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第十五話。‐爆弾‐

「生徒会執行部及び夜会委員会!」


「「「!?」」」


 私を入れた15名のクラスメイトより多い数の生徒達と身なりが良い騎士三名が窓のガラスと廊下に出るドアを破り映画で見る特殊部隊による総突撃の様な瞬間を作り出す。


「プランC! 目標1、2以外に例のモノを飲ませろ!!」


 教室に響き渡る騒音に負けない声量で教室に侵入してきた生徒会執行部と夜会管理委員とやらに指示を出すロータス卿。下されたオーダーに従い教室に侵入した二つの勢力が手早く動き、イルザ先生に騎士が三人、私にも生徒が三人、他のクラスメイト達には一人につき二人が接近。


「? ん――」


 急速接近してくる三人から伝わってくるのが殺意で無い事を経験上の直感で察知し、とりあえず座ったまま両手を上げて抵抗の意志が無い事を相手三人に姿勢で伝える。


「そのまま動くな。座っていれば危害は加えない」


 と、三人の内の一人の泣きホクロが第一印象の男子生徒が私の首筋に短剣を付き立てながら警告し、残りの二人が左右に散って私に向けて魔術を唱えて待機した。

 座っていれば危害ない。その言葉を守り目の前の男子生徒から視線を外して周囲を見回すと、言葉一つで例えるなら『狩り』が行われていた。


「! まっ――ヴッ!?」


 と、あるクラスメイト女子は二人組に退路を断たれ問答無用に二人の内の一人に洒落にならない威力のパンチを腹に受ける。またあるクラスメイトは顔面に膝蹴りをもろに喰らってそのまま教室の床に叩き伏せられる者もいた。

 そうしてクラスメイト全員が血やら涎やらを撒き散らして大人しくなった所をもう一人に拘束され、黒い何かを強制的に飲まされ首元に全身金属製の四角いチョーカーを付けられる。


「ンブュッ!? ……オベッン……ッオエェェ」


 無理矢理飲まされた黒い何かの喉越しがすこぶる悪かったのか、一人のクラスメイトが嘔吐する。

 ――が、床に溜まった吐瀉物の中に飲まされた黒い塊は無かった。自分以外のクラスメイト全員に吐き出し不可の黒い塊を飲ませ終えると、私と先生を拘束する生徒と騎士以外はロータス卿の元に集まった。


「今飲ませたのは魔境大陸エルサドバドルから研究の一環で持ち帰った”ギィフル”と言う危険害虫の卵だ」


「「「!?」」」


 飲まされた黒い塊の正体を聞かされてクラスメイト達が動揺する中、ロータス卿の指示で一人の上半身裸の男が四肢を拘束された状態で私達の目の前に運び出されてきた。その男の首元にもクラスメイトと同じチョーカーが付けられている。


「この者は娯楽処刑用の死刑囚だ。この死刑囚にも先の卵を飲ませてある」


「ほぉ……私の目の前で悪夢を再現しようと?」


 ”ギィフル”の名前が出た時から鋭かったイルザ先生の目付きが更に鋭くなりその凍てついた視線でロータス卿を射抜く。


「向こうでは悪夢でもここでは趣味嗜好が多彩な方々にとっては娯楽のショーだ。……やれ」


「おい待て!」


 と、イルザ先生がロータス卿に近づこうと動いた瞬間、先生を拘束していた騎士の一人が腰の剣を抜いてイルザ先生に突き立てた。


「お初にお目に掛かる。貴公がリッターの職務を放棄した事で女王陛下から円卓十三聖典序列第九位を賜ったリファル・リッター・アステリアだ」


「へぇ……呪いと天罰が下された私の後釜が神に愛された氷帝様とはな」


 冷気を纏う剣に目を落として皮肉そうにほくそ笑むイルザ先生。

 氷帝――正式名所は氷帝教会。

 この国の神であるスカルディに認めら、スカルディの力の一部を貸与えられた者達のみが会員に為ることを許された中規模ながらも多大な権力を持つ国教組織。

 私の知りうる情報では氷帝になる際にスカルディから直接渡される神具の美しさで貸出される神の力が決まる。アステリア様がイルザ先生に突き立てている神具であろう剣はファンタジー系のアクションゲームに出てくる王家の剣のように美しく、纏う冷気で神秘さを際立たせておりこんな状況じゃなければ素直に見とれて体内時計を止めているレベルの代物であった。


「勝てぬ相手なれば無駄は省きたい。……が、貴公が下がらぬならこの身と我が人生を掛けてお相手する」


 機械的な喋り方で淡々と言葉を並べていくアステリア様と氷を貫きそうな鋭い視線を向けるイルザ先生。以外にも先に動いたのはイルザ先生だった。


「1つ聞く。私がやらされていたゴミ処理は、今お前がやっているのか?」


 と、何かイルザ先生からアステリア様に質問が向けられると、彼女はほんの少しの間を空けて突き立てた剣を腰の鞘に戻す。


「それは貴公にはもう関係の無い話だ」


「……そうか」


 剣を鞘に戻す前の間で何を見たのか、イルザ先生は憐れむような意味合いの笑みを薄っすらと浮かべ、遂には常時発生されていた刺々しいオーラが薄れる。そしてチラリと私に視線のみを向けて一歩前に出した時より大きい一歩で後退した。


