効くんだぁ」
するとライリーはニヤッと笑った。
「でも、その能力はどうやらこの世界の人間にしか適用されないみたいだね」
「この世界の人間、まさか……!?」
魔王は慌てて、この場から逃げようとし始めた。しかし、彼が逃げなかった。いや、逃げることができなくなった。
「くそっ!?なんだこれは?」
「……拘束術。これから逃げることはできない」
影音の拘束によって、地面から伸びる紫色の不気味な手が魔王の両足をつかんでいた。
「今度こそ逃がさない。ごめんなさい、私が倒してもいいですか?」
ライリーはそう言うと、新条先輩の方を見た。一応新条先輩が今代の勇者ではある。とは言え以前、魔王を完全に倒しきれなかったのが悔しいのだろう。新条先輩もそんな彼女の意図を察してか、静かにうなずいた。
「貴方が苦しめた人々のためにも、私はここであなたを討つ」
「や、やめろぉぉお!」
魔王はやめてくれと言わんばかりに叫んだ。しかし、ライリーは戸惑うことなく剣を魔王に振り下ろした。