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第十三話。‐絶望の幕開け‐

ここからこの物語は始まります。

【夜会】――それは夏の終わりを飾る王立第一騎士団付属学園で開催される三大行事の一つであり、学園最強の生徒を決める血生臭くも英気に満ち溢れるフェスティバル。

 夜会の開催期間は三日間。二日目までは夜会管理委員会の一部のみが観戦可能で、一般観戦は三日目のみ。AAガレッジ、Aガレッジ、Nガレッジから選出された生徒達による全員参加のサバイバルゲーム形式で、AAカレッジからは将来有望視されている生徒が、Aカレッジは教師達が厳選した生徒が選ばれる。我々Nガレッジは立候補制で、人数が集まらなかった場合は学園側が特殊な技法を使ってNガレッジから金の卵かもしれない生徒を選定する。

 辞退は我々Nガレッジのみ禁止らしく、廊下でイルザ先生からその話を聞いてしまった私はイギリス人作家が書いた世界的大ヒットファンタジー小説の第四巻を頭に浮かべながら思わず額に手を当ててしまった。


「死人が出ませんか? それか優勝したと思ったら墓地に飛ばされるとか?」


 学園生活を疎かにしていた私にとって初めての学園行事。それがまさかそんな危険な催しものだった事に多少の頭痛を覚えながら隣を歩くイルザ先生に最低限の安全確認を問う。

 ちなみに私と先生は運悪く教室に荷物を忘れてしまい、それを取りに戻っている道中で、やたらと学園が騒がしく学園内を走り回る生徒達の姿を目撃したので「もうじき学園行事でもあるんですかね?」と、イルザ先生に聞いたみたのだ。

 そしたら丁度二週間後に話題の夜会が開催されるんだと。中身の説明を受けるまではニュアンス的に舞踏会の方を思い浮かべていましたよ……。


「? 墓地に飛ばされんし夜会による死人は出ない。参加者全員には学園の魔工機関に接続された第三世代の魔装が貸し出されるからな。魔装の外部魔力が切れれば即座に学園の貯蔵魔力に切り替わる」


「魔工機関?」


「魔工機関は学園の心臓部だ。学園全てに行き渡っている魔力はそこから来ている。後はセーフティーの役割もしているな。馬鹿な生徒が力に溺れないように魔術とコーティングの制限をしている。まぁ魔工機関に登録されないNガレッジ生徒には関係ないがな」


 なるほど! それなら魔工機関なんて単語を知らなくて当然だ。魔術どころかコーティングだって出来ないからね!


「先の続きだが、夜会はこの学園全てを魔術で模写した仮想結界世界で行われる。魔装の外部魔力が空になった時点で敗者となって結界から弾き出される仕組みだ」


「二重の安全対策。……それにしても参加者全員に魔装ですか」


 第三世代は第一騎士団が現役で扱っている代物だ。それだけこの夜会という学園の行事はスコッティ王国にとって重要だと言う事か。


「……うん? その言い方だと夜会後には死人が出るって事になるんですけど……私の受け取り方が間違ってますかね?」


 最初の”夜会による死人――”の件が頭を過る。聞き間違いや受け取り間違いだと思いたがったが、先生はその首を横に振らなかった。


「いや合ってる……筈だ。夜会に選ばれたNガレッジの生徒は初日に敗退をしてしまうと問答無用で退学なんだが、そのせいか極稀に自殺する生徒が出る。……んだったか」


「? 曖昧ですね?」


「悪いな。就任のタイミングもあって夜会は去年が初めてでな? 夜会後に魂が燃えて灰になったような生徒達が学園を去る所を遠目で目撃したが、自殺した生徒はいなかった。私の前任から話を聞かされていたが確証が無い分、少しあやふやな言い方になった」


「いえ大丈夫です。複雑な気持ちではありますけど……あ、じゃあ私がここに戻って来た時にクラスメイトが半数まで減っていたのは夜会で退学になったって事ですかね?」


 ずっと胸に刺さっていた小さな疑問を投げかけてみると、イルザ先生は少しだけ目を細めた。


「知らん。あいつ等に関しては本当に知らん」


「あ、はい。……あの、前から気になっていたんですけど彼等と何かあったんですか?」


 少しだけ今の話題を深堀する。

 イルザ先生は自分が受け持つクラスの連中を嫌っている。それはNガレッジ教員なら当たり前の事なのだが、イルザ先生に至っては少々度が過ぎていると思えてならない。その証拠に学園で強制労働中のクラスメイトを一緒に見かけると毎回ゾワッ――と先生から伝わってくる圧で背筋を撫でられてきた。


「……なぁ? 親鳥が雛に飯を与える瞬間をどう思う?」


「え? 普通に愛くるしい光景かと」


 突然の突飛な質問に戸惑いながら答えるとイルザ先生は心底気持ち悪い物を見たと言わんばかりの蔑んだ表情で私を見下ろしてきた。


「それが親鳥と変わりないすがただとしたらどうだ? 気持ち悪くないか?」


「……………まぁはい。確かに」


 どうでもいいと思いながらも表情を作って先生の意見に同調しておく。


「私はな? あいつ等に勝手に親鳥にされたんだ」


「それは……過去に何があったので?」


 と、聞いてみる。

 話の結果はまぁ確かに当時の先生の立場なら彼等を心底嫌う理由にはなる。私も今の先生の話でクラスメイト達の印象が卑怯姑息な日陰者と一気に下がった。

 他力願望の怠け者――それが私のクラスメイトの正体だった。


「ともかく私が来た時は既に今の生徒数になっていた。それに学園を去る要因は何も夜会だけではない。限界は幾度も突破出来てしまうが、その状態が長く連続で続けば心が折れる。夜会はあいつ等の心をへし折るターニングポイントの一つってだけだ」


「それはまたはた迷惑な学園三大行事ですねぇ……ん?」


 あはは、と他愛ない乾いた苦笑い浮かべると、偶然通りかかった教室から話題の【夜会】の話が廊下まで漏れ出てきた。


「夜会に出れる!? やったじゃん!」


「あぁ! これでずっと憧れていた騎士に大きく一歩近づけた気がする!」


「そうだね! それにもしも夜会の三日目まで生き延びたら直接第一騎士団からオファーが来るかも!!」


「それは……流石に……でも! 第一騎士団の騎士様に僕の戦いを見て貰えたら凄く嬉しい!」


「あはっ! 夜会は三日目のみ観戦出来るから尚更三日目まで生き延びないとね? 私にもカッコいい所を見せてよね! そしたら――」


 と、仲良さげな男女の会話を立ち止まって聞いていると、常時無表情で無機質のイルザ先生の表情に哀れみの様な感情が微かに宿った。


「無知は罪。憧れは無知よりタチが悪い”悪”だと思わないか?」


 急に振られた質問に少し頭を悩ませてふわふわと浮かんできた考えを口に出す。


「えと……騎士の仕事は国と国民を守る事。守る事は即ち敵を殺す事で……良くも悪くも人の命を奪う事……って事ですか……?」


「は? 阿保。騎士に憧れている奴が殺す行為に疑問を抱く訳ないだろ? 命令通りに殺せば評価されて周りから褒められる。助けた相手や一般市民に感謝もされる。騎士と言う殺人鬼はルールの上で殺し続ける限りは犯罪者ではなく正義の執行者なんだよ」


 そう言って先生は夜会の話で盛り上がる二人にチラリと視線を向け、すぐに何事もなかった風を装って一人先に歩きだし、私は慌ててその後を追った。

 向かう私達の教室で地獄の釜戸が開こうとも知らずに――。

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