第二十四話。‐身に覚えのないツケの支払い2‐
「ヴェッ――!?」
血と酸味の匂いが充満する異常な教室内に殴り飛ばされ、教室の床に転がる前に違うクラスメイトによって容赦なく踏みつけられる。
「グッ!?」
「危ないなぁグエン。今のは直撃コースだった」
と、私を踏みつけて止めたクラスメイトは笑顔でそう言って私を踏み越し、私を殴り飛ばしたクラスメイトの元に歩み寄った。
「なっ……これ、はっ」
自由になった身体を無理やり動かしてすぐさま金品が入ったバックを抱えて起き上がると、見間違いで合って欲しかった悲惨な光景に言葉を失う。
男子生徒三名が真下の床に血の水溜りが出来てしまう程ボロボロの状態で宙づりにされ、女子生徒二名の内一名がバケツに顔を突っ込んだまま動かず、もう一人は床に横になりバケツ内の嘔吐物だと思われる液体で顔を汚されていた。
「え……えっ?」
よくよく見てみれば彼等はAガレッジの一般生徒。しかも私とそう歳が離れている訳でもない。だったらコーティングが使えるはずだ。武器も全員身に着けている。どうなっているんだ!?
「おー流石あの糞教師のお気に入り様だ。今のパンチはそこそこ本気だったんだがな」
「いやいやアレ、魔装の力っしょ!」
「そうそう。あんなやつ魔装が無ければボッチの負け犬じゃん!」
私を殴り飛ばしたグエンと呼ばれたクラスメイト筆頭に私を野次を飛ばして嘲笑う。クラスメイト全員、私が知る以前の彼等では無くなっおりその自信に溢れた勝気な顔付に激しく困惑する。
本当に私が自宅に引き籠っていた一週間に何があったんだ――? いや、今はそんな事よりも此処から逃げなくてはッ!
「っ……なっ!? ンギッ――!?!?」
それは窓を割って逃げようと身体を反転させ、抱えていた金品の入ったバックを投げようとした瞬間だった。
頭から全身へ伝わる程の衝撃に私の視野が激しく点滅。そのまま視野がチカチカしたまま全身の力が抜けて教室の床に崩れ落ちる――。
「だから逃がさねえって」
と、遠くで誰かの声が聞こえたが視野の点滅は収まっていたものの視野はボヤけたまま回復せず、また聴力も先の衝撃でキーンと鳴り続けている耳鳴りのせいで聞き取れない。
でもそんな状態は二度目である事を床に倒れて直ぐに思い出し――。
「あ? なにもうダウン? 最新世代の魔装ってこんなもんなの? ……なっ!?」
聴力が回復してはいないものの発音で気が緩んだ瞬間を狙って上半身を起こす。魔装のお陰で思考の乱れはない。だが初見にイルザ先生の手によって魔装の【戦闘継続】を体験していなければ素面でいられなかった。
「ッ!」
窓を何としても割る! 割って身体が動くなら逃げる。動かなくとも窓ガラスを割れば誰かが来てくれるっ! と、信じて起き上がりざまに金品の入ったバックを再度掴む。
――が、バックを掲げた瞬間素面だった意識が唐突に波紋の様に揺れ広がった。
「なっ――」
頭が揺れるぅ? なにこれぇ……。
と、貧血による眩暈や急に立った際の立ち眩みとは違う意識障害によってダラダラと涎を垂れ流し、肘ごと腕を地面に付けて全身を震わせる。流石の魔装と言えど免疫が無い未知の攻撃には滅法弱い。
「いっ……たひ……コレッ……はぁ……」
真下に涎の溜りを作りながらもなんとか周囲を見ようと顔を上げる。
「へい大将油断大敵っすよ? まぁあっしも思わず全力で音波をぶつけちまったっすけど!」
「わりぃわりぃ一生を捧げたレベルの死んだ振りだったから油断しちまった。……あー何度かお前のそれを喰らったがやっぱり頭がグワンとくるなぁ?」
「っ……音……波ァ……?」
何やら楽しげの会話内に出てきた音波と言う単語を辛うじて聞き取る。
今、音波って……でもさっきは無音だった。……無音……波……音波攻撃……ポ○モン……バ○ト……音技……! 超音波かッ!!
だが待て? 蝙蝠が出す人間には聞こえない音波を当てたと? 動けず涎を垂れ流すレベルの強い音波を? ……それっておかしくないか? だって彼等は普通の人間だ。歌手ですらない。そもそも人間に無音の音波なんて出せるはずがないっ。
「おら立てよ」
「ぐっ」
答えが出る前に胸倉を掴まれ乱暴に宙に上げられた。ボヤける視野で何とか目の前の状況を把握せんと目を細め、そして私を宙に浮かせているグエン君のその目に違和感を覚える。
「猫……?」
と、擦れながら声を絞り出す。クラスメイトのグエン君の目がおよそ人間の眼球を模して無く、前世に生息していた猫の様な縦に細い黒目であった。
「あん? なんだそれ? 寝ぼけてんのか? ……しゃーねぁな! 顔面に雷撃浴びせてやっからシャキッとしろや」
「や、やめっ……ピギュッ――!?」
彼の空いていた方の手が仮面に触れた瞬間、世界が再度激しく点滅して垂らしていた涎が泡へと変わる。
「――カハッ!?」
だが得体の知れない力に手心でも加えたのか、雷撃を受けた後は意識がハッキリとクリアになっていた。それでも身体の力が抜けたまま涎を流していたままだが。
「その力……魔術……か……?」
「あ? 知らねぇよ」
「知らないってそんな……グッ!? 待ってちょっと待ってッ」
胸倉を強く締め上げられ思わず静止の声を上げてしまう。彼等が私を嫌う理由は何となく想像出来るがそれでこんな暴力を受ける筋合いは無い筈だった。だってそもそも彼等とは余り干渉しては来なかったのだから。クラスメイトの枠が無ければ赤の他人と言っても過言でない程私と彼等に接点はなく、特に私を苦しめているグエン君とは全く接点はない。会話どころか目を合わせた事すらないのだ。
「話を聞いてッ! お願いだから話をっ」
と、必死に懇願するも逆に彼の加虐心を刺激したのか更に締め上げる力が増して笑みを浮かべられてしまう。
「……えっ? ちょ、ちょっと待ったッ!?」
そう私達の近くに来ていたらしい一人のクラスメイトが唐突に叫ぶ。
「グ……グエン……? これ……」
と、そのクラスメイトは私達にではなく床に置かれた私のバックの中身に視線を落としていたのだった。
ストックが底を尽きました。来週から週一投稿となります。




