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第七話。‐Ritter‐

「真白ちゃん。貴方って子はオマセなジゴロさんねぇ」


「?」


 学園でやる事を終えた私は一旦家に帰って制服一式から普段着に着替え直し、そんでいつもの酒場の二階にてマスターに今日の報告を煙草と酒をチマチマっと挟みながら済ませた。そしたら何故かマスターはやれやれと言った感じであからさまな態度で詰られた。


「ふぅ。あ行の最後はなんでしょう?」


「お。いきなりなに? 別に酔ってないわよ」


「いやだって……ただ無事に復学できた事を伝えただけなのに遠まわしにゲス男って詰られたので」


 オマセなジゴロ。人はそれを節操無しのヤリチン予備軍と言う。何故復学報告でそんなヤジを飛ばされんといかんのじゃい。


「いやだって! だってだってッ!! 美人さんなんでしょう? 色気ムンムンなんでしょう? とにかくエッロイんでしょう!! エロ美女未亡人風味の女教員なんでしょうッ!?」


「ブッ!? イギィッ!? ――ゴホッ」


 け、煙が変な所入った!? 

 お手拭きを急ぎ顔に押し付けて呼吸を整える。そしてお手拭きをテーブルに叩きつけてマスターを睨む。


「そこは美人教師は未亡人でしょうが!? ――って違うッ!」


 と、叩きつけたお手拭きを再度顔に押し付けて真っ赤な顔を覆い隠す。

 儂ぁ一体何を言っとるんじゃい……。


「マスターこれノンアルコールのカクテルですよね?」


 顔を隠したまま三杯目の半分まで飲んでいたグラスに指を指す。


「……か、カルーアミルクは慣れたらただのコーヒー牛乳じゃない? ……じゃないっ!?」


「ちゃうわい! しかもあれは飲みやすいから飲み過ぎ要注意の酒! てか客のオーダー無視ってどゆこと!?」


 顔を隠して御見せしませんが、若干泣いています。


「お酒……アルコール入れば……ね? 変に包み隠さずにありのままをゲロするかと思って……」


「凍らせますよ? この国とありのままの~的な意味合いでね!?」


「コカインあげるから許してよん」


「あー! 居ましたね!! お懐かしい……じゃないわい!?」


 私も一体何を言っているんだ……お酒って怖い。


「…………はい」


 と、約一分ほど顔をお手拭きで隠して呼吸と心、そして顔に籠った熱を落ち着かせた。


「その美人教師なんですけど……あ、名前はイルザ・テンペストね。で、その人騎士団で何をやらかしたか知っていますか?」


 仕切り直しの煙草を吸いながらあのイルザ・テンペストと言う女騎士の情報を得ようとマスターを問いただす。


「あの学園はその名の通り第一騎士団が管理している。だから教職員も第一騎士団の騎士が務めている」


 この国の軍事は主に一般人上がりの第三騎士団。魔境大陸エルサドバドルで魔物の襲来を現地にて防ぐ第二騎士団。王族の威厳と自国を守護する第一騎士団。それ等全ての頂点に君臨している円卓十三聖典。

 以上の上記四つで構成されている。あと軍事の枠外に氷帝教会と呼ばれる国教組織がある。


「学園の教師を務めるのは、第一騎士団に上がってきたばかりの騎士、一時的に戦えなくなった養療中の騎士、精神的に戦えなくなった騎士――そして戦力外通告をされたにも関わらず泣いて在中を懇願した没落騎士と罪を犯した騎士の面汚しだけ」


 あの学園はガレッジごとに分けられている。貴族、才ある生徒、氷帝教会の信徒が振り分けられたAAガレッジ。一般生徒のAガレッジ。最後に国民の資格を持っていない生徒のNガレッジ。

