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第五話。‐王立第一騎士団付属学園‐

 王立第一騎士団付属学園。

 スコッティ王国の軍事。王族の威厳と国家を守護する第一騎士団が管理するこの国で一番大きく最も高貴で栄えある全寮制の学園。一般市民の生徒の他にこの国に存在する貴族の過半数の生徒に同盟国に友好国の名高い貴族出身の生徒が在席している。

 そして私の様な市民権の持たないスラム街の人間の入学を認めている数少ない学園の一つであった。私はそんな恐れ多い学園に市民権を持たないスラムの人間でありながら高額な学費を一括払いで終わらせた自由生徒として約四年間通い、今は復学目的で訪れているのだった。



「はぁ」


 と、私は母に形見とも言える仮面の中で白い吐息を漏らしながら学園の市民権を持たない人達専用の窓口、その9番目の窓口に並ぶ長蛇の列に並んでいた。


「長い」


 本当に長い。王都から汽車で約三時間の長旅に加えてこの列に並んで約四時間の計七時間。真上にあった太陽は夕陽へと傾き、その夕陽さえも落ちようとしている。

 内心しょうがないと自分に言い聞かせながらも、急に前の人間が帰ったり最悪急に死んだりしないかなぁ……と、願わずにはいられない。

 ――いやホントに!? コミケじゃないんだから……。

 

 ちなみにスラム街の住民の入学希望者数は毎年5000人を超えている。その中で学園に入学できるのは抽選で選ばれる300名~500名であり、今よりも長い長蛇の列が発生する。皆、学園卒業で貰える市民権の為に真冬の夜を何日も超すのだ。学園での生活が地獄とわかっていながら、だ。


「あと二時間」


 いけるか? と、窓口が閉まる時間を確認しながら一歩、また一歩と前へ進んでそしてようやく窓口が閉まる約二十分前に自分の番が回って来た。


「お願いします」


 並ぶ前に予め今日の要件を書いた用紙と、王立第一騎士団付属学園の生徒であった証明書である生徒手帳を窓口の役員に渡す。


「復学ね……この書類にサインを」


 と、物凄くやる気を感じられない窓口の役員が出してきたのは復学時の学園労働の誓約書だった。その誓約書の復学金の欄には役員の手書きで50万シーラと記入されており、私はバックから誓約書に記入された50万シーラを取り出しす。そんでもって誓約書を少し前に押し出してその上に金を置いた。


「……ッ!? か、確認しますっ!」


 窓口の役員は、一瞬自分の方に押し返された誓約書の上に置かれた紙幣の存在に呼吸を忘れる程硬直し、数秒後には目の色と口調を変えて目の前の紙幣を数え始めた。


「――はい、確認しました! ……こちらの書類にサインをお願いします! ……あ、こちら朱肉です!」


「ありがとうございます」


 相手には見えないだろうが、仮面越しで優しく微笑む。

 前の人達には朱肉は出さずに自身の血を使って指印しろと目で訴えていたくせに、今は困惑が顔に出た下手な笑みを浮かべて指に付いた朱肉を落とす用の紙を持って待機している。


「――はい、終わりました。学園には明日から復学出来るんですか? あと担任も教室もそのままで?」


 この学園には日本の様なクラス分けが無い。クラス替えも無い。飛び級か落第しない限りは入学から卒業までを同じクラスメイト、担任、教室も変わる事がない。


「はいそうです! 担任は――はい! 担任だったリオク先生は一昨年に定年を迎えて退職。今は……!? イルザ・リッ……い、いえ! 後任はイルザ先生と言う女性騎士様です」


 窓口の役員は魔水晶と呼ばれる前世で図書室の検索機と同じ役割を担っている水晶を使って私の担任を調べた途端、役員の表情がギョッと固まりそれを誤魔化すようにまたぎこちない笑みを浮かべた。


「おや女性の騎士様ですか?」


 と、目の前の役員に問いを飛ばしたが、役員はなんの返答もせずにその身体を少し震わせていた。

 成程。あの様子から察するにまともな騎士ではない、と。まぁ一般のクラスじゃなくて私の様なスラム出身者が集まる最下層のクラスに飛ばされるんだ。まともでない訳ない……軍法違反を犯したものか失敗してはいけない任務で失敗したのか、はたまた仲間殺しを犯した殺人鬼か。――低俗だが、女性なら痴情の縺れもあり得るかも?

 っとと、下衆の勘繰りは止めておこう。仮面有無に関係なく初対面の印象が最悪になる。


「わかりました。イルザ先生ですね?」


「あ、はい! ご提示されたこの生徒手帳とこちらの書類をイルザ先生に渡して貰えれば復学完了です。一時限が始まる前に書類を渡せばその日の内に新しい生徒手帳が貰える筈だと思います!」


「わかりました」


 返却された生徒手帳と共に渡せれた新しい書類を受け取って列から離れる。


「……あ」


 帰りの道中、最短距離で帰ろうと学生時代によく使っていた学園敷地内の人通りの少ない道で背が私のお腹までしかないやけに小さい学生とぶつかった。

 

「ッ!? あっ……ッ……アッ!? ……んっ……」


 その小さな身体に合わない嗚咽を零し、子供のくせに大人顔負けの絶望の表情をさせながら青ざめていた。

 恐らくこの子は私の事を一般生徒だと認識しているのだろう。実際この小さな生徒が着ている制服はボロボロで私のは年季が入っているが比較的綺麗。しかもこの子と違って自由生徒の私は胸元の無の校章(スラム生徒に支給されている制服には校章が無い)を周囲に見せる義務がない為に制服の上に着ているポンチョコートで無の校章が隠れている。

 結果、この子は一般生徒にぶつかってしまったと思い青ざめているんだろう。残念ながら人権は市民権を持って初めて行使される。もしぶつかったのが私ではなく一般生徒だったのなら十中八九殴る蹴るの暴行があったかもしれない。実際にこの子が着ている制服がボロボロな理由がそう。きっとその制服を脱がせば身体中痣だらけの痛々しい身体が見えてくる筈だ。

 

「……」


 優しい言葉も気遣う言葉も一切掛けずに無言で横へずれる。


「……(コクリ)」


 小さい学生さんは私が横にずれたと分かり、足元に散らばった教科書や書類を拾い上げてから大きく一瞥して素早く私の横を抜けていった。


「……ま、たった二年で無くならないし変わらないよね」


 と、明日から復学する学園の校舎を見上げる。

 あそこは貴族や才ある学生が通う学舎。学歴、家柄がものを言う階級社会。そこに金、家名が無いスラム出身者は多額の学費を労働と言う対価で支払い学園の消耗品として酷使され続け、生徒達からは良いストレス発散の捌け口にされる。

 過剰過多な労働は当たり前。幼い子供には暴力を、中学年に上がれば暴力プラスに陰湿なイジメが始まり、高学年に上がればそれら全てが加速する。

 学園に携わる数多くの教師や生徒達にとって私達は踏み潰してもまた勝手に生えてくる雑草と同じ、淀みに漂う泡沫の様な存在。それをわかっていながらスラム出身者の彼等は逃げ出さないのだ。例えどんな仕打ちが待っていようが、彼等にとっては卒業で貰える市民権が何より大事な事だから。


「……」


 まぁ、スタート地点が違う私にはどうあっても理解できない心情ですわい。


「……帰ろっと」

 

 あの小さな生徒に抱いていた多少の同情をあっさり切り離し、夜になりかけている薄暗い帰り道を何処か懐かしみながら歩く。そして帰りの汽車に乗って帰り、自宅に着くなりシャワーを浴びずに埃臭いベットの上で眠りについた。

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