「やれ。シューの開幕だ」


 後退し、壁に凭れて両目を瞑ったイルザ先生の姿を確認したロータス卿から短い合図が飛び、眠らされていたのかずっと沈黙を決め込んでいた死刑囚の男の身体が動く。

 死刑囚の男は今自分がどのような状況にいるのか解っていないのか、それとも薬か魔術によって身体に力を入れ辛くされているのか、頭部を左右にゆらゆら小さく揺らす程度の動きしか見せなかった。


「……ぅぇ……あぁ……? グェッ!?」」


 口の拘束具を外された次の瞬間、一人の男子生徒が死刑囚の髪を乱暴に掴んで顔を天井に向けさせて、首元のチョーカーに指で魔力を流す。


「ゴホッ! ……な、一体ッ……なにヲッ」


 ソレは、用途を終えたチョーカーが四散し、乱暴に髪を放された死刑囚の男が顔を自ら上げた瞬間だった。


「ヲッ!? ……ォヲッ? ……ヲアッ!? ……オヲオォヲオヲォォォォ」


 死刑囚の男は喉がイカたと思わざるおえない程の奇声を上げ始める。そして死刑囚の男が自身に取り付けられた拘束具を引きちぎんばかりに暴れ始め、先のロータス卿が口にしたショーが始まってしまった。


「はは腹ににになな何かがががッ……ガッ!? ……うごうご蠢いてててて」


 死刑囚の男の腹が波の如く脈打ちながらみるみる大きく膨らみ、遂に死刑囚の着ていた布一枚が腹から破れる。

 と、晒された腹部の脈打ちが収まりソレは――ソレ等は姿を現した。


「あ……ぁあ……? なんかぁ……生まれてるぅ……? ……はっ……あはっ…………アハハハハハハ」


 ぽつりぽつりと死刑囚の膨らんだ腹から小さな穴が空き、そこから細くて黒い何かが姿を現し始める。ソレはミミズに似ていると思ったが、本能が日本にいたミミズよりも転生前の世界に生息しているどのミミズよりも悍ましくて危険だと訴えていた。


「うわぁ……」


 あれが魔境大陸エルサドバドルから持ち帰った”ギィフル”か……確かにイルザ先生が止めに入ろうとしたわけだ。極悪人だってあんなものを見せられればトラウマになる。


「なんだこれおもしれぇなぁぁああハハハァ……あ? ……あっ!?」

 

 死刑囚の男は私よりも遥かに高い危険信号が発生しているらしく気が狂い笑い始めるのだったが、腹を食い破って出てきた”ギィフル”の幼虫共が自身の身体を這って上って着ている事に気が付き運悪く正気を取り戻してしまう。

 男は「上がって来るなよっ! ふざけんなっ!!」と必死に息を幼虫共に吹きかけてたが、その努力虚しく幼虫共はどんどん男の頭部目指して這い上がっていく。


「んぶっヴェッ!?」


 顔まで到達し”ギィフル”の幼虫共は生みの親である死刑囚の口、鼻、耳――仕舞いには腹を食い破って出てきた時と同じように頭を食い破って体内に再侵入していく。


「”ギィフル”の主食は”脳”。まずこの様に宿主となった生物は一番最初の餌となる。……ふむ。久々に見たが、中々見ごたえがある」


 ロータス卿の歪んだ感想に彼の周りにいる生徒達が賛同する。中には口が裂けるんじゃないかと思わせる満面の笑みを浮かべる者達もいて、そんな目の前で繰り広げられている異常な光景にクラスメイト全員の表情が黒よりも黒く、暗黒よりも漆黒面へと堕ちる。

 その中の一人が隠し持っていた短刀を取り出して自分の腹に突き刺そうとしたが、


「《促すは形の無い一撃=空擊(クウゲキ)》」


 魔術による見えない攻撃を脳天に受けて無力化され、そのまま気絶させられた。


「第一王女の為に貴様等に自殺と言う逃げ道は取らせない。もしも一人でも自殺者がでようものなら貴様等の大切な者達がこの死刑囚と同じ道を辿らせる。あと、わかっていると思うが逃げられると思うなよ? ――もういい氷壊しろ」


 ロータス卿の指示が飛び、嗚咽と不規則な痙攣を繰り返していた死刑囚が魔術により全身が瞬時に凍りつきドライアイスの如く白い霜を垂れ流して自壊した。


「”事の始まり、始まりによる原因、原因による結果、結果に辿り着く為の俺が導き出した解答”――それ全てを知りたいのなら元リッター様と手塩に掛けて育てている貴様等のクラスメイトを見るといい」