 AAガレッジは予め選抜された養療中の騎士と精神的に戦えなくなった騎士が担当。

 Aガレッジは第一騎士団に上がってきたばかりの騎士とそんな彼等の教育係と副担任を務める選抜から漏れた上二つのあぶれ騎士が担当。

 そして私が振り分けられているNガレッジには没落騎士と罪を犯した騎士が担当している。


「あの先生が他人に傅く姿は想像出来ない。となると何らかの罪を犯したとしか考えられないんですよね」


 傅くより私に傅け、私がお前の所有物? お前が私の所有物。そんなジャイアニズムが形をなした存在があのイルザ・テンペストだと私は思う。

 まぁ、サキュバス類の魔性がなす妖艶なジャイアニズムなんですがね。通常攻撃も相手が男だったら必中のクリティカルですわい。


「……ん? どうしました?」


 仕切り直してからやけに静かだなと思いマスターを見上げる。――と、そこにはやんわり頬を引き攣らせたヘンテコな笑みを浮かべたまま固まるマスターが立っていた。


「いや……なに……え、マジィ? あっちょんちょん……」


 と、困惑と訳の分からぬ言葉を吐きながらマスターは何処からか灰色のファイルと黒いファイルを持ち出して私に渡してきた。


「――really?」


「yes。あ、黒い方が研究会が要注意人物と規定した人物達が載っているブラックリストね? 覚えてる?」


「……」


 無視。そんで煙草の火を消して無言で黒い方のファイルを受け取りゆっくりとその中身を捲って()()。気持ち的にもはや()()ではなく()()だ。

 そしてマスターの予言はファイルを開いて九ページ目で当たってしまう。


「イルザ・()()()()・テンペスト? ……えっ”リッター”? ”リッター”!?」


 読み進める事五ページ目。そこにはなんと今日学園の教室で会ったイルザ先生の写真が飾られており、しかもそこにはこの国の騎士団組織のトップである円卓十三聖典にのみ名乗る事を許された”リッター(Ritter)”の称号が付けられていた。


「円卓十三聖典の序列第九位って……え? ……えっ? 二つ名が【殺戮の鬼心】……? てか他の円卓十三聖典を差し置いて一番危険度が高い評価なんですけどッ?」


 読み進めていくにつれて顔の表情筋が小刻みに痙攣し始め、極めつけは彼女に付けられた【殺戮の鬼心】の二つ名が研究会からではなく味方の騎士達が付けたってのが一番の驚き要素であった。


「ウケるわよねぇ。研究会でも彼女に捕捉されたらとりあえず絶対に助からないから自害しましょうって謎の暗黙が出来た程よ」


「いやあの……私そんなサーチアンドデストロイが売りの人の生徒になったんですけど?」


 救いの視線を込めてマスターを見上げると、まるで宝くじに高額当選した友達を羨む人みたいな顔とテンションで私を見下ろした。


「でも彼女滅茶苦茶人気高いの! エロくてカッコいい。エロくて強い。エロくてイケメン。エロ過ぎるミラ・ジョ○ォヴィッチ」


「いや最後は駄目でしょう。あれ以上色香が増せばゾンビだって昇天(テクノブレイク)しちゃう」


「じゃあエ○ダ・ウォン」


「変わってないッ! 3Dから2Dに変わった以外変わってないッ!!」


「研究会での彼女の呼び名は”ザ・ボ○”よ」


「会社が変わった!?」


 パトリオットで撃たれて”Resident Evil Main Title Theme”が流れてない大丈夫!? エンドロールに”版権”とか書かれてない!?

 と、一人焦ると流石に最後は冗談だと笑うマスター。でもこちとら全然笑えません。なんせ前世で一度フォントでトラブった過去があるから。


「んっ……ふぅ」


「お、良い飲みっぷり」


 とりあえず乾いて口内を酒で潤し、引き攣って痙攣していた口角を無理やり通常に戻して話を進める。


「元とはいえそもそもなんで円卓十三聖典様が学園の教師を? しかもAAガレッジならいざ知らず、最底辺のNガレッジ? 味方を百人殺戮したって処罰は高校の遅刻処罰程度でしょう?」


「騎士の命かっる! まぁ騎士なんて腐る程いるから実際その通りなんだけども……はい。今の疑問の答えはこっちにあるわ」


 そう言ってマスターは灰色のファイルを渡してきた。

 中身を確認するとそこには一ページ毎に一部切り取った新聞の記事が張られており、すぐにこのファイルが彼女――イルザ・リッター・デグレチャフの関連記事が集められたファイルだと気づく。


