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第三話。‐遥か遠い思い出の品々‐

「でかしたわっ!」


「おうともー」


 イエーイ、と興奮したマスターとハイタッチを決める。

 正直な話、私が今世の故郷に帰ろうと思ったのはマスターが好きだと言っていた日本のお酒を見つけたから。そして同じ日本人であったマスターと一緒に旅で集めた日本の味を味わうため。……と、今までの感謝の気持ちが少々。

 追記だが、この転生したこの世界には生前の世界にあった文化が普通に存在している。この世界は上手い感じに生前の文化と今世の文化が入り混じっているのだ!

 まぁ一つ一つ疑問を抱いてしまったが最後、ゴキブリの如く湧き出してきてしまったので世界構築の概念には触れない事にしました。マスターもノイローゼになりかけて私と同じ結論で片づけたとの事。


「お米に海苔、スルメ、栗に昆布に縁茶の茶葉とそして梅の種に梅干しに――」


 カウンターに敷かれた新聞紙の上に並べたお土産の最後に目玉商品である酒を自信満々にカウンターの上におく。


「梅酒っ」


「でかしたわ真白ちゃん! 本当にでかしたわ!! しかも梅三昧なんてちょっとマジ最高なんですけどっ!?」


 本当に嬉しそうにお土産の品々と私を見るマスターに少々視線を横にずらしてしまう。


「梅酒と出会えう前に、他にも見つけたんですけど、如何せん消費期限やタイミングが……」


 旅先で出会えた日本の味達を思い出しながら少々申し訳ない気分に陥る。なんせ梅酒を見つけるまでに出会えた日本の食べ物や飲み物は今カウンターに並べた品々の倍はあったから。


「旅の期限を決めていたら土産物は敷かれた新聞紙を出た量になったんですよねぇ」


「そんなの別に構わないわよ。土産物は形のある物だけじゃないもの。形の無い旅先の思い出話だって立派で極上の土産物なのよ」


「! ……ふっ、梅酒を我が子のように抱いた姿で言わせても説得力は半分位しかありませんよ」


 まぁ、でも……うん! その半分位で感じていた罪悪感は消えた。

 もう40代だというのにマスターが相手だと妙な安心感が生まれて頭が上がらない。これも親と子の年齢差が原因なのか、それとも人とのコミュニケーションを限定していた己のせいかはわからないが、前世にもマスターの様な年上の人と出会いたかった。


「早速飲みましょう。梅酒は二本買っておいたので、一本は遠慮なくいきましょう」


 鞄からもう一本の梅酒を取り出してその栓を取る。

 ほのかに香る梅の匂いが鼻と舌をくすぐり、頬を少し緩ませながらマスターに用意してもらった新しいグラスに梅酒を注ぎ込んだ。


「――うん。やっぱり旨い」


 梅特有の酸っぱさの後にほのかに感じられる甘さがベストマッチした舌触りに鼻を抜ける梅の香り。辛い梅酒も好きだったけど、やはり好んで飲むんだったら甘味を感じられる梅酒が良い。


「んっ……んっ…………ぷはっ! 乾いた魂に染み渡るうっ!! もう一杯!」


「そんな慌てなくとも……あぁまた一気」


 二杯とも風呂上がりのビール感覚で飲み干すマスターに静止の言葉を掛けたが、一向に聞き入れて貰えず、酒瓶の中身が三分の一程に減ってようやく両手に持っていた酒瓶とグラスを置いたのだった。


「あらまぁ……二分足らずで中身がラベルの下までに減っちゃっいましたよっと」


 何故か同じ物を一週間掛けて飲み切った旅の思い出が無性に虚しくなった。


「梅特有の酸味が強くあれどほのかに感じられる甘さが良い感じに緩和してくてるわね? 旅行先の鹿児島で飲んだ梅酒を思い出させる味をしているわ。確か、あの夜は白い雨が降っていたわね……」


「え? 酔ってます? どっち?」


 しっかりとした感想の後のボケ……あ、酒ではなく雰囲気(ノリ)で酔ったのか。てかあんた生まれは鹿児島でしょうがっと。


「さぁ真白ちゃぁん……旅先での色恋話を聞かせて貰うわっ! 先に言って置くけど変な誤魔化しなんて小賢しい真似は止めなさい? なんたってその顔付なんだもの!!」


「顔……ねぇ……」


 ふと目を落とした飲み掛けのグラスの水面に映った私の顔が薄っすらと映る。視線を外そうにも何故か水面に映る自分に目が離せず仕方なくそれをかき消す様にまだ半分程残っていたグラスに零れる程の継ぎ足しを加え、一人色恋ネタが大好きな親戚のオジサンの様なテンションで絡むマスターに対して土産物の昆布を咥えてその昆布を指で弾く。


「生憎と色気より食い気ですよっと。故意に変わる事を拒絶し続けた結果が私なんですからねっと」


 それからは普通の飲み会。飲んで食べて話して聞かされて――そして普通に酔いつぶれる。

 旅に出る前の自分、生前の自分では考えられない体験をして私は今此処にいる。前世で久しく忘れていたこの胸が満たされる幸福感――その中心にきているのは生への満足。諦めていた事、出来なかった事をやり切った達成感からくる充実感だ。

 

 あとはそう――生前の様な唐突に終わるか、許容範囲内の終わりを迎える事だけだ。望めるのであれば微睡の中で現と空想とを行き来しながら眠る様に逝きたいね。

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