「っ!?」


 一点に自分に集まった死人の視線に一秒すら堪えられずに顔をロータス卿に固定して逃げる。


「9:1だ。9がイルザ女史で、1が貴様だ。終始に渡り第一王女の遺恨を買ったイルザ女史の責任と、今日此処で一度ならず二度までも俺を不快にさせた貴様の責任だ」


「――Whats? あ……えと……あの、私なにかしましたでしょうかです」


 針のむしろ状態での身に覚えのない罪状に思わず言葉が少し狂ったが、次の瞬間その少しを大いに悔いる状況に叩き落とされた。


「んっ!?」


 心臓が跳ね上がり息を呑む。無言のままロータス卿にまるで肉親を殺した憎き復讐の相手のような眼光で睨らまれて重度の殺意がこの身体を突き抜けたからだ。

 あぁ、今まで確かにそんな目付きで睨まれても仕方が無いことを少なからずやって来たが、それはあくまで母の多額の延命治療の為にと割り切れていた。あまつさえ私は正体を隠し、別の名前を名乗れていたからこそ私は仕事モードの人格面のみで受け止め慣れる事が出来たのだ。

 

 だが今は仕事モードの人格ではなく、割り切るに至れる理由は何一つ持ち合わせてはいない。それ故、私は呼吸を忘れたまま肺に残った空気を使って言葉を絞り出して謝罪の言葉を擦れながらに吐き出した。


「すみませんでした……以後、気をつけます。……っ」


 頭を下げなかったからかそれとも謝罪ではなく泣いて命乞いが正解だったのか、私が謝罪した瞬間に学園でも数人しか会得していない無詠唱+複数同時魔術行使、1つにかかる魔術陣の構築速度が第一騎士団並みと言う脅威のトリプルコンボで、六つそれぞれ違う魔術が私と泣きホクロの男子生徒に襲い掛かる。


「っ! なんっーー!?」


 襲い掛かる魔術から逃れようと動こうとした瞬間、泣きホクロの男子生徒によって阻害されてしまう。


「ギィッ!?」


 と、真っ先に直撃した雷撃で夏によく聞く虫の金切り声に似た断末魔を上げながら2、3、4撃と続け様に食らって私の身体が吹き飛ぶ。自業自得だが私の回避行動を阻害した彼は残り二発を受けて私と同じように吹き飛ばされた。


「ングッ……な、なに……がっ……っ!」


 魔装のお陰で気を失うこともなく、雷撃による身体の痺れは脳から身体に送られてくる信号に少しラグが発生する程度まで即回復する。そのお陰で二回目の同時魔術攻撃から間一髪で逃れることが出来た。

 ――が、そんな私にロータス卿の憎悪が加速する。それはもう高速道路を走る車から空を疾走する戦闘機並みに。


「何で意識がある? あまつさえ動けてどうして全てを避けられる? 何故ごみ溜めの住人である貴様が魔装を着ているんだ?」


「「「!?」」」


 魔装の単語に周囲の視線がより一層集中する。あのアステリアと名乗る女性騎士でさえ私を見ていた。


「しかも第四世代。出所はイルザ女史だろ? それ以外に考えられん」


「っ! ……なっ!?」


 話の方向が不味いと判断してこの場から逃走しようと窓を見たが、既に私を動けなくしていた三人の内の一人が窓の前に待機しており、もう一人が反対側の廊下側に待機。二人とも先程私と一緒に吹き飛ばされた泣きホクロの男子生徒を気に掛ける素振りは一切見せずにこちらに意識を集中していた。


「ちっ」


 今、両手を上げて膝を付いてもあの二人は教室の床に転がる泣きホクロの彼を助ける事はしない。慌てた様子を見せずに真っ先に私の退路を封じたのが良い証拠だ。

 私は舌打ちをして常備している痛み止めを急ぎ彼に飲ませる。残念ながらこのファンタジー世界であってもゲームに登場するポーションなどといった便利な回復アイテムは存在しない。前世のモルヒネの類が此方の世界のポーションだ。


「んっ……く……ふ……」


 痛み止めが効き彼は辛うじて保っていた意識を完全に手放す。最後に彼は薄っすらと目を開いて私に何かを伝えようとしたっぽいが、残念ながらそれを読み取れる状況ではない。

 私は気を失った彼から離れてロータス卿に見せつけるよう両手を上げて顎を引く。


「は?」


「あ」


 と、私の目の前まで来たロータス卿の手が私の仮面に触れようと伸び、無意識に私は一歩後ろへ下がっていた。


「それ……仮面を外して素顔を見せろ」


「――(スタ)」


 伸ばした手を翻してそこに仮面を置けと促し、私はそんなロータス卿の命令にまた一歩後ろへ下がる。今度は自分の意志で。

 

「貴様……スラムのゴミの分際でまた俺の命令に背くのか?」


「……」


 ロータス卿が私を睨み、私は仮面越しにロータス卿の顔を見続けた。

 ……また? と、その発言が引っ掛かり記憶を遡ってみたが過去、ロータス卿と関わっていたなんて記憶はない。人違いの可能性があると伝えようとした所、タイミング悪く差し向けられていた手が下がって場面が次に切り替わる。


「ならこうゆうのはどうだ? 仮面を外し素顔のを見せれば最低一人は助けてやる。素顔の度合い次第で助ける人数も増やしてやろう」

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