「……ん! 電撃辞職?」


 受け取ったファイルを読み進んでいくと今までで一番大きい新聞の切り抜きに目が留まる。記事の見出しには"イルザ・リッター・デグレチャフ! 僅か一年余りでリッターを返上!? 予期せぬ電撃辞職の真意とわ!!"と、書かれていた。


「辞職の理由は未だに明かされていないわ。任務で負傷したって記事もあったし、理想と違ったから辞めたとか……あるいはこの国の闇を知ったからとか」


「本人に確認は?」


「出来なかったわ。彼女自身何も言わなかったし、国と騎士団が彼女への真意確認を禁止したの。勿論それを破った馬鹿は居たわ。……公開処刑されてそのまま一週間吊し上げられちゃったけどね。まぁ良くも悪くもそのお陰で電撃辞職で起こった騒ぎは急速に沈下した。彼女が栄えあるリッターに着任した時は一週間位新聞で騒がれていたけど、辞めた時は三日程度で新聞から彼女の名前が消えたっけなぁ?」


 と、マスターは懐かしみ、そんなマスターに鋭い視線を飛ばす。


「研究会の見立ては?」


 表の情報源が駄目なら裏の情報源だ。悪の組織の質ってのは情報網の広さと正確性がものを言う。クロード大陸どころか世界で一番大きい犯罪組織である十の智慧研究会の情報網は伊達ではない。

 ――と思っていたのだが、マスターはその首を縦ではなく横に振った。


「残念ながらあっちも駄目。相手が相手だったから研究会も本腰入れて探ったけどからっきしで終わったわ。一応彼女が与えられていた任務から察してこの国の闇を知ったって事で片付いたわ」


「闇ねぇ……わっからん」


 研究会から始末しろと言われた騎士ならいざ知らず、家がある国だろうが知らぬ存ぜぬを決め込んでいた私にはわからない。前世でも日本の政治やら軍事やらには興味がなく国民の義務と言われた確定申告さえ親頼みだった。


「彼女については珍しい魔境帰り組ってのと、基本の戦闘スタイルが騎士にあるまじきステゴロって以外はほぼ知りえなかったわ。――そだ! 折角生徒と教師の関係になったんだからちょっと聞いてみてよ! 案外、酒を入れてゲロらせるよりも安全で簡単かもよ?」


「……や、止めとく」


 戦闘スタイルの所が引っ掛かったが迷いなく横に首を振る。案の定「なんで?」と返答が帰ってきたが、私は特に意味はないというスタンスを表に出しただ一言「めんどい」とだけ伝えて心では”知らぬが仏(くわばら)”、”触らぬ神に祟りなし(くわばら)”と危惧しながら新しい煙草を咥えた。


「全く……その無駄で面倒な事は一切しませんよ~ってスタンスは相変わらずね? そんなんじゃ折角の学生生活が台無しよ? 会社勤めのリーマンと違って無駄が許されるのが学生生活。部活然り長期休みの宿題然りってね?」


「……ふぅ。それ、共感出来る大人は何事にも全力に慣れない夢見勝ちな残念大人ですよっと。――まぁ、あとは自己改竄した過去に夢見る事も未来を想像する事も辞めた灰色人生を歩む大人位くらい」


「あらそれって持論?」


「まぁ……うん。社会人復帰するまでのね? 社会人復帰してからはそんな事考える気にもならなかった」


 3Dアニメーターで食べていける自信が付き、心身共に多少の余裕が生まれても考える事は常に同じ事。金銭面による生活と将来への不安だ。


「お金が無ぇ、金目も無ぇ、彼方(税金)此方(年金)グールグル♪ って事ぐらいしか当時を思い出せんねもう」


「病んでる……って言いたいけど、その歌に共感する人が大多数いる筈だから何にも言えないわ」


 そう辛い過去を思い返す風を装ったマスターは酒が入ったグラスを、虚しい気持ちで満たされた私は煙草の煙を身体に注ぎ込みタイミングを揃えて口を開いた。


「「前世の話は辞めましょ」」


 と、煙草からグラスに持ちかえてマスターのグラスとかち合わせた。

 そうして軽口愚痴と、話せなかった旅の思出話をしつつ日付が変わる前に微酔い状態で帰宅したのだった。

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