第一話。‐育ての父‐
スコッティ王国。
ここクロード大陸にて五大国家の一つに数えられる国家であり、氷鉄の女神スカルディと契約した神都国家である。
その歴史は400年と長く現女王で第22代と続き、かのクロード大陸の覇権を掛けた戦い――人族対魔族の戦争に参加した記録がある。
そんな古きに渡る歴史を持つスコッティ王国は氷鉄の女神スカルディと契約している為に夏以外は雪とオーロラが見え、クロード大陸随一の鉄と鉱物資源を保有。そのお陰で国を守る騎士団の装備は強力の上に常に潤っており、軍事力は五大大国の中で一番巨大で強力とされている。
生憎と帰国した今は初夏の手前らしく雪は降っているがオーロラは見えない。それでも私は故郷の綺麗な星空を見上げながら王都の東地区にある懐かしいお店の扉を潜って二階へ上る階段を上りドアを叩いて開いた。
「ども」
「あら」
「ども!」
「あら!」
「どもっ!」
「誰なのッ!?」
「What's!?」
今のやり取りからまさかの展開に度肝を抜かれた。そのせいで思わず欧米人に転生してしまったよ。
「どうもお久しぶりです。ジョンドゥです。……あ、マスターの場合は真白白の方が思い出しやすいですかね?」
腕に掛けていたポンチョコートを近くの椅子に置き、鼻まで隠していたマフラーを外して素顔を曝け出す。
生まれ育ったスコッティ王国の王都に帰還して真っ先に入った酒場。一階とは違い会員様限定の二階にて新聞を読んでいるバーテン服を着たオネェ口調の男に頭を下げると、読んでいた新聞を投げては間髪入れずに可愛くない悲鳴を上げながらカウンター越しに抱きついてきた。
「うっそひっさしぶりじゃない!? しかもなんか雰囲気柔らかくなっちゃってもぅ! うんうんおかえりおかえり」
「マスター痛い痛いです。あと普通に男臭くて気持ち悪いですよっと」
口ではこう言っているが、気持ち悪いの後に離れてと言わなかったのはやはりマスターと再会できてうれしいからだろう。気を抜けば目元を刺激する熱が涙腺を溶かし尽してしまいそうだ。
「真白ちゃんだって少し匂うわよ! 初めて会った時から言ってるでしょう? ちゃんと毎日、出来なくとも最低四日に一回はお風呂に入りなさいって」
「あぁ~懐かしいですね? 確かに言ってた言ってた」
マスターの背中を数回叩いて抱き着くマスターを引きはがす。
酒屋”ジパング”のオーナー兼マスター。本名不明、年齢不明(でも中身は私の両親世代だと思う)のオネェ。前世関連で確かな事は鹿児島県出身と、マスターの父の代で廃れてしまったらしい剣術一族の出であると言う事だけ。
二回り以上離れた年上でしかも口調がオネェ。前世なら苦手意識全開で絶対に関わり合いにならないだろう相手を前に私は自然体の笑みを浮かべていた。
「真っ先にマスターに会いたかったので、家に帰らずにこっちに来ました」
「あら! 嬉しい事言ってくれるじゃないの!!」
再び抱き着こうとマスターの手が伸びてくるその瞬間にっ、
「丁度煙草を切らしてたので」
「うっそでしょアンタ!?」
さっきの欧米人化の仕返しとして飛んできたボールをキャッチではなくバットでフルスイングする。
マスター? あのWhat'sにはそこそこ魂が籠ってましたよっと。
「……ふふ。まぁいいわ」
そう言ってマスターはカウンターに叩きつけた手を戻し、二階の唯一の出入り口であるドアに終了と書かれた看板を掛けてドアを閉めた。
「お酒はまだ飲みませんよ? 色々と見せたい物や話したい事があるので」
「それは私だってあるわよ? 真白ちゃんがこの国を出ていた約二年間で私の周りは大きく変わったもの。それに伝えておかなくちゃいけない事もあるしね?」
カウンターの向こう側に戻ったマスターを前に、カウンターに無造作に投げ置かれた今日の新聞に大々的に張られている戦場を撮った写真に指を置いた。
「確かに変わってましたねぇ……。まさかクロード大陸平和条約が破棄されたとは……色んな所でドンパチ戦争しとるわ、そのせいで検問やら入国禁止やら盗賊やらでスコッティに帰って来るのが大変でしたよって」
滅多に読まない新聞を見下ろしながら生まれ故郷のスコッティ王国があるクロード大陸に帰って来て一番に驚き、しかも最初に驚いた事を口に出す。
ちなみにクロード大陸平和条約とは、ここクロード大陸上の全ての国家が争う事を放棄し共通の脅威である魔境大陸エルサドバドルの脅威からこのクロード大陸を守る為の条約の事。それが私が旅に出ている最中に無くなり今や色んな所で戦争状態。
「まぁ旅に出る前から五大大国のどっかが条約から離反して、それに釣られていく国々があるとは思っていましたけどまさかそれを大きく上回るとは思いませんでした」
「それはほら……塵も積もれば山となるって事よ。200年間、クロード大陸平和条約のせいで小さな問題が積りに積もってたんでしょうね? 前世でも色んな平和条約が合ったにも関わらず火種は絶えなかったでしょう?」
「結局は感情ですか……人間、世界が異次元で違っても変わりませんね?」
「変わらないのは……っと」
マスターは二つグラスを用意して会った時から愛用しているスキットルの中身を注いでその片方を手渡す。
私は渡されたグラスを受け取りキンッ――と、マスターのグラスと打ち合させた。
「酒の旨さよ……乾杯!」
「乾杯!」
まだ酒を飲むつもりはなかったが、この場の雰囲気に負けてマスターと共にグラスの中の酒を一気に飲み干した。
うん……ウン……ぅん? ……うん……あはっ!
「これ駄目なやつッ!?」
辛い痛い気持ち悪い!? そして何よりも喉が焼ける様に熱いッ!?
口を押さえながらトイレに駆け込み飲んだ量より多くの吐瀉物をぶちまけたのだった。




